| 夜中、部屋の扉をノックするものがいた。俺が不機嫌気味に出てみると、そこに象がいた。 俺は思わずのけぞった。 「なんだお前は」 「象だ」 その象は真面目くさった顔でそう答えた。 「それは分かっている。その象がなんでこんな所にいるんだ」 「いては悪いか」 その言葉に、俺は少し言いよどんだ。 「いや、別にそうではないが…」 俺は、そう言いかけてあわてて訂正した。 「あっ。やはりいてはいけないのだ。なぜならそれはお前が象だからだ」 「どうして象ではいけないのだ」 「どうしてもいけないのだ。象は動物園かサーカスにいるものと決まっている。勝手に世間をうろついてはいけない。そういう自由は象には認められていないのだ。象に自由人としての人格があるはずがないではないか」 それを聞くと象は鼻で笑った。それは当然、長い笑いとなった。 「あたり前だ。象に人格なんぞあってたまるものか。あるのは象格だ」 「なるほど」 俺は納得しかかった。しかし、よく考えるとそうしてはいけない事に気が付いた。 俺はあわてて首を振った。 「この際そんな事は関係ない。ようするにお前は、こんな所でウロウロする事はできないのだ」 「問題はそこだ。どうしてそうなるのかが私にはわからない」 象は首を傾げ、むずかしそうな顔をした。その時、パトカーのサイレンの音が聞こえた。きっとこの象のためだろう。それはそうだ。こんな理屈っぽい象が野放しになったままでいる訳がない。 どやどやと騒がしくなり、警官らしいのと白衣の看護人らしいのがやってきた。 らしいというのは、それらしい服装をしているにもかかわらず、彼らが象だったためなのだ。 「どうも、ご迷惑をおかけしたようで」 警官らしい象が敬礼して言った。 「この象は、今朝早く病院を抜け出したんです。狂暴ではないんですが、ちょっとここがね」 彼は前脚で自分の頭をさした。 看護人の象が2匹、問題の象を両側からささえて、パトカーに押し込んだ。 「では、どうも」 警官も軽く頭を下げ、運転席のドアを開けて乗り込んだ。 やがて、サイレンの音がけたたましく鳴り始め、パトカーは夜の街の中に溶けて行った。 |
(どっちでも変わらへんやんか!) |