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黄色く、瞬き一つする間黒く、そしてまた黄色く。 |
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前を行く車の テイル・ランプの赤さが妙に目にしみた 周囲の風景がすっぽり闇の中へ沈んでしまった夜のハイウェイ 規則的な間隔を置いて現われる街灯と前を行く車が まるで同じ所を堂々巡りしているかのような錯覚をきみに与えている 急がなくては そう思いながらも きみは何を急がなくてはならないのかを思い出せない ハンドルを握る手の中に ただきみの焦りだけがある やがて やっとのことで遠くの白い建物が見え始め きみはそこへ急いでいたこと そこが病院であったことを思い出す 信号が赤に変わった きみは仕方なく車を停めるが 心は逸るばかりだ 急がなくては ハンドルから手を離し溜息をつくと きみはいつの間にか病院の待合室の長椅子に座っている 声の方へ目をやれば 血の気の失せた蒼白な顔の友人が廊下の向こうから手招きをしている きみは立ち上がって友人の所へ駆け寄る 何をしていたんだ 遅かったじゃないか さぁ 急がなけりゃ奥さんが 友人は階段を駆け上がりながらそんな事を口にする 妻がどうしたんだろう? 病室は こっちだ 叫びながらきみの先を駆け続ける友人を見て きみは何かがおかしいと思う これは あれではないか? 何をしているんだ 友人は白いドアを指して きみを咎めるような目で見る このドアの向こうに妻が居るのか? きみは謂れのない不安を感じながらドアを開く 最初に 黒い山のように大きな背中が見えた その向こうにぐったりとしてベッドに横たわる妻の姿が見える シーツが血で真っ赤に染まっている 黒い背中が振り向いた 笑っている 熊だ 熊はゆっくりと立ち上がる 身長は優に二メートルを越すだろう その口もとから血が滴り落ちて唇がめくれ上がり大理石のように白い歯を見せて笑っていた どうしたんだい 遅かったじゃないか 熊はきみにそう語りかける 夢だ これは夢なんだときみは考える そうだよ やっと思い出したのかい 熊は楽しそうに身を揺する もちろん夢さ 気がつくと きみはエア・ロックの前に立っている 空気漏れを告げる緊急ランプの赤さが妙に目にしみた 急がなくては 薄れゆく空気の中で駆け出したきみの心の中には焦りが生じる 酸欠になると奇妙な夢を見るものだな 頭の中で そんな事を考えながら駆け続けていると やがて やっとのことで次のエア・ロックまで辿り着いた ホッとして きみはバルブをまわし始めるが 何故かそれはびくともしない ここのランプも赤く輝いている 手が痺れてきたので きみは仕方なく手を休めるが 心は逸るばかりだ 急がなくては 意識が遠くなって行く その時 誰かがきみの肩を揺すった 目を開くと きみはメインコンソールの前に座っている 肩を揺すっていたのは蒼白な顔をした友人だった 大変なんだ ちょっと通信室へ来てくれ 友人といっしょに駆けだしながら きみはこれが夢だと思う これは夢の中の出来事なんだ そうだろう? 友人が きみを咎めるような目で見る あたりまえだろう それより 通信室の白いドアの向こう側から笑い声が聞こえた きみはためらいながらも思いきってドアを開いてみる 二つの影が こちらを振り向く 一つの影は 黒い髪にきらきら光る黒い瞳の少女 もう一つの影は 鎌首をもたげてこちらを睨む 全長二メートルあまりの大蛇だ 遅かったじゃないかと緑色の大蛇が言う クスクスと少女が笑った 教えてくれ この夢は一体どういう夢なんだ? 少女と蛇は 一瞬めくばせをする わかっているじゃないか そんな事 蛇が馬鹿にしたように言う 少女は またクスクスと笑った 知らないふりをしたって駄目さ 教えてくれ 本当にわからないんだ 少女の笑い声が一段と高くなる きみは横断歩道で信号が変わるのを待っている きみが前へ進むことを阻む信号の赤さが妙に目にしみた 急がなくては きみは足踏みをして気を紛らわせようとする しかし 信号はなかなか変わらない 駆けだしたい思いは ずっと空回りしたままだ がまんできなくてきみは目をつぶる 瞼の裏に赤い世界がひろがった 心は逸るばかりだ 急がなくては その声に目を開けると きみは緑に包まれた公園の中に居る 目の前には蒼白な顔をした友人が立っていた 奥さんが大変なんだ 急がなけりゃ また夢なんだな もう うんざりだよ いつになったら目が覚めるんだろう? これは確かに夢さ 友人は咎めるような目できみを見る けれど現実で今起きている事でもあるんだぜ 現実に起こっている事って? それが知りたければ 友人は駆け出した きみは仕方なくその後を追う 友人は近くのアパートの階段を駆け上がった 奥さんは こっちだ 叫びながらきみの先を駆け続ける友人を見て きみは現実でもこれと同じようなことが起こったような気がした でもそれが何だったのか思い出せない 友人は白いドアをさして言った この向こうには何があるんだろう? きみはとまどいながらもドアを開く 最初に 黒い髪が滝のように腰までのびた少女の背中が見えた その向こうにぐったりとしてベッドに横たわる妻の姿が見える シーツが 血で真っ赤に染まっている 黒い瞳が振り向いた 少女はクスクスと笑っている その口もとも血に染まり 唇がめくれ上がって小さな白い歯の間からピンク色の舌がのぞいている どうしたの 遅かったじゃない 少女がきみに話しかけるが きみはどう応えたらよいのかわからない 少女は そんなきみを見てまた笑う かろうじて きみはかすれた声で聞いた 誰なんだい? よく知っている顔なのに思い出せないんだ どうでもいいわ そんな事 だって それは現実のことなんですもの ここは夢よ 関係ないわ でも これは一体どういうことなんだ? 今まさに水平線の彼方に沈もうとしている夕陽の赤さが妙に目にしみた きみは海岸の波打ち際に立っている 急がなくては 打ち寄せる波はきみにそう囁きかけた こんな夢から早く逃れたい 心は逸るばかりだ 急がなきゃ 声に振り向くと 長い黒髪の少女が立っていた あっちよ 少女はそこだけにポツンと建った白い家を指した 駆け出した少女の後を追って きみも風の強さを気にしながらもスカートの裾を押さえて駆け出した うまく走れない 息を切らせて きみはその家まで辿り着いた 少女が そんなきみの様子を見てクスクスと笑う ねぇ お願い 教えて この夢は 何時になったら覚めるの? 少女が きみを咎めるような目で見る お姉さん そんな事は聞いちゃいけないのよ それより さぁ その白いドアを開けなくっちゃ これで最後ならいいのに そうつぶやきながらきみはドアを開く 最初に緑色のスーツを着た男の背中が見えた その向こうにぐったりとしてベッドに横たわる友人の姿が見える シーツが 血で真っ赤に染まっていた 緑色のスーツが振り向いた 笑顔のその男は きみの夫だった その口もとからネクタイにかけてベッタリと血が付着しており 唇がめくれ上がって 不気味なほど白い歯が 真っ赤な口の中と著しい対照をなしている どうしたんだい 遅かったじゃないか? いやよ もういや こんな夢から早く覚めたいわ 現実はどこ? 現実では何が起こっているの? そんなに現実が どうしても現実が知りたいのかい? 笑顔のままで 夫はきみにそう聞いた ええ 現実がいいの あたし現実がいい 夫は笑顔で指をさす あのドアを抜けると現実だ 部屋の中にもう一つの白いドア あの向こうに現実があるの? そうだ 緑色のスーツを着た蛇が笑う きみは思いきってドアを開ける そしてきみは この文章を潜り抜けて現実へ戻った |
| きみの髪の毛が、彼の腕の神経節を探り当てた。海の思い出が一連の鎖となって彼の右腕を通り抜ける。なかば目覚め、なかば眠った状態で彼はそれをとらえるのだが、それは風にあおられた泡のようだ。左腕は逆に、さまざまな鉱物の集団に作用されているらしい。背中の大部分は、たそがれどきのさまざまな部屋のイメージを上下に積み重ねて保っている。 しかし、そうではない。それらのイメージをコントロールしているのは、きみではなくて彼の方だということに突然きみは気がつく。バイオノイド・エンジェルであるきみを逆に操ってしまうとは、いったいこの男は誰だ? 知りたいかねRYOU。教えてやろう。ただし、代りにに聞きたいことがある。私はロートレアモン伯爵。そして聞きたいことは夢の瞳のありかだ。 それらの言葉はきみの神経節を通じて直接きみに語られる。きみはその名を聞いて体中に怒りが満ちるのを感じた。ロートレアモンはきみの中でクスクスと笑う。無駄だよ。きみは私に何もすることができない。悪夢を旅する人ロートレアモンの前にあらゆる夢は膝を屈するのだ。どのような夢も私が関与した部分は私の自由に変えられる。さぁ、夢の瞳はどこにあるんだね?知らない。知らないだって。そんな筈はないさ。夢の瞳がこの夢のどこかにあることは間違いがない。そしてそのありかを知っているのがきみであることもね。確かにきみの意識はそれを知らないかも知れないが、きみはこの夢の奥深くでそれを知っている。この夢がきみの中でそれを思い出せばよいのだ。さぁ、夢の瞳はどこにあるのだね。そんなものは知らない。知らないではなく、思い出せないだよ。どうしても思い出せないかね。知らないったら、知らないんだ。そうか、残念だな。この夢の安全装置が働いているのだろう。きみが思い出せないのなら、思い出せるようにこの娘は死なねばならない。いったいMIOに何をするつもりだ?きみにショックを与えて、きみの記憶の安全装置を解除する。死んでもらうのさ。きみの力を使ってね。ほら、こんな風に。 きみの髪の毛がきみの意志を無視してMIOの身体をまさぐり、きみの身体で作られた毒を送り込む。MIOの各神経系を遮断し、血行を悪化させ、代謝機能を狂わせる。きみは必死でそれを止めようとするが、指一本動かせない。きみの腕の中でMIOの身体は痙攣を始め、底が抜けた容器から水が洩れて行くようにMIOの身体から命が流れ去るのが感じられた。思い出せたかな。早く思い出さないと彼女が死んでしまうよ。知っていたら教えるよ。だから、止めてくれ。本当に知らないんだ。でも、きっと思い出すからこんなことは止めてくれ。あてにならないな。それにそれを待っている時間もない。今すぐにだ。無理だ、思い出せない! では彼女は死ぬ。この様に。言葉とともにMIOの身体から命の最後の一滴が流れ出してしまったのがきみにもわかった。MIO! ほら、死んでしまった。きみが自分の手で殺したんだ。さぁ、思い出せたかい? きさま、殺してやる!できもしないことを言うのは止めてさっさと思い出すんだ。最初の障害物は取り除いたからそろそろ思い出せる筈だがな。きみの怒りは空回りし、無力感がきみを捉える。MIOの眠るような死に顔を見ていると空しさと愛おしさが込み上げてくる。一見しただけでは名前を呼べばすぐにでも目を覚ますかのように見えるのに、残酷なことにきみはきみの髪を通じてそれが見せ掛けに過ぎないことを知っている。きみの力がきみにそんな錯覚を赦さない。そうか、それが次の障害物か。彼女の死に顔に見とれている時間はないぞ。さっさと思い出せるように死体の腐敗を早めてやろう。きみは、ロートレアモンがまたきみの髪の能力を使ってMIOの身体に細工をするのを感じたが、きみにはどうすることもできない。きみの髪はMIOの身体の中に細菌が繁殖するのに最適の環境を作って行く。MIOの眠るようなあどけなさを湛えた表情が、やがて時間とともに変化し始める。体温を生きていたときよりも上げた状態にしてあるために体内での腐敗が非常に早く進んでいた。水分を失ったまぶたが縮み、目が開き始めて、乾燥して生気を失いどんよりとしたMIOの眼球がきみに眼差しを返した。直接大気に触れていた、はみ出した腸は、黒ずんでこわ張っていく。顎が弛緩して、だらしなく口が開き、舌もまた黒ずみながら縮んでいった。どこから嗅ぎつけたのか、死臭に惹かれて飛んできた蝿が腸にたかり始める。しばらくすると口の中も蝿でいっぱいになり、舌に鈴なりになった蝿は口の外へ飛び出したり喉の奥ヘ入り込んだりしていた。腐敗が進んで体内にガスが溜まり、いったん縮んでいた腹が膨れ上がって、MIOの体型は今では餓鬼のようになっていた。腸は玩具の風船のようにコブを作って膨れ上がる。眼球は体内のガスの圧力に押し出されて、今ではピンポン玉のように眼窩からせり出している。出口を失った圧力はさらに高まり、眼球は急に引き上げられた深海魚の目のようにさらに外へとび出し、鼻梁の上をダリの絵のように歪みながら流れ始めた。どうだい、思い出せたかね?それともまだ続けるかい?やめてくれ。お願いだから、もうよしてくれ。まだそんな事を言っているのか。それならもっと良く思い出せるようにしてやろう。いやだ!もうこれ以上、‥‥‥。その時、きみはある一つの名前を思い出した。苦し紛れに、きみはその名を口にする。デュカス。夢を旅する人、デュカス。その名を聞いたとたんロートレアモンに激しい動揺が走った。瞬間、きみはロートレアモンの呪縛から自由になる。奴が、奴がこの夢に来ているのか!そうさ、ロートレアモン。私はここにいる。あわててロートレアモンから身を離したきみの目にその人物が飛び込んでくる。アイスクリーム売りのおじさん!デュカス、おまえも夢の瞳を追ってきたのか。そうだ。そしてこの夢を悪夢にはさせん。さぁ、それはどうかな。おまえとオレの力はほぼ等しいし、それに夢の瞳がどの夢に向かって開くか分からないからな。やってみれば分かるさ。不意に二人の間で世界が揺らぎ始めた。きみの腕の中でMIOがおぞましい死体から再び眠るように目を閉じた少女に戻り、その腕に抱えているものがはみ出した腸から花束に変わった。しかし、次の瞬間すべては元に戻っていた。二つの夢が闘っているのだ。そのことに気がついたきみはMIOを抱えたままデュカスの方へ駆け寄る。MIOの身体から悪夢が洗い流されて行く。きみの腕の中でMIOは息を吹き返す。横隔膜が動き、胸がゆっくりと上下することがわかる。MIO!きみの呼びかけにMIOの瞼がうっすらと開いた。それはロートレアモンの力か、晴れた空を稲妻が引き裂く。その光が反射してMIOの瞳が金色に輝く。
黄色く、瞬き一つする間黒く、そしてまた黄色く。きみは拭ったはずのナイフにまた血が染み出したのを見て眉をひそめる。 ひとり会話の外に取り残されたままハープとかげの言葉に不安を覚えたおまえは、焦って球形の虹にすり寄った。しかし虹は急速に収束し、空間上の点になると次の夢に向けて旅立っていった。後に残されたのは、ただおまえ一人。黒々とした闇の中に、魔夢の力が凝集する。おまえ、ただおまえだけがこの物語の中に取り残されている。自分だけは安全と信じ、覗き見をする傍観者のままでいられると思い込んでいるおまえだけが。おまえは私の存在を信じてはいない。私を絵空事だと思っている。私こそが真の実在であり、おまえの方がひと時の幻であるというのに。何者も私から逃れることは出来ない。この地上において最後まで生き延びる者はいないのだ。どれだけの喜びがおまえの人生にもたらされても、どれだけの哀しみがおまえの人生を彩ろうとも、おまえも最後には私の所へやって来なければならない。その時、おまえは私だけが真の実在であることを知るだろう。どんな時を過ごそうとも、一息毎におまえは私に近づいている。いや、もうすでにおまえと共にいる。何故なら、おまえがおまえの外側にあると思い込んでいるこの物語はおまえの中にしか有り得ないのだから。おまえの目の前にあるもの、おまえが読んでいると思い込んでいるものは、ただのインクの染み。紙の上に滲んだ、ただのインクの染み。その染みに意味を与えているのはおまえ。他には誰も居ない。この物語はおまえの中からしかやって来ない。紙の上には、実は何も無いのだ。それでも、書かれたものはおまえの外にあって人と共有できるものだとおまえは思い込んでいる。それが他人に示すことの出来る物質的なものだと。そんなものは無い。何故なら、おまえ自身にしたところで二度と同じ物語を読むことができないのだから。すべての瞬間に物語は変化する。一度目の読書と二度目の読書は同じではない。おまえは良く似てはいるが違ったものを読んでいるのだが、それが同じものだと思い込もうとする。どんな季節に、どんな年齢で、どんな環境で、どんな感情を持って読んでも、外部に実在する同じものだと。それはおまえの中にあるのだから、おまえがまだ読まない時には物語は存在しない。ただインクの染みが在るばかりだ。おまえが読み終わった時に、物語が終わるわけではない。それはおまえの中で、書き換え続けられるのだから。だから、おまえが怖れ、認めようとしないのはすべての瞬間がただ一度きりの体験だという事だ。本当は繰り返されることなど何一つとして在りはしないのだということだ。 やい、読者め!この赤い鼻の化け物め!怖けづいて、今来た頁を尻尾を巻いて引き返すがいい。そうでなければ、おまえはもう知っている筈だ。おまえこそ私なのだと。おまえの中で、おまえでない振りを、おまえの外に在る振りをしているものすべて、おまえ自身なのだと。本当におまえの外に在るものなど決して知ることは出来ない。もし知ることができたら、それはおまえの内にあるのだ。おまえの内に在って、おまえでない振りをしているのだ。おまえの振りをしているおまえも、本当はおまえの一部分でしかないのだから。ほら、おまえ以外にはもう誰も残っていない。 私のことをお忘れかな?馬鹿な!誰も居るはずがない。今のはおまえの分身の一人か?物忘れの激しい人だ。私ですよ。おまえは、あの黒ずくめの男。そうか、おまえもおまえでない振りをしているおまえ自身なのか。黒ずくめの男は首を傾げて頭を掻く動作をする。困りましたね。私は他者ですよ。私は、おまえにとって他者なのではなく、おまえとおまえでない振りをしているおまえにとって他者なのです。おまえはおまえの外に居るというつもりか?いいえ、そうではなくて、私は外と内にとって他者なのです。私はいわば空白と無にとっての他者であると同時に、他者にとっての他者、語り得るものすべて、知覚し得るものすべてにとっての他者なのですよ、ロートレアモン。その言葉に、おまえの深い処で記憶でない記憶が閃いた。おまえはまだ思い出すということができなかった頃の事を思い出す。その記憶は意識にとって時間が成立する以前からやってくる。
黄色く、瞬き一つする間黒く、そしてまた黄色く MIOの瞼が完全に開き、黄金色の瞳がRYOUに眼差しを返す。黄金色の瞳は、もう一つの瞳の上に薄い膜のように張られて浮んでいるように見えた。降り注ぐ光を反射して創られた黄金色の瞳はなんの表情も浮かべてはいないが、その黄金色の瞳の下から見え隠れしているもう一つの黒い瞳がRYOUの姿を認めて微笑んだ。 夢の瞳が、今ゆっくりと開く。開かれた瞳の中で、自分自身に抱かれている自分と自分自身を抱いている自分が同時に見えた。見るものは見られるものと等しく、見られるものは見るものと等しかった。MIOとRYOUは同じ一つの存在だった。MIRYOUは、この暗闇公園に眠る、開かれるべき無数の夢の瞳の存在を感じた。MIRYOUは魅了、それとも未了?
黄色く、瞬き一つする間黒く、そしてまた黄色く
乾いた空気の中を、笑いの黄金色の光を砕きながら、カモメのかん高い鳴き声が耳を襲う。ためらいの中で、そこだけ切り取られた笑いの眼差しは鋭い。光の針が、チクチクと皮膚を、瞳を刺す。
海中で黒い影が視野を横切る。目を凝らして見ると、それは黒く細長い。ゆらゆらと揺れる海草の中を宇宙船が静かに進んで行く。その動きに興味を持ったのか、大きなタコが素晴らしいスピードで海草を縫いながら宇宙船に追いついた。それはもう一つの宇宙船、あの古の化学燃料ロケットを思わせるような動きだった。まさか時間線が未来でもつれているわけでもあるまいに。
今、波が打ち寄せてきた時に水中から何かが飛沫と共に跳ねて輝いた。空中で銀色の身を半月形にくねらせたそれは、無数の透明な球となった飛沫と同じように一瞬空中でその身を静止させたように見えた。それからストップモーションをかけられていたフィルムが急に加速されたように岩の上に落ちる。
泡がはじけた。カニが横走りに哀しみの上を這って行く。正確なリズムで打ち寄せる眼差しに足元をすくわれることもなく器用にチョコチョコと走って行く。哀しみの上に、そのカニの残した点線のような小さな足跡が波に洗われながらもしばらくの間その存在を主張していた。
黄色く、瞬き一つする間黒く、そしてまた黄色く 夢の瞳は瞬いた。
(了) |