「ねェー、どうしたの?」
「………………」
 僕はテーブルに顔をふせたまま答えない。
「ねェー、なに、ふてちゃったのー」

 ヒデちゃんは、ちょっとかわいらしく、語尾をのばして云う。でも、ぼくは反応をしめさない。
 ヒデちゃんは、ぼくのつむじを、ひとさし指でかるくこづきながら、
「ホントに、どうしちゃったの?」
 って、心配そうに聞く。多分、くびをかしげているんだ。ぼくはそろそろ限界かなって思うけれど、とても顔をあげる気がしない。ヒデちゃんは、少し悲しそうな声になって、

「……わかったわ…もうわたしのことなんか……ほかの人のこと考えてるんだわ…そうなんだわ……」

 ヒデちゃんは、うっすらと、なみだをためて云う。
 ぼくは、ちょっと顔をあげようかとも思うけれど、今、そんな気力はない。

「しらない!!」
 ヒデちゃんは泣き出した。
「しらないわよ…アキラのことなんか……でも、いやだ。キライになっちゃ。ほかの人好きになってもいいから……ねェー…でもだれなの、そのひと…」

 ぼくはしかたなく、顔をあげ、ちょっとあきれたふうで、ヒデちゃんのぬれたひとみを見つめる。そして、ふふって笑っちゃって、かわいいな、なんて思っちゃう。

「まいっちゃうな、キミって」
「何があ…そんなこといって、ごまかすんでしょおー」

 ヒデちゃんは、ぼくの顔が笑ってるんで、またかわいらしく語尾をのばす。
ほかのひとって、そんなの何処にいるんだい。もう地球には。ぼくたち二人しかいないんだよ」

 ぼくたちは今、地下三百メートルのシェルターにいる。多分、もう人類はぼくら以外いない、この前の戦争から。
 でも、ヒデちゃんは云う。
「わかってるわよ。そんなこと……でも、心配なんだもん……」





ルシフェル2号掲載 昭和52年10月8日発行







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