OGIVES IV, III, II, I
                         鯉杉光敏



  ノートルダム寺院。

  ゴチック芸術。

 

  神秘。中世スコラ哲学(広大な非現実世界の探究)。

  

   Tr`es lent.時間を殆んど無限に、一音が彼方の果てまで達

  してから、次の一音が発せられる。

 

   小節区切りが無い。完全和音。一打音の完全性、孤立。音は、

  ひとつ、ひとつ、宙の高みへ舞い上がり、拡がり・消えながら、

  その消えたところに、壮重な尖がった形象をつくる。



   厳しく拡散した空間。完壁なまでに空疎であること。



   音は、緊密なままに楽譜に閉じこめられている。それは想像力

  によって解き放たれねばならない。



   平坦な旋律線。しかし、ひとつひとつは、連らなりながらも、

  垂直に天の高みへ突きささろうとする。



   内部表出、そうではない、自己を滅し去ること。「あなた自身

  は、うつろになりなさい」。

 

   教会の本質は、虚天志向性にあり、それは、そびえたつ尖塔に

  具現される。サティは音によって尖塔を、次…次、と虚天へと上

  昇する、しようとする、重力へ(=現実)に抗う音の尖塔を打ち
       がらんどう
  建てる。己れを音・空洞と化すことによって。



   未可能でなく不可能の領域。このような作品がありえたという

  こと。



   あらゆるモノ・コトの非在。

          音だけ、だが音は刻々と消滅して

  ゆく、

     虚天に舞い昇る響きの残骸、かくて無、と無へ回帰しつつ

  ある虚在。

     音、消滅、一切、消滅……



  

  Welcome to Mitsutoshi Koisugi's Music Plaza



  引用源

  ・秋山邦晴「エリック・サティ」音楽芸術1969年4月号
    (引用:ノートルダム寺院、ゴチック芸術、完全和音、
      内部表出、あなた自身は)
  参考源
  ・松尾晴子「サティ マジィ ラヴィ」音楽芸術1966年9月号
         (1971・11・9〜1972・5・5)


  付論:OGIVES I への試み

   第一段・非常にゆっくり。ピアノ。ペダルなし。音は
  テヌートで大事に。音と音の間に長い非発音を入れる。
   第二段・よりゆっくり。フォルテ、一音一音強く叩く。
  ペダルは一音ずつに、一音の響きが消えると次の一音へ。
  しかし、消えるまでは鍵は押えておくこと。

   第三段・よりゆっくり。にもかかわらず旋律がわかる
  ようにやや早く。メゾピアノ。やわらかい音で。和音を
  楽しむように。ペダルは音と音のつなぎ目にのみわから
  ぬように使う。
  ソフトペダルは1/2で。
   第四段・無限にゆっくりと。フォルティッシシモ。
  音一音強烈に、叩きつけ同時にペダルを踏み鍵から手を
  即座に離しペダルを1/4まで上げすぐ深く踏み込む、これ
  を瞬時に行う(ハーモニクス奏法と私流に呼んでいる)。
  こうして虚音が宙に舞い浮かぶ、これが完全に消えるま
  で(つまり実際に消えた後も想像の及ぶ限り)ペダルは
  踏み続け、おもむろに離し、音が完全に残骸すら無いこ
  とを確かめ、そして次の音を舞い上がらせる。最後の虚
  音が消滅した時、一切は(無論あなたも)消滅している
  はずである。      (1971・9・10,72・5・1)


   ↓Erik Satie: Ogives Iの演奏がきけます。
      (4 min 11 sec; MP3形式: 128KBpsでencoded; 3.8MB)

   http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/kazamamusic/ogive1.mp3


   演奏:風間虹樹 Performed by Nijiki Kazama
   録音 Recorded 1996.7.14.; YAMAHA Clavinova CLP-123, Macintosh PowerBook 550c, FreeStyle 1.04J.
   使用音源 Sound source used: Roland Sound Canvas SC-88 Pro Piano1
   ディジタル化 Digitized 2006-5-12 with Pioneer CD recorder PDR-WD7 through Macintosh 7600/200 using FreeStyle 2.1J