女性と薬物依存

フェミニストカウンセリングの視点から

 98年の大阪ダルク研修ツア−でヘイトアッシュベリ−クリニックを訪問しました。責任者が「薬物依存症は男女を差別してかかる病気ではないのに、クリニックを訪れる女性があまりにも少ないので、女性の薬物依存症者のリサ−チをしたら、彼女たちのニ−ズに応えていないことがわかりました」と、女性プログラムの必要性について話してくれました。男性と女性では、薬物依存症に到る経緯や回復へのニ−ズが異なります。そして女性のニ−ズを理解するには、この社会で女性であることがどういうことなのかを問うフェミニストカウンセリングの視点が必要です。

 私たちは知らないうちに社会の期待を自分の中に取り込んでいます。そのなかにジェンダ−役割が含まれています。ジェンダ−とは、社会・文化的に作り上げられた性差別のことです。例えば、女性に課せられているジェンダ−役割から派生した「女らしさ」の代表的なものとして、「他者に頼る」、「周りの人に従う」、「周りの人を思いやる」、「決断することが苦手」、「やさしい」などがあります。女性だから、「女らしい」のは当たり前と自分も周囲も思っていますが、女性は生まれつき「女らしい」のではなく、ジェンダ−役割を果たしているうちに、「女らしさ」といわれる心理的特徴を身につけてきたのです。

 女性に課せられているジェンダ−役割は、「他者をケアまたは補佐する役割」です。これにより、自分の評価をケアの受け手である他者に委ねることになり、他者評価に陥りやすくなります。また周囲に受け入れられるために高い評価を得ようとすると、他者の欲求や気持ちを常に察し、行動しなければならなくなり他者優先に陥ります。そうなると自分の感情や欲求を表現することに不安や罪悪感を感じ、感情や欲求を封じ込めなくてはならなくなります。このように、女性は自分の生活をケアの受け手に合わせて築くことを求められ、自分の人生に主体的に振る舞えません。そして自分自身に自分でOKをだすことが困難になります。

 主体的に振る舞えないということは、力を奪われているということです。この無力化された女性にはインスタントに力を与えてくれる薬物は魅力的に思えます。しかし力を取り戻したように感じさせてくれる薬物が、やがてはより力を奪う存在になるのです。

 女性の回復には、薬物をコントロ−ルできないが、自分自身や自分の人生を自分でコントロ−ルしていいんだ、できるんだという感覚を育てていくことが大切です。そうしなければ、薬物で解消したいと思っていた生きづらさがそのままになってしまいます。自分を束縛し生きづらくさせている「女らしさ」に気付き、そこから自分を解放し、「自分らしさ」を育てていくことが必要です。自分の感情や欲求を、他者のそれより優先してもいいことや、自分の考えや感情を言葉で表現していくことを学ぶことがエンパワ−メント(=奪われた力を取り戻すこと)につながります。

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