keimei main -> キハポスト@VRM -> VRMチップス -> 拡散と集中

VRMチップス〜拡散と集中

またまた、情景に関する精神論です。

A

B

▲まずは、問題:プラットフォームに人形を配置してみました。どちらの情景の方が優れていると思いますか?
A

B

▲では、もう少し単純な問題。どちらのデザインの方が効果的だと思いますか?(7号は未発売です、念為)

それぞれ好みもありますが、いずれもB(右側)を取り上げたいところです。なぜならば、拡散と集中の理論が使われているからです。最初の例では、左の絵(A)は人が漫然と立ち並んでいるだけですが、右側の絵(B)は一ヶ所に人が集中しています。如何にもそこに何かあるような気がしませんか?いうなれば生きている情景です。

拡散と集中というのは、元々プラモデルなどのディテールアップの手法です。実物をスケールダウンした模型に於いて、実在感を出すために使われています。つまり、模型全体に実物と同じようなディテールを施すのは無理・無駄が多いですし、却ってスケール感が損なわれます。そこで、模型の一部だけを徹底的にディテールアップし、残りは思い切ってデフォルメします。例えば、航空機の模型ならコックピット周りを緻密に再現し、翼は大きな平面をそのまま残した方が実在感が増します。鉄道模型ならば、足回りやパンタ周辺に凝ればそれだけでスケール感が出るといったところでしょうか。

さて、VRMでレイアウト、とくに情景を作成する場合にも、この拡散と集中理論を用いてみます。全体に作り込みを行ったレイアウトには以下のような欠点があります。

(1)レイアウト全体に緻密な作り込みを行うには多大な労力を要する。これは説明の必要はないでしょう。

(2)レイアウトを遊ぶ場合、疲れる。列車を運転して情景を眺めるにも集中力が必要です。どこもかしこも作り込んだレイアウトでは、鑑賞者が息を抜く場所がなく疲れるのです。

(3)さらに、鑑賞者はレイアウトのどこに注目すればいいのか分からず、その結果、作品を理解されない結果にもつながります。

拡散と集中を使うと‥‥‥例えば、単純なオーバルループの直線部分に駅を設置し、その部分は徹底的に作り込む。駅と反対側の直線部分も作り込みたい所ですが、ただ漫然とビルを並べるくらいなら真っ平らな草原にしてしまいましょう。つまり、草原の一様な面でレイアウトの広大さを、駅周辺の作り込みでその緻密さを表現するのです。これが拡散と集中理論の骨子です。

観賞者の立場に立つと、草原の部分で息を抜いてもらい、注目してもらいたい部分(駅周辺)で、鑑賞者にぐぐっと集中してもらう、という目論見があります。もちろん、作成側としても駅周辺だけに労力を集中すればいいので楽です。

別の見方をしましょう。現実の鉄道では、駅・鉄橋・立体交差などの見所は限られており、大半の部分は、大して特徴のないただの風景です。これを模型にデフォルメする場合、ついつい見所だけを寄せ集めてしまいますが、それでは現実感が失われる結果となります。デフォルメする場合にも、大して特徴のないただの風景をある程度残しておくべきです。最初のプラットフォームの例でも、ホームに人が均等に居るということは現実にはありえません。大抵、人は売店やベンチに集中しており、誰も居ない空間の方が大きい筈です。

応用例です。左は拙作マイクロレイアウトの1つですが、急いで作ったため手を抜いています。線路周りの情景を作り込むにあたって、赤丸の部分だけを作り込んで、後は何もありません。どこか一ヶ所だけを集中して作っておけば、全体としてそれなりに見てもらえるだろうという目論見です。
これは、拙作「Jupiter」のレイアウター画面です。比較的大きなレイアウトなので、赤丸部分が集中、青丸部分が拡散と作り分けています。赤丸の駅(?)周辺は作り込んでありますが、残りは木星っぽい地形に任せています。むしろ、異界の地の広大さを表現するためには、何もない部分をもっと広くとってもよかったかなと思っています。

拡散と集中理論には例外もあります。例えば、私の提唱するミニレイアウトの定義に「最小限のサイズに最大限の作り込みを行う」というものがありますが、これは拡散と集中理論と矛盾しますね。見方を変えると、拡散と集中を用いないでレイアウト全体に作り込みを行えるサイズがミニレイアウトだ、と定義することができます。

また、これは設置スペースや部品の予算に捕われないVRMでの話です。実際の鉄道模型では、限られたスペースに限られた予算を投入するわけですから、拡散も集中もへったくれもありませんね。

蛇足ですが、2004年のレイアウトコンテストでは、情景の表現力=作り込みを主眼にしているようですが、拡散と集中がどう評価されるかは保証の限りではありません。鑑賞者の息抜きの場所を作るなどと考えずにレイアウト全体を作り込んだ方がいいかも知れませんし、実在路線をデフォルメする場合、特徴のないただの風景をある程度残しておくのも必要かもしれません。