このCDで聴くフェリシティ・ロットはシューマンとは別人のようだ。アラゴン Louis Aragonの詩による2つの歌、“C”ではeの脚韻をふむ詩の特徴を適確に伝える。さらに、“華やかな宴 Fetes galantes”の難しいパッセージを楽々とこなし、詩を語る部分を交え、メリハリのある歌に仕上げている。何よりも驚くのは、言葉に対する感性で、詩と音楽と声が一体となり、心地よく身体に染み入るようだ。ピアノも繊細で、各曲の対比が鮮やかである。
パスカル・ロジェはサティのピアノ曲集、プーランクのピアノ曲集などのCDを続々出していて、近代フランスのピアノ作品をよく取り上げている。ただ、ピアノ独奏曲でのロジェの演奏は、優等生であってプラスアルファの人を牽きつけるものが少ないように思える。プーランクの作品での歌曲とピアノ曲の出来の差かもしれないが、ピアノ曲で感じた物足りなさは伴奏では感じられない。“子供のための4つの歌 Quatre Chansons pour enfants”は子供のためと言いつつも大人のための洒落たフランス音楽を表現している。さらにこのCDはシェイクスピア“ヴェニスの商人”からの詩による Fancy(当然英語の詩)で終っているところが面白い。
プーランク歌曲集でフェリシティ・ロットを見直した私は、その後、フェリシティ・ロットの2枚のCDを聴いた。1枚はウィリアム・ウォールトン William Walton(1902-1983)の歌曲、他の1枚はフランス歌曲集−オッフェンバックからプーランクまで−である。共に伴奏はグラハム・ジョンソン。ウォールトンのものはプーランクのように、あるいはそれ以上に自在な表現力で私を魅了する。ウォールトンはイギリスの作曲家で、オードバラ音楽祭のためにいくつかの歌曲を作曲したということである。今後、20世紀の代表的な歌曲として、生き残っていく魅力を十分に感じさせる作品である。
Felicity Lott sings Schumann
Liederkreis Op.39, Frauenliebe und Leben Op.42, Der Nussbaum, Widmung, Mignon, etc.
Poulenc Songs
Montparnasse, La courte paille, Deux Poemes de Loius Aragon,
Trois Poemes de Louise Lalanne, Cinq Poemes de Max Jacob,
Quatre Chansons pour enfants, Airs chantes, Le portrait, Toreador, etc.
The English Songs Series : William Walton
A song for the Lord Mayor's Table, Facade settings, Anon. in love, etc.
Felicity Lott s'amuse
Offenbach: On s'amuse, on applaudit, Couplets du Souper, La perichole, Griserie
Bizet: La chanson de la rose, Chanson d'avril
Duparc: Romance de Mignon, Chanson triste
Satie: La diva de l'empire, Je te veux
Poulenc: Les chmins de l'amour
ほかに Chabrier, Faure, Chausson, Messger, Bernard 等の歌曲
さて、評者は少し以前にドーヴァー版の「イベリア」(“Iberia and Espana”)を入手していましたが、これがどう見ても音の間違いや臨時記号の間違いが多すぎて、とても使い物になりません。この版は、初版(パリのミュテュエル版、現在はサラベールから刊行)のリプリントで、ドーヴァー版以外でも大概の版は初版をもとにしているのでミスプリントに関してはよく似たものなのです。近代の作品でも、特にフランスの出版社のものはミスプリントや不適切な個所が多いようですが、これほどひどいものも珍しいでしょう。そこで、もう少しましな楽譜はないかと探したところ、意外にも日本から出ていました。
ドビュッシー C.Debussy 映像 第1集 Images, 1re serie
水に映る影 Reflets dans l'eau
ラモーを賛えて Hommages a Rameau
運動 Mouvement
田 原 昌 子(ピアノ)
Masako Tahara (Piano)
II ロシアの愛の歌
チャイコフスキー P.I.Tchaikovsky
君よ信じるな Op.6-1 Ne ver,moy drug
憧れを知るもののみが Op.6-6 Net, tolko tot, kto znal
私は野の草ではなかったか Op.47-7 Ya li v pole da ne travushka bila?
昼も夜も Op.47-6 Den li tsarit?