賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ)のお話


今から 二千五百年ほど昔のこと インドの国に お釈迦さまという 偉いお坊さまがおられました。
お釈迦さまには 大ぜいのお弟子さまがおりましたが その中の一人に「びんずるさま」 という修行者がいました。
そうです。今は 本堂のわきで 赤い顔をして 静かにお座りになっている あの仏さまです。
びんずるさまは 毎日 熱心に修行に励んでおりましたが 困ったことに お酒が大好きでした。
お釈迦さまにないしょで、修行のあいまに ちびりちびりと 飲んでおりました。
あのえらいお釈迦さまのことですから、弟子たちの様子を 知らないはずはありません。
ある日 びんずるさまを お呼びになって、こう申されました。
「びんずるよ、私は お前が その酒をいつやめるのか いつやめるのかと ずっとみておった。しかし いっこうに 酒をやめる様子がない。 私にかくれて飲んでおるのを ちゃんと知っていたんだよ。
困っている人々を救おうと 修行している者が、そのようなわがままをしてはいけない。 いいか、こんど お酒を飲むようなことがあったら 私のもとから放り出してしまうぞ。」

それからというもの、びんずるさまは お釈迦さまのお言葉を守ろうと 大好きでたまらないお酒を ぐっと我慢しておりました。

日は どんどんと過ぎていきました。
その日は とりわけきつい「行」で びんずるさまは すっかり疲れてしまいました。
「ちょっとだけ。いま 一回だけ‥‥‥‥」
とうとう お釈迦さまとの約束をやぶって お酒を飲んでしまいました。
お釈迦さまの怒りにふれた びんずるさまは、お師匠さまのもとから、ほおりだされてしまいました。

「ああ あんなに お釈迦さまから お酒をとめられていたのに たいへんなことをしてしまった。どうしよう どうしよう‥‥‥‥」
いくら悔やんでも 今さら どうすることもできません。
そして ついに びんずるさまは 一大決心をしました。
「お釈迦さまのおそばに、おいていただけなくとも、自分で 一生懸命に修行しよう。いつか 人々の役にたつように‥‥‥‥‥‥」

何カ月もすぎました。
何年もすぎました。

その様子に お釈迦さまの怒りもすっかりとけて、本堂の外陣でならと おそばにおいていただけるようになりました。
そんなことがあって びんずるさまは、今でも 赤いお顔をしたまま 本堂のわきでおまつりされております。

びんずるさまは 痛いところを撫でると 癒してくださいます「なでぼとけさま」です。
瀬之堂のびんずるさまの おひざもとには、穴のあいた小石が たくさん積まれています。
「目が見えるように なりますように‥‥‥‥‥」
「耳が聞こえるように なりますように‥‥‥‥‥」
「痛い足が 少しでも良くなりますように‥‥‥‥‥」 と。


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