ドラッグコートについて


 ドラッグコートは1989年にマイアミ州に初めて設置され、現在では全米に1000箇所近いドラッグコートが開設されています。また400をこえるドラッグコートの開設が準備されています。

ドラッグコートは違法薬物の自己使用や所持、アルコール・ドラッグがらみの窃盗・詐欺(非暴力犯)などで逮捕された被告を、通常の刑事司法の裁判手続きから離脱させ、依存症のトリートメントを提供することを目的にしています。これは何度、逮捕し刑務所に入れても効果がないという「回転ドア」現象に対する反省から生み出されたものです。

ドラッグコートに委ねられた被告は、1年から2年の間、コートの命じるトリートメント・プログラムに参加します。プログラムは自宅から毎日、施設に通う「デイケア」、週2、3回の通所をする「外来」などレベルはさまざまです。特に家庭に暴力やドラッグの問題がある被告や重度の依存のある人、ホームレスの人たちには入寮施設の利用が命じられます。これらのプログラムは固定的ではなく、コートのスタッフによって見直され、適切なプログラムが提供されるようになっています。これらのプログラムはNPOによって開設されており、連邦・州・市からの補助金や委託費によって運営されています。

ドラッグコートの利用者は、ドラッグを使わない生活が軌道に乗る(断薬3月が目安)とコートを卒業します。ドラッグコートは単にドラッグ・トリートメントを提供するだけではなく、ホームレスの人たちへのハウジング・サービス、仕事のない人への職業訓練などもあわせて提供し、更正がスムーズに進むように配慮されています。

薬物事件にかかわる、このようなダイバージョンの試みは米国だけではなく、他の国々でも実施されつつあり、非拘禁の社会内措置の拡充を求める国連の「東京ルールズ」にも合致したものであるといえます。

ドラックコートについては米国司法省によって10のキーコンポーネントがまとめられ、紹介されていますので、その翻訳を以下に掲載します。


1.ドラッグコートは、アルコールやドラッグのトリートメント・サービスを刑事司法システムの事件処理に統合します。

 ドラッグコートは、アルコールやドラッグに依存する被告に適切にコーディネートされたサービスを提供し回復を促進します。コートでの目的の達成は、裁判官、検察、弁護人、保護観察官などの司法関係者とサービス部門、TASCプログラム、評価者、地域のサービスプロバイダー、およびより大きいコミュニティの協力を含むチームアプローチを必要とします。

 刑事司法システムは、逮捕などを重要な引き金にして、人に影響するユニークな能力を持ち、トリートメントを始めて続けることを被告に決心させるか、強制することができます。研究では刑事司法システムによってトリートメントを強制された人と自発的にトリートメントを始めた人に違いはないことが明らかになっています。


2.敵対的ではないアプローチを使うことによって、検察官と弁護人は、被告の権利を保護するとともに、公共の安全をも促進します。

 トリートメントにおいて個人の進歩を容易にするように、検察と弁護団は、今までの伝統でもある敵対的な法廷での関係をやめ、チームとして一緒に働かなければなりません。いったん被告がドラッグコートプログラムに受け入れられたら、チームのフォーカスは、参加者の回復と行動に注がれます。

 検察官の責任は、個々の参加者がプログラムに適応して、すべてのドラッグコートの要件に従い、公衆の安全を保護する必要があります。弁護団の責任は、完全な参加を促進する間、参加者の正当な法の手続き的権利を保護する必要があります。検察官と弁護人は、不服従に反応するための法廷の調整された戦略について重要な役割を果たします。

3.ドラッグコートに適格な参加者は早く、識別されて、即座にドラッグコートプログラムに導入されます。

 逮捕は人生での外傷的なイベントであるかもしれません。しかし、それは目の前に危機を生み出し、否認をとりにくくして、アディクトを物質乱用の問題に直面させることができます。逮捕されてすぐの時期や保護観察違反での拘束などは、アルコール・ドラッグのトリートメントへの導入のチャンスを提供します。

 急速で、効果的な行動は刑事司法システムへの公的な信頼も増大させます。

4.ドラッグコートは、アルコール、ドラッグおよび他の関連したトリートメントと社会復帰サービスへのアクセスを提供します。

 ドラッグコートでは、トリートメントの経験は法廷から始まり、参加者がドラッグコートに関与しているあいだ続きます。ドラッグコートは、包括的なトリートメントの体験であるということもできます。治療チーム(トリートメント・プロバイダー、裁判官、弁護士、ケースマネジャー、スーパーバイザー、他のプログラムスタッフ)は、参加者の様子を報告し合い、個々の変化に一致して迅速に対応するために、頻繁で、体系的な連絡を維持するべきです。

 何よりも犯罪とAOD(アルコール、薬物)の使用に関連して、ドラッグコートは、乱用に伴う多様なニーズにも組み合わせて対応します。精神疾患、HIVなど性的感染症、ホームレスなどの問題、基本的な教育の欠落、失業、貧しい職業スキル、幼年期の性的虐待、配偶者などによるドメスティック・バイオレンスなど、の諸問題です。


5.断酒と断薬は頻繁なドラッグテストによりモニターされます。

 法廷の命令によるひんぱんなドラッグテストは不可欠です。正確なテストプログラムは、責任のための枠組を設立し、個々の参加者の進歩を正確に測定するもっとも効率的な方法です。現代のテクノロジーは、最近個人が実際にドラッグを使ったかどうかを知るために、非常に信頼できるテストを提供します。一般的には、アルコールの使用が、第一のドラッグの再使用につながることが認められています。

 AODテストは、ドラッグコート参加者のモニターの中心です。テストは、各自の自分自身の進歩について目に見える情報を与え、参加者をアクティブにし、サービスの受動的な受け手からトリートメントの主体にと変化を促します。


6.参加者の再発を防止するための戦略が工夫されます。

 AODトリートメントで確立されている原則は、アディクションは慢性疾患であり、再発は当然に起こりうるものだということです。アルコールおよび他のドラッグを持続して断つことができるようになるまでの薬物使用の減少のパターンは共通しています。アディクションの形成には長い時間が費やされており、多くの要因がドラッグ使用に関連しています。長い断薬の後にさえ、時々ドラッグテストで陽性と判明することがしばしば起こるのです。

 ドラッグコートは、ドラッグ使用および他の問題行動に、対応した戦略を打ち立てます。刑事司法システムの担当者とトリートメント・プロバイダーは、断薬を促進する一連の効果的な方法を開発します。


7.ドラッグコート参加者と裁判官との間に進行する相互作用はとても大切です。

 裁判官はドラッグコートのチームのリーダーであり、参加者をAODトリートメントおよび刑事司法システムにつなぎとめます。ドラッグコートは、裁判官に伝統的な独立性および中立性を越えて新しい専門技術を身につけることを要求します。ドラッグコートの構造は、早く、ひんぱんな司法による介入を重視します。ドラッグコートの裁判官は、適切な行動を促進し、再発につながる不適当な行動を回避させる事に留意しなければなりません。またドラッグコート裁判官はトリートメントの方法やその限界をよく知っています。


8.モニターと評価によりプログラムのゴールと有効性が測定されます。

 効果的なドラッグコートプログラムは、必要に応じて修正をする特有の柔軟性とはっきりと定義されたゴール、初期の計画、の結果です。プログラムのゴールは、財政当局や政策担当部局に、具体性をもって効果が分かるように説明されるべきです。

 評価は、プログラムの長期のゴールの成果を測定するために、データを集め分析するのは制度上のプロセスです。プロセス評価により、操作上のおよび管理のゴールと合流する時に、進歩は見積もられます(例えば、意図されているように取り扱いサービスが実施されるかどうかにかかわらず)。結果評価により、プログラムがその長期のゴールに到着する範囲が評価されます(例えば、犯罪の常習的犯行を減らします)。


9.スタッフへの継続した学際的な教育により、効果的なドラッグコートの設計、運営が促進されます。

 すべてのドラッグコートスタッフ、判事やシニア・ケースマネジャーだけではなくプログラムに関与するスタッフ全員が、教育と訓練を受けるべきです。学際的な教育により刑事司法に携わる職員はトリートメントの諸問題に気づき、トリートメントスタッフは刑事司法の問題に気づきます。それは、トリートメントと刑事司法の両者の価値を分かち合い、共有することでもあります。

 裁判官、法廷のスタッフは、全員が、アルコールやドラッグの問題について学び、トリートメントに関する理論と実践に学ぶ必要があります。逆にトリートメント・プロバイダーは、刑事司法の諸問題や法廷運営についてよく知る必要があります。そして誰もがドラッグテストについて理解し、精通する必要があります。


10.ドラッグコートと公的機関、コミュニティの組織の間のパートナーシップを強くすることは、地域でのサポートを発生させ、ドラッグコートの有効性を強化します。

 刑事司法システムの中でのユニークなポジションのため、ドラッグコートは、コミュニティベースの民間組織と刑事司法機関、AODトリートメント・プロバイダーの間の連携を生み出すことに、特によく適しています。そのような連携を成形することはドラッグコート参加者に利用可能なサービスを拡充するとともに、ドラッグコート概念をコミュニティに知らせることにもつながります。

 ドラッグコートは、公私の組織のパートナーシップであり、AOD問題をもつ被告へのコミュニティでの協調的なアプローチです。ドラッグコートは、責任を分かち合い、協力し合うプログラムパートナーの参加を育てます。またドラッグコートは、刑事司法システムについての公的な信頼を回復させることにも役立ちます。

(翻訳はフリーダム 谷口)

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