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『話せる島記・外伝』

『第零章・話せる島』

『第十一話・転職試験』

さあ、その日がやってきた。

エルフ遺跡から一緒だったメイジのarameさん。転職試験を受けるってことで、同行することになったわたし。みんなと一緒にグルーディオ城の村までやってきた。一度解散して、翌日。集合時間に遅れないよう、少し早めにやってきたせいか、まだみんなは来ていないようだ。時間つぶしに、村の中に入って広場に並んでいる露店を眺めていると、ハックスから連絡が入った。

「城村に着いたよ。どこにいる?」

「えーと、今、村の中なんだけど・・・・ここじゃわかりづらいから南側の門の前で」

「らじゃー」

とりあえず買い物の用もないので急いで南門へ。ちょうどハックスと同じタイミングで到着。少しぶりの再会。「悪いねー」「いいよ、おもしろそうだし」とか話していると、業務課3号さんが現れ、次いでトロピ、おぃーーっすさんもやってきた。

それぞれ軽くあいさつを交わし、手持ち無沙汰にそのあたりをうろうろしたり、雑談したりしていると、Zwolfさんもやってきた。

「すまん、ちょっと用事が出来たんで、途中で抜ける」

到着早々、そう宣言するZwolfさん。なんでも、別の知り合いのお手伝いが入ったとか。お忙しそうな方だ。それでもメンバーは、ほぼ揃った。あとは・・・・

「arameさんがまだのようですね」

トロピが言うまでもなく、肝心な人がまだ来ていない。待ち合わせの時間まではまだ少しあるけど、みんなやる気満々みたいで、arameさんの登場を待ちわびている。その間をもたせるにもちょうどいい、と、ハックスのことをみんなに紹介しておく。すぐに打ち解けるまではいかないけど、お互いそれなりに馴染んではくれているみたいだ。トロピはともかく、他の人は結構人見知りするみたい。中でも当のハックスが一番よそよそしい。

「あ、きた」

ちょうど、みんなと向かい合う形で立っていたわたしの視線の先。そちらからarameさんが駆けてくるのが見えた。わたしの声と視線につられるように全員一斉に振り向く。

「本日の主役登場〜〜〜」

なぜか浮かれたわたしが先にそう言うと、arameさんは困った顔をして一瞬固まった。あちゃ・・・しまったか?、と思ったら、おぃーーっすさんが「おぃーーーっす!!」と元気な掛け声を一つ。呪縛を解くかのように、arameさんが続ける。

「・・・・よろしくです」

主役登場

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おいーーっすさんの元気に比べると、ややトーンが低いけど、はっきりと、その場の皆に意気を伝えるarameさん。遺跡の時もそうだったけど、「不言実行」って感じなのかな・・・誰かさんと違ってあんまりおしゃべりではなさそう。それこそ人見知りが激しいだけかもしれないけど・・・ハックスも、わたしには結構しゃべってくれるけど、他の人とはあまり話してるところを見たことがない。わたし以外に友達と呼べるような知り合いも居ないみたいだし。

まぁ、普通、そうか。紹介されたとは言え、見知らぬ人と気さくに話ができる方がどうかしてるよね。・・・・たまに例外も居るけど。

「それでわ!!」

集合したところで、例外さんが宣言する。

「行きましょう!!」

何をどうする、役割分担は? などなど。明確な段取り手筈も全く分からない状況で、arameさんの転職試験は開始された。実際には昨日から始まっていた訳だけど、どんな事をするのかはさっぱりだ。とにかくトロピたちに着いて行くしかないだろう。

「こっちへ」

そう言って、トロピはいつもの調子で詳しい事は何も言わずに走り出す。聞けば答えてくれるんだろうけど、もはやそれも面倒に思える。他の人達も、慣れっこみたいで、掛け声を上げるだけで細かいことは気にしていない。それよりは世間話に夢中の様子。

しかし、ハックスはさすがに状況が見えないらしい。かと言って直接トロピたちに聞くはずもなく、交感魔法を使ってわたしに問いかけてきた。

「何すりゃいいんだ?」

「ごめん。わたしにもよくわかってない・・・」

彼に隠し事をしたりごまかしたりしてもしょうがない。正直にそう答えるしかなかった。

「とりあえず、着いて行って・・・・出番が来たら、がんばりましょう」

「・・・了解」

納得したのかあきれたのか。とにかく、後は無言で一緒に走ってくれた。言いたいことがあっても皆まで言わない。そういう性格だ。果たして、出番があるのかどうかも微妙に疑わしい気配ではあるのだけど・・・何ができるんだろう? 何をすればいいんだろう? とにかく今は遅れないように着いて行くだけ。

一団は、街道など進まない。おそらく、目的地まで一直線に突っ走って行くつもりなのだろう。グルーディオ城の村から西の草原を横切る。途中、襲いかかってくるレスウェアウルフたちはもちろん蹴散らしつつ猛進。その草原の西端は小高い丘になっていた。さらにその先には悲嘆の廃墟がある。そう、例の廃墟だ。ハックスに会うため、ダークエルフの国へ向かう途中、通った場所。あの時は一人で大変だったけど、今は・・・

「うーーりゃっ」

・・・トロピの魔法がすごい。それに剣士さんたちもいる。仲間が居るというのはやはりすごいことなんだ。つくづくそう思う。

丘を降り、悲嘆の廃墟に侵入し、廃墟の中をまっすぐ。もちろん、剣士さんたちややトロピの活躍でわたしたちメイジの出る幕は無い。遺跡の時もそうだったけど、少しだけ減った体力を回復する程度。

「あれ?どこだったかな?」

きゅきゅーーっと急停止。突っ走っていたトロピが止まった。わたしたちも立ち止まる。

「えーと、こっちかな?」

そして向きを変え、また走りだす。

「・・・大丈夫か?」ハックスが交感魔法で尋ねてくるけど「だ、大丈夫・・・だと思う・・・」としか答えようが、ない。トロピもウィザードならば、過去に同じ「転職試験」を受けているんだろうし、勝手はわかっているはずだ。それとも、人によって内容が違ったりするんだろうか?

そんな感じで悲嘆の廃墟内部をしばらくさ迷っていると、「あー、いたいた〜〜!!」、と、目的の場所を見つけた。その先を見てみると・・・うわ、怪物じゃないですか。あれを倒すと言うことですか? よ〜〜し、がんばるぞおお。

大地の精霊

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「じゃあ、arameさん、アレに話しかけてみて」

かくっと膝から崩れ落ちる。気合いを殺がれる、ってやつだ。でもまあ、いつ攻撃されてもいいように体勢だけは整えておこう。

arameさんも怖々近付いて行くけど、どうやら襲いかかられる心配はなさそうだ。何やらごにょごにょと怪物・・・いや、大地の精霊?とお話をされている。ここまで声は聞こえて来ないので、何を話しているのかまではわからないが、時折、arameさんが小さく相槌を打っている。そして、ちょこん、と小さくお辞儀をしてこちらを振り返った。精霊さんはゆるゆる、としっぽを動かしたりしているだけで、特に変わった素振りは見せない。arameさんとの会話もきっと交感魔法なんだろう。

「話終わった? OK、なら、れっつらご〜〜」

「って言うか、話が見えないんだが」

トロピの合図に交感魔法で突っ込んでくるハックス。わたしにも見えません。うえーーん。そのトロピは悲嘆の廃墟を離れ、また別の場所に向かっている。しかも、ひたすら道無き道を。途中、特に怪物に襲われることもなく、順調に移動。ただ、野を越え山越え谷越えて、と移動そのものが大変だ。トロピは慣れた様子でどんどん先へと進んで行くが、わたしを含めて何人かは少々遅れ気味。結構高い山を越えようと言うところで、うまく登れないわたしたち数人はさすがにあせってきた。

「ちょっとまって〜〜」

予想どおり、手助けにに来てるんだか、足を引っ張りに来てるんだかわからない始末。幸いと言うか、おぃーーっすさんや業務課3号さんもわたしと似たりよったり、山腹で足止めをくらっていた。

「トロピ、突っ走りすぎ・・・」ぼそっ、業務課3号さんがつぶやく。山腹ではぁはぁ言いながらうなずく面々。

「アレに着いて行くのは大変だけど・・・・」

「楽しいよな」

業務課3号さんに呼応しておぃーーっすさんが返す。疲れた顔に笑みを浮かべてうなずく面々。

「なんか言ったぁ〜〜?」

早々に山を越えているトロピ。

「ちょっと待ってくれ、って」

「ん〜〜? あいあい、しょうがないね〜〜」

やっとの思いで山頂にたどり着いて向こう側を見ると、トロピにarameさん、Zwolfさんが山の下の方まで進んでいた。ハックスも半分ぐらい山を降りている。彼も不言実行タイプか。Zwolfさんはなにかの補助魔法をかけ初めていて、降りて来たわたしたちにもかけてくれた。そういえば、話せる島から本土へ渡る時、それにグルーディオ城の村を出る時とかにもかけてくれてたっけか。

「ウィンド・ウォーク・・・・」

「ん? ああ、足を速くする魔法だよ」

ぼそっとつぶやいたわたしの言葉をZwolfさんが拾ってくれた。

「へええ、なるほど・・・それで身体が軽くなったように感じてたのか・・・・ありがとうございます」

と、言っても、みんな同じ魔法をかけてもらってるので、相対的には速くなった感じはしないんだけど、それは黙っておこう。うむ。

「クレリックになれば使えるようになるよ」と付け足してくれるZwolfさん。なるほど、裏を返せばウィザードには使えない、と言うことなのかな。わたし自身がウィザードになるのか、クレリックになるのか、参考になるなぁ。そういう意味でも、わたしにとってこの試験は価値あるものだ。ただ、わたしがarameさんの役に立てるのか、という問題が残るけど・・・・。

「そいじゃ、再出発ぅ〜〜〜〜〜〜到着っ!」

って、すぐそこが目的地だったらしい。なんと。

山から下り、裾野に少しだけある林を越えると、やや起伏のある平原だった。そこに怪物たちが散在していた。トロピがその一部を指さして言う。

「さー、arameさん、やっちゃってください!」

何をやるんだ、何を。当の本人はさすがに理解しているらしく、一歩前へ。そしてパーティーから外れてもう数歩、前へと出た。

「いきます」

arameさんはオーク・・・ラグオークに向けてウィンドストライクを放った。基本よろしく、反転離脱。そしてまた詠唱。二発放って最後は、「てぃっ」と殴り倒し。続けてまたラグオークを狙って撃つ。わたしたちは・・・・

「見てるだけ?」

ハックスの突っ込みが素早い。もちろん、交感魔法。

「あのぉ・・・」

思い切ってトロピに聞いてみることにした。

「ん?」

「あれ、倒すの手伝っちゃだめなんですか?」

「うむ」

「・・・はい」

以上!って感じで結論は早い。見守るしかないのね。とりあえず、「がんばれ〜〜」とか応援してみたり。それからしばらく、arameさんは数体のラグオークを倒すと、てとてと、と、こちらに戻って来た。

「お? 終了?」

トロピの問いかけにコクン、とうなずいて答えるarameさん。なにがどう終わったのか、わたしたちにはさっぱりなのだけど。これで終わり?かと思ったら、「この調子でどんどん行きましょう〜〜」とのこと。まだ続きがあるらしい。またしても走りだしたトロピにぞろぞろと着いて行く面々。

ぞろぞろ。

どうやら、さっきの場所、悲嘆の廃墟に戻るつもりらしい。また野を越え山越え、である。やがて廃墟の精霊さんのところまで戻ると、トロピはarameさんを促す。今度は話はすぐに済んだようだ。arameさんが振り返ってコクン。

再度出発。今度は北西を目指して進軍。

道無き道を行くため、時々怪物たちが襲いかかって来ることもあるけれど、それぞれ臨機応変に対応し、倒している。わたしは足が遅いのと慣れないのとで遅れ気味な関係上、他のみんながなぎ倒した後を通るため、至って安全だった。時折、戦っているところに追いついても回復魔法を少し使う程度だ。

次の目的地は比較的近くだった。そこは湖のほとり。静かな湖畔の森の・・・とはいかず、近辺にはクモ、熊、ウェアウルフなどなど、怪物が散在していた。

湖そのものはそんなに大きくはないようだが、複雑な形をしているようだ。対岸まですぐのところや、遠くて対岸が見えない場所など、景色に抑揚があった。緑と青のコントラストもすがすがしい。それに、湖の真ん中・・・かどうかはわからないが、小さな島が浮かんでいるのも見えた。その島には初めて見る生き物がいた。生き物? 遠くから見る限り、あれは「花」だよな。赤と黄色で周囲とのコントラストも激しく、存在をアピールしている・・・シンキングフラワー。うわっ、名前までまっ赤っか。湖の外周の怪物たちが緑か白なのとくらべると、飛び抜けて強いってことか。ダークエルフの国で見たキノコの例もある。植物がうろうろしていてもおかしくない。実際、よく見ているとシンキングフラワーも時折、ごそごそ、っと動いているのが見て取れた。

「Narurunさん、何してるんですか? 行きますよ」

名前を呼ばれて、はっ、とする。Zwolfさんが手を振っていた。

「はーい、行きます行きます。今、行きます」

あわてて駆け出し、皆を追いかける。湖の外周に沿ってしばらく走ると、前を行くひとたちが立ち止まってくれたのですぐに追いつくことができた。

ひぃ、ふぅ、みぃ・・・あれ? なんか一人多いような・・・。

近付いてみると、ヒトではないことがわかった。青く透き通った身体。身に纏った羽衣まで透けている。あれは、そう、精霊。ウィンディーネ。水の精霊だ。なるほど、この湖の精霊なのだろうか。

水の精霊

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「arameさん」

コクり。

なんとなく見えて来た。さきほどの廃墟に居たのは大地の精霊。この湖にいる水の精霊。と、なると、あとは火と風、か?。何故かというと、わたしが生まれつき持って居る知識の中に答えがあった。「四大元素とその精霊たち」、そしてそれらが生み出す魔法。他にも聖なるものに属する魔物と魔法、闇に属するもの。魔法にはなにがしかの属性があるものだ。もちろん、無属性魔法もあれば、他の力に属する魔法・・・雷などもある。

わたしが今使える魔法も、この法則によっていくつかの系統に分類できるだろう。

風の魔法、「ウィンドストライク」そのまんまだね。

冷気の魔法「アイスボルト」・・大きくは水の力だろうか?水を凍らせる冷たい風の力とも言えなくはないが・・・。

ヒールなどの回復魔法は「聖なる魔法」と言えるだろう。反対に「カース」と名の付く魔法は闇に属すると考えられる。このあたりの知識は、それらの魔法を覚えるために魔法書を紐解いた時にも少しずつ理解している。

わたしは使えないが、トロピやみづほ、それにお兄さんたちウィザードの使う火炎の魔法は明らかに火の属性だろう。

それら四大元素の力を御し、絶大なる攻撃力を持つのがウィザード、と言うことか。そのためには先ず、四大元素とそれを司る精霊たちに会い、力を得るための試練を受ける。今まさにarameさんが挑戦しているのはそれなのだろうと想像できる。

もちろん試練に立ち向かうのは本人のみ。同行しているとはいえ、わたしも含めてトロピたちも手出しはしていない。手伝う、と言っても何ができる訳ではない。

しかし、自分に置き換えて考えてみよう。

精霊たちがどこにいるのか? ぜんぜん分らない。ある程度のことは最初に試験を受けた場所で教えてもらって居るかもしれないけれど、捜し回ってウロウロすること自体が危険だ。初めて訪れる場所で右も左もわからないまま、未知の怪物と鉢合わせしたら・・・・最初に訪れた悲嘆の廃墟だって、一人じゃまだロクにうろつけない。arameさんもわたしとそんなに歳が離れている訳じゃない。おそらく一人じゃ心細いし、危険だろう。

いや、arameさん・・・彼女なら一人でも、黙々とやり遂げるかもしれない。

でも。

「それじゃぁ、わたしたちは回りのクモ、排除するから。arameさんは目玉に専念して」

ぼーっとそんなことを考えていたらトロピが宣言した。

「うっしゃー」「おぃーーっす」「やっと出番か〜〜」

がぜん張り切るメンバー。ハックスも無言ながら、不敵な笑を浮かべて肩を鳴らしていた。Zwolfさんが補助魔法を全員に回すと、再度トロピが指示した。

「とつげき〜〜〜」

迫力があるんだかないんだか。みんなもそれに続いて「うぎゃはー」とか奇声を発しながら怪物の群れの中へと飛び込んで行った。わたしも後ろから続きつつも、なるべくarameさんから離れ過ぎないように、ちょうどみんなとの中間あたりで様子をうかがった。どうせ突入してもできることはしれている。

arameさんは基本に忠実に、撃つ、引く、撃つ、で順調に「目玉」に攻撃している。しかし、目玉は数匹いた。2個の目玉がarameさんに襲いかかる。みんなの方は・・・どう見ても放っておいて大丈夫そうだ。周囲の、とか言いながら、えらく離れた、恐らくは障害でもなんでもない獲物にまで手を出している。しかもこの上なく楽しそうに・・・・

「バーサーカー」

ふと、そんな単語がわたしの脳裏に浮かんだ。まさに、だな。あっちのバーサーカー達は無視してかまわないだろう。わたしは、arameさんのそばに駆け寄り、彼女にバトルヒールをかけた。arameさんは一瞬ちら、っとこちらを見て少しほほ笑んだような気がした。彼女一人、パーティからは外れていたため体力の減り具合を把握できないので、目玉から攻撃を受けたところで合いの手のようにヒールを唱え続けることにした。

目玉そのものは空中に浮遊しているものの、移動速度はそれほどではないため、arameさんが窮地に陥るほどではないようだ。もしかしたらわたしの支援も無用かもしれない。すぐに数匹いた目玉は一掃された。

「終わり・・・」

目玉の消えた地面からなにかを拾い上げると、ぽつりとつぶやくarameさん。

「おめでと〜〜」と声をかけてからパーティのみんなに「終わったみたいですよ〜」と報告した。

「お、早いねー」

しばらく待つも、帰って来る気配は、ない。

「・・・・」

arameさんと二人、顔を見合わせて肩をすくめる。まったく。放っておいたらarameさんはそのままいつまででもそのまま待っていそうな気配だったので、代わりにわたしは叫んだ。

「ちょっと、いつまで遊んでるんですか!」

図々しいと言うか、我ながら大きな態度だと思いながらも少し強い口調で呼びかけた。

「うひっ。わーったわーった。ほらほら、みんな、戻りますよ〜〜」

「えーー?もう終わりぃ〜〜?」

「おぃーーーっす!」

呑気なものである。和気あいあいと言うのも悪くはないんだけど、もう少し緊張感と言うものがあってもよさそうなものよね。またarameさんんと顔を見合わせて互いに苦笑する。言葉はないけど、そんな仕草でarameさんの人となりが解った気がする。悪い人じゃない。もちろんそれは解っているんだけど、見かけとか第一印象とかじゃ分からないかもしれないところ。多分、きっと。

そして、緊張感は、突然に訪れた。

次に向かった先はグルーディオ城の村からずっと南にある広大な「荒れ地」だった。その前に荒れ地の外側の森で風の聖霊に出会って話を聞いた。その森を抜けると、忽然と大地が裂け、切り立った崖が現れた。崖の下は不毛な荒野が広がっていた。そしてそこにはおぞましい怪物たちが群れをなしていたのだ。

「わたしが転職試験を受けた時は、ここで4回も全滅しました」

荒れ地

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トロピは事もなげにさらりと言ってのけるが、その表情からはいつものおどけた気配は消えていた。おそらく、その当時のことを思い出しているのだろう。全滅した、と言うことは一人ではなく、数人の仲間と訪れたと言うことなのだろう。自分の試験のために仲間まで犠牲になった。楽しい思い出のはずがない。今ここにいるメンバーもその恐怖を感じているのだろう。顔をこわばらせている。

「ってことで、みなさん、覚悟してちょうだい、ネ」

ずる・・・最後に緊張感を台なしにする、いつものおどけたトロピ。皆の顔にも笑みが戻る。狙っているのかそれが生来の気質なのかは計り知れないが、ここは結果良し、だろう。おかげでわたしも少しだけ気分が軽くなった。

今にして気付くが、手伝い、と言うのはここを乗り越えるためのことと考えてよさそうだ。最大の難関、と言ったところか。やっとまともな出番が来たかと思えば、一足飛びにやっかいな状況。かえって足手まといにならなければいいのだけれど。

悪い予感は的中するらしい。

「それでは行きます。できるだけ固まって。あまり離れないように」

トロピの指示で崖を飛び降り、荒れ地の内部へと侵入したのはいいが、ここまでのように突撃、と一気に駆け抜ける訳にはいかず、そろりそろりと怪物の様子を伺いながらである。できるだけ無用な戦闘は避ける方針らしい。迂回できるところは迂回し、少しづつ進む。ふと初めてエルフの遺跡に足を踏み入れた時や、悲嘆の廃墟を一人で通った時の事を思い出した。そうそう、こんな感じ。こんな感じ。ドキドキ。

しかし、それもすぐ行き詰まってしまった。右手にはバジリスクと言う巨大な多足生物、左手には骸骨の集団がそれぞれうごめいていた。間を通り抜けられなくもなさそうだが、無理をすると両方一度に相手にしなくてはならなくなるかもしれない。片方だけでも果たして太刀打ちできるのかどうか、わたしには判断できない。ここはリーダーの指示に従うしかなさそうだ。

「3号さん、右、バジリスク引けますか?」

「えええ!オレぇ!?」

いきなり指名された業務課3号さんはそれこそ目玉が飛び出したようだ。声が裏返っている。逡巡した後、答えた。

「わかった、やってみる」

ぶるん、と身体を震わせて恐怖をふるい落とす仕草をし、ふー、っと深呼吸をして一歩前に出た。もう一度剣を振り下ろすと、ゆっくりとバジリスクに向かって歩きだした。歩きだしたと言うか、すり足だな、あれは。ずるっ、ずるっ。足音に反応するように1匹のバジリスクが業務課さんの方を向いた。ぎらりと光る目と牙。

何を思ったか、業務課さんはわたしたちの居る方まで戻って来るのではなく、バジリスクに向かって斬りかかって行った。エルフの遺跡で身についた習性なのだろうか。仕方がない、と皆で応戦に走る。しかし、他のメンバーも遺跡での動きに慣れすぎていたようだ。ここではそれが致命的だった。怪物の後ろに回り込もうとして、反対側に居る他のバジリスクたちまでも巻き込む形になってしまったのだ。

後ろに回ったおぃーーっすさんに新たな二匹のバジリスクが襲いかかる。ごっそりと削られる体力。あわてて緊急回復の魔法を唱えるわたしたちメイジ。業務課さんの体力も減っているのでそちらにも。そうすると、今度は邪魔者とみなされたわたしたちが攻撃されるハメになった。剣士さんたちと違い、わたしたちが集中攻撃されるとその損害は大きい。

「あぁ〜〜・・・」

っと言う間にわたしは倒れることになった。あーあ。やっぱり足手まといになっちゃいましたか。戦闘不能に陥ったわたしは、皆が戦う様を見ている他に出来ることはない。いや、一つだけ出来ることがある。「どうか皆、無事で・・・」そう祈ること。自分自身が倒れることはさほど苦にはならない。しかし、その結果として他の仲間が倒れることになるのは辛い。今の自分には祈ることぐらいしかできないのが歯痒い。もっと強くなりたい・・・そう思った。トロピはいつになく真剣な表情で魔法を唱えていた。

願いが届いたのか、どうにかみんなはバジリスクを倒すことにができた。犠牲者はわたし一人だ。ほっと一息つくと、トロピが声をかけてくれた。

「復活スク、使いますね」

「おねがいします」としか答えようはないんだけど。

トロピはカバンから巻物を取り出すと、くるくると紐解いて詠み始めた。なんとなく帰還のそれと似てはいるが、内容はちょっと違うらしい。トロピの足元の魔方陣もどことなく違っている。そして長い詠唱を終えると、魔法陣から青い光の柱が立ち昇る。その光が今度はわたしに向かって降り注いだ。

熱い。

熱も圧力も無い筈なのに、わたしはそれを感じた。光はかけめぐる血潮のように赤かった。そしてわたしは、自らの体内に血流を感じだ。ようやく身体を動かすことができるようになり、ぎこちなく立ち上がった。体力が復活したとは言え、まだ完全には回復していない。すると、すかさずaraemさんが回復魔法を唱えてくれた。

「ありがとうございます。すみませんでした」

完全に体力の回復したわたしは姿勢を正し、トロピに、arameさんに、そして皆に言った。皆も体力を回復するためにその場にしゃがみこんでいたが、首を動かしてうなずいたり、片手を軽く上げて答えてくれた。トロピもarameさんも、他の皆もマナを使い果たしていた。一時的な休息が必要だ。

「さて」

落ち着きと体力、それにマナを取り戻したところで、トロピが動き出す。

「とにかく前進しますか」

この先、今のような戦闘が続いたら、一体どういうことになるんだろうか。考えるとぞっとする。

「まー、全滅することはなさそうだけど・・・気合入れて、頼んます」

「うっしゃーー!」「おぃーーっす!」とりあえず呼応するみんな。空元気なのか、本気なのか・・・きっと本気なのだろう。

「ごめんね・・・なんか大変なとこに来ちゃったみたい・・・」勝手を言って巻き込んだハックスに交感魔法で声をかけると、ハックスは「ん?いいじゃん、楽しいよ」そう答えて来た。そして「一人じゃこんな経験、できんし」と付け加えてくれた。優しさなのか、本心なのか。これもおそらく本心だろう。そう思いたい。

それから数度、バジリスクや骨との戦闘を繰り返したが、うまい具合に怪物をおびき出すことに成功し、一体づつ的確に倒して進むことができた。一度、アリ・・・巨大なアリ!・・・が二体来たけれど、犠牲者なしで倒す事が出来た。

荒れ地はただ広いと言うだけでなく、あちこちに段差があり、飛び降りなければならない箇所があった。何度か低くい所に降りると、生息している怪物の種類が変わってきた。いかにもなゴーレム。初めて見る緑色の怪物はタイラント。アリもごつくて禍々しい赤茶色の兵隊アリに変わっていた。幸いなことに怪物たちはまばらに存在していて、通過する分には問題なさそうだ。それに白いゴーレムやタイラントは近付いても平気らしい。

ある程度進むと、今度はまた段差を登る方向で進む。崖を登ることはできないようなので、登れる場所を目指しているらしい。崖を右手に進むと、少しなだらかな坂になった場所にたどり着いた。そして、先頭を走っていたおぃーーっすさんがその坂を駆け登った時だった。

「うおぉぉぉっ!」

坂を登ったおぃーーっすさんだったが、そのまま引き返して坂を降りて来た。何事か、考えるまでもないだろう。

「来る!」

珍しくarameさんが叫ぶのと、トロピが火を放つのが同時だった。来たのは赤い兵隊アリ・・・ソルジャーアント、しかも隊長・・キャプテンらしい。業務課さんも剣を振りかざして兵隊アリに飛びかかっていった。わたしとarameさんは最初に攻撃を受けたおぃーーっすさんに回復魔法を唱えると、すかさずウィンドストライクで攻撃に回る。二度ほど放ったところで今度は何故か狙われているハックスに緊急回復魔法だ。その次の瞬間、「危ない!」誰かが叫んだ。

え?っと思う暇もなく、わたしは後ろから殴り付けられていた。

「痛っ!!」

ごっそりと体力を持っていかれた。やばい。逃げなきゃ。もう2〜3発殴られたらまた行動不能になってしまうだろう。でも何処へ? 的確な逃げ場所も解らないまま、とにかく反対側へ。そちらは今、ソルジャーアントキャプテンが倒れたところだ。噛み付かれていたハックスの体力が残り少ない。皆もわたしの後ろに現れた怪物に攻撃を移してくれてはいるが・・・

がつん!、とまた衝撃がわたしを襲う。しかし、あまり遠くへ逃げてしまうとまた新たな敵を呼び込んでしまう可能性が高い。遺跡で学んだ教訓を活かして、ここは踏みとどまるべきだろう。数歩進んで後ろを振り返る。エルダータイラントだった。しかも二体。

皆が飛びかかってくれたおかげでわたしへの攻撃は止んだ。代わりにおぃーーっすさんが殴られている。しかし彼の体力も残りわずかだ。わたしとarameさんで回復魔法をかけるも及ばず、おぃーーっすさんは崩れ落ちた。矛先はarameさんに向けられた。業務課3号さん、ハックス、それにトロピが全力で攻撃をしかけているが、なかなか倒すことができない。その前にarameさんが倒れた。そしてわたしへと戻ってくる。あっと言う間だった。

それでも被害はそれだけで済んだ。6人中、3名が力尽きたが、全滅はまぬがれた。皆覚悟していたとは言え、重い空気が漂う。

「もう少しです、がんばりましょう!」

決して笑っている訳ではないが、元気よく宣言するトロピ。3人はそれぞれ復活スクロールで体力を回復してもらった。全員が休息を取り、自然回復を待って立ち上がった。

「さあ、れっつらごー、です!」

確かにここは恐ろしいところだ。一瞬たりとも気を抜くことができない。休憩中もドキドキハラハラ。でもこのわくわくする気持ちはなんだろう?

わたしも皆とともに立ち上がり、目的の場所を目指し歩きだした。

荒れ地その2

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