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『話せる島記・外伝』

『第一章・それぞれの道』

『第九話・カオスの烙印』

ごくまれに。

神様が気まぐれに、あたしたちに贈り物をくれることがある。特定の期間、怪物たちが落とす品々の中に神様のメッセージが混ざっていることがあるのだ。何種類かのメッセージを集め、繋ぎ合わせて意味のある言葉にすると、贈り物に交換してもらえるのだ。

実際には普通に狩りをしていればついでに集められるんだけど、そう易々とは全種類をそろえることはできない。まさに運を天に任すことになる。

各地の村には神の使いが現われ、そろえたメッセージと贈り物の交換を受け付けてくれている。しかしこれもまた、いい品がもらえるかどうかは運次第と言うのだから、この世界の神様は運試しがたいそうお好きなようだ。運のいい人悪い人、悲喜交々、あたしはどちらかと言えば、あまりよく無い方、かな?

とりたて、良いものが貰えたわけでもなく、余ったメッセージを転売して稼ごうと安易な悪巧みをして、失敗。とぼとぼとグルーディオ城の村の南門を出て途方に暮れていた時である。

門を出てすぐ左手に木が何本か立っているのだけれど、その木にペタペタとメッセージが貼り付けられていた。何やら妙なおオブジェのようにも見える。あたしも試しに手元の余ったメッセージをぺた、っと貼ってみたらきれいに貼ることができた。まだいっぱい・・・転売しそこねたやつが・・・余っているので、それもまとめて貼って、気晴らしだ。

ふと気付くと、大柄なオークの男性がメッセージ以外の品物を木に貼り付けている。オブジェが前衛芸術の様相を呈して来た。

ぺたぺたぺた。

ぺたぺたぺた

Lineage (R) II and Lineage (R) II the Chaotic Chronicle are registered trademarks of NCsoft Corporation. 2004 (c) Copyright NCsoft Corporation. NC Japan K.K. was granted by NCsoft Corporation the right to publish, distribute, and transmit Lineage II the Chaotic Chronicle in Japan. All Rights Reserved.

何かに集中していると、嫌なことも忘れると言うものだ。いつの間にかオークさんと二人、「もうちょっと下の方にも」「裏側がちと寂しいぞ」「色合いが偏ってるねぇ」などと互いに声をかけあいながら作業を続ける。今初めて会ったばかりの見知らぬ人ではあるけれど、そこはノリで。

まわりの人も何事か、と見物している中、不審な人物が現れた。

あたしたちがせっせと貼り付けている品々を片っ端から拾って行くのだ。まわりで見ている人も、拾おうと思えば拾えるが、だれもそんなことはしない。皆、このゲイジュツを・・・お遊びを・・・・理解してくれているのだ。

なのに。

ムっとしたのはあたしだけではなかった。まわりの人も、特にオークさんもムっとしたようだった。オークさんはその人物の背後に近付き、威嚇する。その人物はオークさんから逃れるように木の後ろに回り込むけど、拾う事は止めない。オークさんが背後に近寄る。逃げる、拾う。

オークさんはとうとう、頭に来たらしい。拳・・・そう、まさに拳、格闘武器を振り上げ、そして振り下ろした。

オークさん自身は威嚇か警告のつもりだったんだろう。しかし、相手は、その一撃でその場に崩れ落ちた。

「え?」

あっと言う間の出来事だった。門の近くだったので、側に立っていた衛兵が飛んで来て、名前が真っ赤に染まったオークさんをこれまた一撃で倒した。そう、PK。人を傷つけた人が押されるカオスの烙印。

その烙印はそ名前が血のような赤に染まることで周囲に示される。もちろん、その色を元の白に戻すことも可能なのだけど、一度PKを行ったと言う事実は残る。

カオスの烙印にはもちろん罰が待ち受けている。人々の集う村には入ることができず、近付こうとすれば今のように衛兵が飛んで来て倒されてしまうのだ。普段はぼーっと立っているだけで役に立つのか怪しい衛兵さんたちだが、彼らもやるときはやる、と言うか、とんでもなく強いみたいだ。あたしよりはるかに高齢と見受けられるオークさんを一撃で倒すなんて・・・。

オークさんはすぐに「最寄りの村へ」と念じたらしい。動けなくなった身体がふっと消えた。しかし、最寄りの村って・・・もちろん、カオスの烙印のため、村の中に移動することはできないだろう。一方、オークさんに倒されたその人物もまた最寄りの村へ、つまり目の前のグルーディオ城の村へと飛んだ。

衛兵は一仕事を終え、門の脇の自身の定位置へと戻って行った。それと入れ違いに村からはその人物が戻って来て、木のオブジェ拾いを再開した。

懲りないやつだ・・・・オークさんにならい、あたしもその人物の背後に付いて威嚇する。

「ちょっと、やめなさいよ」

声をかけても知らん顔で作業を続ける。

「ねえ、ちょっと、聞いてるの?」

聞こえていないことはないと思うんだけど、聞く耳持たないって感じだ。

あたしは考えた。

オークさんはかなりの高齢。その一撃は多大なものだろう。あたしは?まだまだ駆け出しのひよっこクレリックだ。あたしが殴るくらいならそんな大袈裟なことにはならないだろう。

「てりゃっ」

ぽかっ。

「うぎゃぁぁぁ」

「え?」

っと思った瞬間には、もう目の前に衛兵が迫って来ていた。逃げようとする間もなく、あたしは衛兵の剣で倒されていた。

「あーあ。やっちゃったか?」

そこへ、先程のオークさんが戻って来た。

「うう、あたしそんなに強くないのに・・・」

「相手が若すぎたみたいだね。ちょっとこっちへ」

もう一人。声をかけてきた人がいた。ヒューマンの男性だ。その人に招かれるまま、パーティに参加すると、オークさんの仲間らしいことがわかった。

「リザするね」

ってことはクレリックなのね。

「起きたら全力で逃げて」

あたしはその人のリザレクションで体力を回復すると、即座に村から離れる方向へ走った。

「はぁはぁ、ここまでくればもう大丈夫だろう」

衛兵に見つからない場所まで移動したあたしたち三人はそこで息を整えた。

「ごめんなさい。お手数かけます」

「いやいや、元はと言えば先にコイツが手を出したのが悪いんだ。巻き込んじゃってごめんね」

優しい口調でクレリックさんが言う。

「しかし・・・それどうにかしないといけないね」

そうなのだ。衛兵に倒された事で「罰」を受けたことになり、名前の赤さは多少薄らいだものの、まだ赤い状態。カオスの烙印のままだ。このままではもちろん村にも入れないし、普通の生活はできない。どうにかしてこの烙印を消す必要がある。

その方法は知っていた。

仲間がPKにやられたりしたこともあって、PKについてはいろいろと聞いたり、調べたりしたことがあったからだ。まさか自分がそうなるなんてことは夢にも思いはしなかったのだが。その知識は役に立ちそうだ。

「クルマの湿地帯・・・あそこなら、ちょうど相応なので、行ってきます」

相応とは言っても少々手ごわい相手ばかりだ。一人ではギリギリだろう。しかし、カオスの烙印を消す手っ取り早い方法は、自分より強い相手を倒し続けること。今の状況には相応、と言うことだ。

「ちょっと待った。その武器、何?」

オークさんがあたしに訊ねて来た。

「これ? 毒蛇の牙ですけど?」

あたしは自分の手にある武器を持ち上げて答える。

「ふむふむ。ちょっと貸してみて」

「はい?」

何のつもりだろう?

「代わりにこれ持って」

そう言ってオークさんは自分の持っていた格闘武器を差し出した。交換して、あたしもそれを手に持ってみる。うは。こりゃまた随分高級な武器だな。

「いやあ、懐かしいなぁ」

オークさんはあたしの毒蛇の牙を手に、すこしはしゃいでいた。そうか。格闘武器はオークさんの武器。彼は若い頃、毒蛇の牙も使っていた時期があるのだろう。苦労してこの武器・・・ビチャッワを手に入れたのだ。しかも、数段階の強化まで施してある。買ったら一体いくらになるんだか。

「これもらう。代わりにそれ、あげる。永久交換だ」

え?

「そんな、そりゃ悪いですよ。いくらなんでもそれは・・・」

「俺達、今日が最後だから」

え?え?

「君もこの世界を去るつもりなら、それは君が選んだ人にあげてほしい。あと、こんなのもあるぞ」

毒蛇の牙と戯れるオークさんに代わり、クレリックさんが言葉と共に身に着けていたアクセサリーを外して渡してくれた。

この世界を去る。

そう、人は、自らの意志でこの世界から・・・永遠に・・・立ち去ることも可能なのだ。

今、世界は大きな変貌の時代を迎えようとしていた。その変貌を前に、この世界を離れる人が後を絶たないらしい。あたしの友達や知り合いでも何人かそんな話をしていた人もいた。

そして、この人達は今日を最後にここから旅立って行くという。あたし・・・さっきはじめて出会った、あたしに、大事な、大切なものを残して。

「さあて、と。最後にクルマの湿地帯でも散歩して行くかな」

あたしは、目頭が熱くなるのを押さえ切れなかった。しかし、彼らのその好意を無にする訳にもいかない。

湿地

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湿地に向けて歩きだした彼らを追いかける。湿地に辿り着いたところで彼らを追い越し、パーティを外れると、あたしは手当たり次第に怪物を倒しはじめた。

後ろからクレリックさんのヒールやドライアードルーツが飛んで来てあたしを支援してくれる。

「オレ、ヒマ」

「応援しろ」

「ゥォーーー!!」

オークさんの勇ましい掛け声があたしを勇気づけてくれる。

そして気付く。

怪物を倒した後、アデナの他に素材などの品々が手に入るのだけど、その数が5個とか、10個とか。有り得ない数。どういうことなのかはすぐに悟ったけれども、どうこう言うのもここは失礼だろう。有り難く頂戴するのが礼儀だと思う。

あたしの瞳は、涙でにじんでいた。

あたしが問題なく戦っていると、オークさんとクレリックさんは二人で切り合いをはじめた。喧嘩をしている訳ではない。ましてや憎しみなどではない。彼らの中にどのような思い出が去来しているのか、それは推し量れないが、剣を交えることで語り合っているようにも見えた。その戦いはとても微笑ましく、そして悲しかった。

そうやってかなりの数の怪物を倒した時。

「戻った!!」

カオスの烙印が消えた。名前が元のまっ白な状態に戻ったのだ

「おめでと〜」

「ゥャ〜〜〜」

二人がまるで自分のことのように喜こび、祝福してくれる。そしてオークさんが言った。

「オレはこのへんでおさらばするぞ」

その時が来た。

「ああ、じゃあな」

クレリックさんは事もなげに言う。まるでまた後ですぐ再会するかのような気安さで。

あたしは、彼を引き留める術も理由も持たなかった。

「ありがとう・・・」

そう言うのがやっとだった。それ以上もそれ以下もない。彼らとの思い出は、関係は、ほんの僅かしかないからだ。

お別れ

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オークさんは、最後、にっこりと微笑んだ・・・ように見えた。あれがオークさんの微笑みならば、だけど。きっとそうだろう。間違いない。その表情はクレリックさんにも向けられた。軽く手を上げると、この世界から消滅した。

「やれやれ。慌ただしい奴だ」

クレリックさんは残った。しかし、それもほんの少しだった。

「あ、そうだ。これもあげる」

手渡すではなく、あたしの足元に突き刺さったそれは剣だった。

「じゃあ、がんばってね」

彼は、またね、とは言わなかった。これが最後だと決めているから。

「もっと・・・」

「ん?」

声にならない声を押し出して、あたしは言った。

「・・・もっと早く出会えていたら」

「うん。そうだね」

彼も同意してくれた。でもそれは叶わない夢も同じ。言ってもどうなるものでもない。まして、彼を引き留める言葉にはならない。

「あいつとはね」

あいつ、もちろんオークさんのことだ。

「おれが話せる島から出て、初めてグルーディンに行った時に知り合ったんだ。それ以来、腐れ縁みたいな感じでね。なんだかんだでいつも一緒だった。最後まで一緒にいられて・・・よかった」

あたしに言っている。でも違う。自分自身に。もういないオークさんに。

「君にも会えてよかったよ」

返す言葉はない。

「じゃあ、がんばってね」

微笑みながら手を振り、彼の姿が薄らいでゆく。そして。

足元に剣だけが残された。

しばらくあたしは何もできなかった。その場に立ち尽くし、彼らが消えた場所をじっと見つめていた。

・・・・・・

どれくらいの時間、そうしていただろう。

ここで待っていれば、彼らがまた戻って来るのではないか?

そんな期待があったのかもしれない。

しかし、彼らは戻っては来なかった。

いつかまた、戻って来ることがあるんだろうか?

あたしは、足元に突き刺さっていた剣を引き抜き、身に着けると歩きだした。もう怪物を倒す必要はない。薄暗い湿地帯を抜け、川を越えてグルーディオ城の村へ向かう街道へと出て歩き続ける。

村の門の前・・・あのオブジェのゲイジュツの木は、すっかりきれいな普通の木に戻っていた。おそらく例の人物が根こそぎ持ち去ったのだろう。もしくは、それを見ていた他の誰かが「協力」してお掃除したのかもしれない。

門の衛兵は、あたしを見ても何もしてはこなかった。カオスの烙印が外れたためだ。罪を償ったから、無罪放免と言ったところか。ただ、その烙印の跡だけは残っていた。これから一生、この跡と付き合うことになるんだろう。

周りにいた見物人たちもすでに居ない。もはや見物するものもないので当然だろう。狩りに繰り出したか、村へ戻ったか。まったく誰もいなくなった訳ではなく、いつものように狩りへと出掛けるパーティが出発前の打ち合わせや待ち合わせをしているので、にぎやかであることには変りはない。

あたしは、まだ手元に残っていたメッセージの切れ端を何枚か木に貼り付けた。さきほどのオブジェほどの賑やかさはもうないが、枯れ木も山のにぎわい。少しだけ派手にはなったかな。

手持ちのメッセージをすべて貼り終えると、その木の根元に座り込んだ。

手にした武器・・・ビチャッワを見つめながら思った。

いつか、彼らが戻って来たのならば、これは返すべきだろう。そんな日が来るのかどうかもわからないが、そうしなければならないだろう。何があっても手放すことはできないし、したくはない。

もし、彼らが戻らず、あたしがこの世界を去る日が来たとしたら、その時は彼らの言葉の通り、誰かに託すことにしよう。それが誰なのかは今はわからないが、彼らがあたしを選んでくれたように、あたしも誰かを信じることができるだろうか?

ふ、と仲間の顔がよぎる。

友達の誰かなら、託すことができるだろう。きっと。信じられるだろう。

さっきのオークさんとクレリックさんが「一緒にいられてよかった」と言ったように。あたしもそう言えるように。

・・・・

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夢を見た。

詳しい事は覚えていない。

なんだかとても悲しい夢だったことは、目覚めた時、頬が濡れていたことで想像が付く。

あたしは涙を拭って立ち上がると、新しい土地を目指して一歩を踏み出した。

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