ファウンテンサービス

 
 

 翌朝、まだ時差ぼけの残る頭でヒロのダウンタウンに向かって車を走らせた。

  目指すファウンテンサービスは、ホテルから西に向かっていくことになる。

 いつも通りにケアヴェ通りの西はずれの駐車場に車を止めてから、店に向かい

 歩きはじめた。

  僕は、このケアヴェ通りが好きだ、店に行くときには、わざと数ブロックも離れた

 この駐車場に車を置いてから、歩いて店に向かうことにしている。

 多分昔はとても賑やかだったと思わせる街の佇まいと道の広さが、今はやけ

 に広く見える。しかしこの街をおそった2度の大津波のせいで、街の中心は郊外へ

 と移ってしまった、今ではそのたたずまいと大きさが逆に寂しさを感じさせてしまう

 ものがある。

  その上、ハワイでも有数の晴天率の悪さを誇る冬のヒロの天気も、寂しさを

 より強調させてくれる。通りをしばらく歩き、いくつかの交差点を過ぎ、両側に並ぶ

 街並が終わりかける四辻の角にその店はある。

  店は、実際にあるのか、無いのか、遠くから見る限りではまったくわからない、

 店の看板も確かにあるのだが、何年も手入れされずにいるため、ペンキも剥げ落ち

 良く見ないとそれが看板であるかさえもわからなくなっている。

  しかし、その店にとって看板を必要とした時はずっと昔に終わりを告げていた。

 今では、額に汗を流して儲ける必要もない店のオーナー夫婦にとって、店は昔からの

 常連のためと自分たちの健康のためだけにやっているのであり、今更新たなお客を

 呼び込む必要はまったくなかった。

  この店の常連は目を瞑っていてもこの店にたどり着ける連中ばかりであり、看板が

 あろうがなかろうがまったくもって問題はないが、ただひとつ、彼らにとって看板が持つ

 意味があるとすれば、、、

  それは今日もこの店は彼らのためにやっていて、今日も店の主人夫婦は元気だと

 いうことを確認できることであろうか、

  そのため、彼らは店に入る前に、通りに面したアーケードにぶら下がっている看板を

 確認し、ひとしきり感慨にふけってから店に入ってくる。

 そういったことを思い出しながら、店にたどり着いた。

  この店は、四つ角に面しているので、歩いてきた通りに面した入口ともうひとつ、

 湾に向かう通りの側にも入口がある。

  私はいつも通りに面した入り口から中に入ることにしている。

 私が入る入口正面と右手にはこの店が以前はグロッサリーストアとしてもやっていたことを

 思わせるショーケースがあるが、中の商品はもう何年も前からそこに居座ったままであり、

 商品というよりは、店の一部としてそこにあるのが当然であるように、佇んでいる。

  左手には、赤いデコラトップのカウンター、同じ色のカウンターチェア、カウンターの奥の

 壁には磨きこまれたハワイアンラウンドミラー、壁際にはアイスマシンや冷蔵庫が店の幅

 一杯に並んでいる、

  そして時々忘れた頃に、冷蔵庫のコンプレッサーが突然がたがたと音をたてて動き出し、

 まだこの店が現役であることを主張している。
 

  そういえば以前、昔のこの店の写真を見たことがあった。

 その時の写真と今ここであらためて見る店は、全体に古さを感じさせる以外は、置いてある

 カップの位置や守護のお札や厳島神社のしゃもじなど、細かい位置関係まで寸部違わず

 同じである。

  そして僕が入った入り口の左手には、昔は人だかりがしたであろうピンボールマシンが、

 ひっそりと来るはずのない客を待ちつづけている。
 

  そう、ここはもう何年も前から時間が止まっている。
 

  玉菜へ<comming soon)

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