シリンクス音楽フォーラム 23
Magazines and Bulletins [2]


雑誌冊子(2)

Clavier


 日本にも「ムジカノーヴァ」や「ショパン」といったピアノの先生を主な対象とした雑誌がありますが、「クラヴィーア(Clavier)」はそのアメリカ版といったところです。月刊(年10冊)で48ページ、イリノイ州ノースフィールドのインストルメンタリスト・パブリッシング・カンパニーの発行です。

 おおむね毎号ピアニストへのインタヴューあるいはインタヴュー風の紹介があって、これがこの雑誌の看板記事のようです。今年登場したピアニストは、イアン・ホブソン(1月)、ダニエル・エリコート(2月)、クライヴァーン(3月)、デイヴ・ブルーベック(4月)、グラント・ジョハネセン(5・6月)、アルブレスク(9月)、ポリーニ(10月)といったところです。

 音楽雑誌によく載っている演奏家へのインタヴューは短いものが多く、儀礼的なものに終わっている場合も見られますが、クラヴィーアのものはテクニックや練習の問題などについての具体的な話も多く、なかなか面白く読めます。もっともポリーニは通例インタヴューに応じないようで、10月号のものも共同インタヴューらしく表面的な簡単なものです。

 この他、現存のあるいは物故した大ピアニストに関する記事(リヒテル、ブライロフスキー、カザドジュ)、比較的知られていないレパートリーの紹介(ボルトキェビッチ、スメタナ、マクダウエル、スカルラッティ、ゴッチョーク)、有名な先生のレッスンを受けた時の様子や思い出(スーリマ・ストラヴィンスキー、イジドール・フィリップ、ジーナ・バッカウアー)、ピアノの演奏や教育に関わる様々な問題(暗譜やコンクールのことなど)、ビジネスとしてのピアノ・レッスンの問題、大演奏家たちの写真ギャラリー、楽譜・CD・本の短いレビュー、更に、先生や生徒を対象としたアメリカ各地のサマー・キャンプやワークショップの一覧(約180件、3月号)、コンクールの案内やその結果など、なかなか盛り沢山です。

 全体として、批評的と言うより説明的でプラクティカルな記事が多いのが特徴ですが、内容的にはどの記事も一定のレベルを維持した手堅いものと言えます。これに比べると日本の音楽雑誌の記事は、筆者が自分独自の考え方を押し出すのをあせるのか、主観的、感情的なものが多く、知識や情報を得るのにはあまり役に立たないように思えます。「クラヴィーア」は装丁や表紙、記事の組み方など編集の細部にどことなく洗練されていないところがあるのですが、いかにもアメリカ的な実用性が好ましいところです。それに何しろ1冊2ドル(日本からの年間購読料は送料を含め24ドル)!です。 (井上建夫)

   アドレス:
     The Instrumentalist Publishing Company
     200 Northfield Road, Northfield, Illinois 60093, USA