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『話せる島記・創作小説4』

『創作小説・その4』

その2とその3の間に入るお話し。てか、なんか派生して出来てしまったよw


『見えざる島のマーベラー』

あたしは、また『ウワサ』を聞き付けた。話せる島のさらに西、地図にもない海上に『見えざる島』なる場所があるのだと言う。

その『見えざる島』には、ドワーフ族を創造した『大地の神マーブル』から直接教えを受けたと言うドワーフ・・・マエストロもフォーチュンシーカーも超越した、双方の能力を完璧に身につけた『マーベラー』が住んでいるのだ、と。

そのドワーフこそ、行方不明となっているドワーフの王ではないのか?ともウワサは語る。

信憑性は無きに等しいが、『マエストロ・ホーマ』の例もある。

『見えざる島』への道はここ、話せる島にあると踏んだあたしは、改めて島の隅々を捜索していた。

怪しげな場所はいくつか考えられる。

まずは先日の鍛冶屋への地下通路。滝の裏に隠された入り口からのルートだ。ここも再度探検し、別のルートが無いかを確かめてみた。しかし、たどり着けるのは村の鍛冶屋だけで、他へと抜ける通路は見当たらなかった。

「用もないのに来るな!」

ホーマには怒鳴られたが、それはまあ、どうでもいいだろう。

セドリックの道場とその周辺。特に裏手の崖にはいかにもどこかに続いていそうな傾斜がある。しかし、海岸へと抜けると海に出るだけで、抜け道らしき空間は見つけられなかった。傾斜と言えば、北海岸、西海岸にもあるが、そこも同じだった。

キス・オブ・エヴァの魔法と帰還スクロールを駆使して北側の絶壁を海中からくまなく探索してみた。特に、西側は注意して念入りに調べてみたがこれと言って手掛かりはなかった。

それ以外の場所も幾度となく訪れているところばかりだが、それでも見落としはないかと目を皿のようにして再検索してはみたものの・・・。

「さて、一体どこにあるのやら・・・」

島の中央、戦勝記念の塔の下であたしは考え込んでいた。もたれ掛かったその塔の一部がガクン、と開き、地下へと続く通路が・・・なぁんて都合よくみつかればラッキーなんだけど、さすがにそんなに甘くはない。

もちろん、マーブルと縁があるのならば、ドワーフの国にそのヒントがある可能性も高い。しかし、ドワーフが現在の場所に居を構えたのは、他種族からの攻勢から逃れた結果であり、マーブルが統治したとされる土地とは根本的に異なるはずだ。

もちろん、それが話せる島と言う訳ではない。ここは元々はホワイトエルフの土地だった。ホワイトエルフが教え子であるヒューマンと共にオークの攻勢を払いのけ、しかしそのヒューマンに裏切られて追い払われた土地。ドワーフ族との縁は無きに等しい。しかし、単身、攻勢から逃れ身を隠すとすれば、この辺境の孤島はうってつけではなかろうか?

話を戻そう。

あたしがその『見えざる島』のマーベラーを探している理由。『マエストロ・ホーマ』に作ってもらった装備をさらに改造してもらうためだ。

そのホーマにもマーベラーの事を訊ねてみたが、知らぬ存ぜぬで、何やら恐れてさえいるようだった。一介の領地民であるあたしに果たして辿り着くことなどできるのか? 危険はないのか?

「考えていても仕方ない」

あたしは、立ち上がり、自分自身に魔法を唱え、行動を再開した。

「後、残ってるのはあそこだけだな」

エルフの遺跡。別名、『さまよえる遺跡』

物理的には侵入できず、ゲートキーパーの力を借りなければ出入り不可能なこの場所は、実は定まった土地にあるのではなく、異空間を『さまよって』いる。あまり知られていない事実なのだが、この遺跡は気付かない内にその所在が変化するのだ。

その事実に気付いたかけだしの頃、慣れない遺跡パーティで起きた出来事を思い出す。

図書室での大混戦の中、あたし一人だけが全く別の空間へと飛ばされてしまった。広い草原のような空間に一人置き去りにされたあたしはそれこそパニックに陥った。その時、自分の居場所を確認しようと地図を開いて驚いた。話せる島よりもずっと東の海の中、現在はヘルバウンド島のある辺りだったのだ。後日、再度遺跡の中でふと地図を見ると、今度は北西の海・・・現在カマエルの村がある地域・・・だったこともある。

「今にして思えばあの空間こそが『見えざる島』への道だったのかもしれない」

誰にともなくつぶやき、遺跡の前まで走る。

遺跡の前で、パーティを募集するためにシャウトする。若い冒険者を雇い、当時の状況を再現してみようと思ったからだ。人が少なく、てこずったが、高額の報酬を掲げて募ると数人の若者が集まってくれた。

「とにかく、あたしの言う通りに動いてちょうだい」

前払いでアデナを支払い、段取りを説明する。あの時と同じ、図書室で混戦になったところにネルカース乱入。さらに混乱した中であたしは『あわてて』隣の通路から回復魔法を唱える。そうすれば・・・

「もし、突然あたしがいなくなっても驚かないで。その後は自由にしていいから」

前払いにしたのはそのためだ。再度彼らに会うことができるかどうかわからなくなる可能性があるから。詐欺のような真似はしたくはないからね。

「じゃ、いきましょうか」

彼らに補助魔法をかけ終え、宣言し突入する。

予定通り図書室でわざとそこら中のモンスターをかき集めて混乱を再現する。ここいらも時と共に様相は変化している。当時いたスケルトンや幽霊、それにスパイダーは居なくなり、変わりに奥の方に居たサラマンダー、ウィンディーネ、ドレバヌと言ったより強力な怪物たちに占拠されていた。

まあ、それは関係ないだろう。今はそれも好都合だ。

剣が、魔法が、矢と怒号が飛び交う。さらにナイトの子に奥の部屋からドレバヌとネルカースを連れてこさせ、通路に待機していたあたしはそのナイト君にヒールをかけてみた。残念ながらあの時のようにはならなかった。何度かその状況を試してみたが、駄目だった。

日を変え、人を変え、さらに幾度か試してみた。それでもやはり駄目だったが、あきらめずに挑戦してみる。しかしさすがにいい加減あきらめようかと思い始めた頃だ。

「!」

視界が暗転。ああ、この感覚。これよ、これ!

ゲートキーパーの魔法や帰還スクロールと同じ感覚。視界が戻ったそこはあの空間だった。地面には背の低い草が敷き詰められ、

延々と平野が続く。地平線のその向こうには空しか見えない。水などどこにもないのに、波の音が聞こえる。

地図を開いてみると、場所そのものは移動していない。現在エルフの遺跡がある地点だ。

「おっけー。後は適当に。ありがとうね。それじゃ」

パーティのリーダーを変更し、あたしはパーティから外れる。第一の目標は達成された。

「あとは・・・どこを目指すか、だな」

とりあえず、西を目指すことにした。西と言っても、真西なのか、北寄りなのか南寄りなのか。自分自身のカンに頼るしかない。

走り出し、しばらくしておかしなことに気付いた。

「体力が減ってる・・・」

ただ走っているだけなら体力が減ることはない。水中で息が出来ない状況とよくは似ているが、息ができない訳ではない。確かに波の音が聞こえてはいるけど、水圧で歩みが遅くなっている訳でもない。毒や火炎などの地形ダメージでもなさそうだが、はて?あの時にはこんな事はなかったのに。

しかし自分がカーディナルでよかった。回復魔法を持たない剣士であったら、途中で行き倒れていたことだろう。もしくは、あきらめて帰還するしかなかったかも。

とにかく進むしかなかった。時折、回復魔法を唱えるため立ち止まる。ついでに現在地を確認するが、地図の外に出てしまったらしく、どこだかさっぱりわからない。風景も、ただ草原と地平線があるだけで、波の音にも変化はない。コンパスのおかげで方角を見失うことはないものの、自分が今どのあたりを走っているのかは全くわからなかった。走った時間から逆算すると、すでにアデン大陸を横断するほどの距離を走ったはずだ。

目的地が本当にどちらの方角にあるのかは判っていないため、真っ直ぐではなく、時折方角を変えながら進む。

「えほえほ」

とにかく走る。走っては回復、そしてまた走る。体力が減って行くのが解せないが、まあいい。補助魔法が切れるとそれらもかけ直す。

5度、補助魔法をかけ直して走り出した直後だった。

「ぉ?」

視界のスミの地平線上に黒い影が映った。そちらを向いて走るとぼんやり、山の形が見えてきた。

「あれかっ!?」

目標物があればコンパスはもういらない。体力回復のために立ち止まるのがもどかしい。ギリギリまで耐えて走り抜けると山を見上げる程に近付いた。

『異界への扉』

現在地を確認すると、この領域の名前が判った。あたしは迷う事なく帰還スクロールを取り出して詠んだ。スクロールが発動し、視界が暗転する。世界から音が消え、空間を飛ぶ、いつもの感覚。

さて、『異界への扉』とはどんなところなのだろうか? 『マーベラー』は存在するのだろうか?

明るさと音がよみがえる。

降り立った場所は海岸だった。砂浜がある。これならそのまま上陸できたかもしれなかったが、まあいい。

振り返ると、砂浜の向こうに山が見えた。その手前の少し開けた場所に村らしきものが確認できた。囲いがあり、中の建物が囲い越しに見える。話せる島を限りなく小さくしたような島。しかし、決定的に異なる点があった。

「なんじゃありゃ?神殿か?」

その建物は見たことも無い様式だった。

鋭角的で完全な辺を持つその建物は、やけに背が高く、神殿のように白っぽい壁だった。しかし、神殿によくある飾り柱も全くなく、のっぺりとしている。ただ窓が同じ間隔でずらりと並んでいた。

グレシア

ふと脳裏に浮かぶ言葉。

現在、完全に交流が断たれているエルモアデンの対極をなす大陸国家グレシア。これがその様式なのだろうか?

『異界への扉』

その異界とは、グレシアのことなのか?ここはグレシアの領地なのか?

その建物を見上げつつ、門へと歩み寄る。

門から中を窺うと、建物の足元が見えた。一辺にだけ張り出した低い屋根がある。おそらくその下が入り口なのだろう。辺りを見渡しても人の気配はない。そこに近寄ってみる。扉はクリスタルでできており、中がはっきりと見えた。やはり人影はなかった。

扉に一歩近寄ると、クリスタルの扉が自動的に左右に開いた。恐る恐る中へと歩を進める。

「イラッシャイマセ」

突然、声が聞こえた。辺りを見回してみても誰もいない。精霊?

いや、何かある。もとい、誰かいる。

四角い部屋の壁際、それに真ん中付近に台座が並び、その上に四角いクリスタルが置かれている。そのクリスタルの中をよく見ると妖精のように小さな姿が並んでいるのが見えた。クリスタルの一つに近寄り、中を覗き込んで仰天した。

「こ、これは・・・」

大きさは妖精より小さいものだが、姿は間違いなくヒューマン。いや、それだけではない。エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、オーク、カマエル・・・エルモアデン全ての種族がクリスタルの中に閉じ込められていた。

人々は石化の魔法をでもかけられているのか、身動きもできずじっと同じ姿勢を保っている。しかし妙なのはその表情と姿勢だ。恐怖や苦痛、絶望と言った驚愕の表情ではなく、むしろ穏やかであり、ほほ笑んでさえいる。姿勢も同じ。凛と立つ姿、甲斐甲斐しく座る姿、それに歌うように踊るように。

もう一つ妙なのは皆、女性である点だ。ぽつりぽつりとモンスターも見受けられるが、人々の中に男性はいない。生きているのか死んでいるのかさえも不確かなその女性たちは、ただじっとクリスタルの中で凍りついている。

いや、先程の声、あれも女性の声だった。この中の誰かが助けを求めているのだろうか?

とんでもない所に来てしまった。

あたしは少し後悔した。それに、移動で減った体力もまだ完全に回復していない。とりあえずあたしは自分自身にグレーターヒールをかけながら考えた。逃げようか? それとも、この人達を救う事ができるのか?

石化ならピューリファイで治せる。試しに魔法を唱えようとしたが、相手を認識できないため、魔法そのものが使えない。クリスタルに覆われているせいだろうか? 人々はまるで本物の石像のようだ。しかし、石像にしてはやけに生々しい。肌の色、装備品の鮮やかさ。

さて、先程の声が警報装置だとしたら、この仕業の犯人、つまりはこの部屋の主にあたしの存在は知られているはずだ。すぐに捕まってしまうかもしれない。やはり逃げるのが先決か。

迷っている暇はないな、と思った時だった。

「どなた?」

先程とは異なる声が聞こえて来た。

しまった。覚悟を決めるしかない・・・ああ、ナミ、麻衣、あーちゃん・・・先立つ不幸を許してね。

無駄な抵抗だとは思いつつもスピリットショットとソウルショットを込めながら恐る恐る声のした方を見る。

「あら? アデンの方?」

どこから現れたのか、声の主は意外にも普通のドワーフの女性だった。

「エデンの人が来る時期じゃないから、妙だと思ったけど。そっか、ここ、見つけちゃったんだ」

「え、と・・・あ、と・・・」

見つけちゃったんだ・・・知られたからには生きて返す訳にはいかないわ。わたしのコレクションに加えてあげる〜〜。

そういえば、アデンでは行方不明になる人々が後を絶たない。その一部がこのクリスタルの中の人達がそうだとしたら?

マジヤバじゃないですか。冷たい汗がどっと流れる。抵抗できるように武器を構えてはみても、相手がドワーフとなるとカーディナルのあたしには到底勝ち目はない。トランスで眠らせて、そのスキに逃げるしかないだろう。相手の年齢がわからないので、そのトランスさえまともに効くかどうかは微妙。彼女が例の『マーベラー』だったとしたら相手にもならないだろう。

「あはは、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。取って食ったりしないから」

コロコロと笑いながらドワーフは言う。油断させようと言う魂胆か。

「この人達をこんな風にしたのはあなたじゃないの?」

クリスタルの一つを示して話しかけてみた。

「人達? ああ、これのこと」

事もなげに言う。

「んー、これは、そうね、彫刻みたいなもんかな? 別に人を捕まえて固めたって訳じゃないから」

あたしの考えを悟ったのか、彼女はそう言う。

「彫刻にしては本物そっくりじゃない」

「あはは、ありがとう。それは最高のほめ言葉だわ。作り手としては一番うれしいわね」

・・・本当に、この人の作った『彫刻』なのかしら。確かに、高位のマエストロならばこういった『製作』はお手の物かもしれない。それに彼女から邪気は一切、感じない。カーディナルとしての『邪悪な者に対する感覚』はそれなりに鋭いつもりだ。相手が神に近いとなれば、巧妙に隠蔽している可能性も捨て切れないが。神とて万能ではない。グランカインのように落ちた神もいる。かといって神聖な気配もまた感じられない。至って普通のドワーフさんだ。

「あなたがマーベラーなのですか?」

「?マーベラー?何、それ?」

「大地の神マーブルから直接教えを受けたと言う、ドワーフの始祖、ドワーフの王」

「マーベラーって名前はアレだし、王って言うのも正しくないけど。確かに、マーブル様から教えを受けたってのは間違いないわ」

「!」

改めて、別の意味で驚愕する。ウワサはある程度正しい部分もあった。呼び名は間違っていたとしても、王でなくても、ものすごい人物であることには変わりはない。

「・・・」

あまりのことに言葉を無くしてしまう。神話の時代の人物と相見えることができたのだ。それが聖なる者か邪悪なる者かは別にして。

「でも本当によくここまで辿り着けたわね。アデンの住人がここを訪れたのはあなたが初めてよ」

「!」

さらにビックリ。

「まぁ、あの空間に入って、ここまで走ってくるなんてよっぽどの物好きね」

「あなたを・・・あなたを探していたんです」

「!」

今度は彼女が驚く番だった。

「あきれた。偶然に迷い込んだ訳じゃないんだ」

「ええ。ウワサを聞いて。そうだ、頼みたいことがあったんです」

「何?」

「えと、マエストロ・ホーマに作ってもらったこの装備を・・・」

カバンから例の装備を取り出して彼女に見せる。

「うは。ホーマのやつ・・・あの図、使ったのか」

彼女は何故か苦笑いをしていた。しかし、どうやらホーマが持っていたあの製作図の出所はここだったようだ。今の反応からすると、ホーマはまっとうな手段であの製作図を入手した訳ではなかったようだ。

「ええ。それで、あなたにこれを、もっとすごい装備に改造してもらいたくて。お願いすることはできますか?」

「・・・残念だけどそれは無理ね」

「どうして?」

「ホーマが作ったソレも、本来、アデンにあってはならないものなのよ」

アデンにあってはいけない、しかし、別の国には・・・はっ。

「それが『異界』・・・?」

「まあ、そんなとこ。その装備も本来なら取り上げて処分させてもらいたい・・・ってゆーか、ホーマから図も回収しとかないとマズイなぁ。どうしてくれようか・・・ああ、いや、それはこっちの話だけど、君のその装備は『人前で着るな』とだけ忠告しておくだけにしよう。どうせ狩りじゃ使い物にならないだろうし」

プラス、村やら街道で着るのも恥ずかしいので、身内以外にはあんまり見せていない。あたしはこくりとうなずいて答えた。

「もう一つ、ここで見たことは・・・いや、ここのことはすっかりさっぱり忘れてもらえると助かるんだけどなぁ。君がここまで来れたのも奇跡に近いとは言え、別の人も来れる可能性があるってことだから。火のないところに煙りは立たずってね」

だいたい、なんでそんなウワサが流れたんだか・・・ブツブツと独り言のようにつぶやくマーベラー。

よくわからない点も多いが、『なんとなくヤバイとこに足を踏み入れた』ってことは判った。ホーマにアレを作ってもらった時から一歩を踏み出していたってことも。あ・・・妹にホーマのことを話たってことは黙っていた方がよさげだな。

「結局、無駄足だったんですね・・・」

こんなとこまで苦労してやって来たのに。

「んー」

まぁ、滅多に見られないようなものも見れたし、神話の時代の人物と会えたってだけでもものすごい事かもしれないけど。当初の目的からすれば、残念無念。

「そうだ、こうしよう」

落胆しているあたしを見て、彼女が提案をしてくれた。

「装備は作ってあげる。ただし、幻影装備として。ここからまたアデンまで走って帰るのは一苦労だと思うから、その道中を楽にできるような効果のある装備にしてあげるよ」

ふむ。幻影装備であれば譲渡も何もできない。着たとしても時間が来れば消えてしまう。残ったとしても、あたしのカバンの中でひっそりと残るだけで誰にも見せられない。向こうの譲歩案としては妥当な線だろう。

「それと条件として、さっきも言った通り、ココのこと、わたしのことは誰にも話さないこと」

うーむ。こちらからすれば、あまり分のある取引ではない気もするが、自分の立場を鑑みれば好条件とも取れる。力の差を考れば口封じのためにここであたしを亡き者にしてしまう手もある筈だ。もしくは拉致監禁、馬車馬のように働かされても文句は言えない。それに比べればこの提案は・・・。

「わかりました。お約束します」

「よしよし、じゃあ、これが製作に必要な素材と料金ね。素材がなかったら売ってあげる」

暴利と言う程ではなかったが、それなりの料金を取られることになったが、まあ、仕方ない。

こうしてあたしは、新しい装備・・・ただし幻影・・・を手に入れることに成功した。

製作は至って簡単だったらしい。いやいや、マーベラーならば当然か。マエストロを超越した存在なのだから。

「はい、これね。海岸から海に入ってしばらく泳げば例の空間に辿り着けるはず。あとは、これに着替えて北東に向けて走れば話せる島の領域に辿り着けるはずよ」

受け取った装備はローブよりずっと軽かった。

「くれぐれも、ここのこと、わたしのことは内緒に、ね」

幻影装備の件は彼女にとってはあまり影響ないだろう。むしろ、あたしが吹聴してまわらないかどうかの懸念が残る。あたしのことを信用してくれたのか、はたまた、計り知れない異界の技術で、あたしを監視するってことなのだろうか。

「わかりました。お約束します」

口先だけではない誠意を見せることはなかなか難しい。しかし、きっぱりと、あたしは断言することでそれを表そうとした。伝わったかどうかは不明だが、彼女はうなずき返してくれた。

「それでは、失礼します」

ありがとうございました、とは言わなかった。彼女も、じゃあまた、とも、気をつけて、とも言わなかった。ただ、「うん」とだけ言って見送ってくれた。ただ、警報装置が「イラッシャイマセ」と言った。

海岸へ出て補助魔法をかけてローブのまま砂浜から海へと入る。しばらく海中を泳ぐと、すとん、と地面に落ちた。急に水がなくなり、例の空間へと落ちることができた。

そこで言われた通りに新しい装備に着替える。

確かに。これはものすごく身軽になれる装備だ。軽く走ってみると、その速さが劇的なことがわかる。それに、来る時に受けていたダメージもかなり軽減されている。

ローブを軽装備のように切り詰めたような造りで、余分な防護板や飾りなどはほとんど付いていない。胸元になぜかあたしの名前がでかでかと書かれているぐらいだ。でも・・・2ー3、この数字は一体、なんだろう?

幻影時間はそんなに長くはない。しかしこの移動速度なら、なんとかギリギリ、アデンに辿り付くことができそうだ。恐らく、そうなるように時間調整されていたのだろう。これをアデンに持ち込まないように。

かの空間を駆け抜けたあたしは、寸でのところで元のローブに着替えた。幻影時間の残りはわずかに『1』。

もう二度と着ることは叶わない。着た瞬間に消滅してしまう。誰にも見せることはできないが、記念としてバッグの中にひっそりと持っているだけなら、いいよね?

バッグに仕舞った装備を名残惜しげに眺める。

『ブレスドの体操服セット』

『セット効果・移動速度と回避率、持久力の大幅向上。攻撃力、魔力、防御力の大幅低下。幻影装備・ドロップやトレードはできない。一定時間装備後、消滅する』

いつまでも眺めていても仕方がない。代わりに取り出した帰還スクロールを詠む。

さあ、戻ろう。神話の世界から、現実の世界へ。

でも・・・体操服って、一体なんだったんだろう?

(おわり)


わかる人にはわかるとは思うんだけど、わからない人のためにちょとだけ解説。

「エデン」すなわち「異界」とは、ずばり「この現実世界」のこと。

マーベラー(結局名前出さなかったなw)のいた建物は、つまり、こっちの世界様式の「ビルディング」だ。「透明なクリスタルのドア」はガラスの自動ドア。イラッシャイマセのセンサー付き。これに驚かないのは、アデンにも「エヴァの水中庭園のウォーターウォール」や「国境の門」など、自動的に開閉する扉や警報装置なども存在するため、これらの技術には抵抗はないから。むしろ「見た目(デザイン)が異様」な方が驚きだったようだ。

「彫刻」の入っていた「四角いクリスタル」はガラス(またはアクリル)の陳列ケースだ。「彫刻」は「フィギュア(人形)」人形が女性ばかりなのは、その方が(現世で)よく売れるからw

マーベラーは現世=異界との接点を持ち、その製作能力でフィギュアの原型を作ってその利権を売っているってのが裏設定。

この流れから推察すると、おそらく、マーブルを含めた神々は現世の人物だと考ることもできるだろう。

ちなみに体操服のデザインは、いわゆる学校タイプ(シャツ+ブルマまたはスパッツ)ではなく、バスケットのユニフォームっぽい感じだ。これだとブレスドのデザインを踏襲できて違和感も少ない。これもイラスト描きたいんだけどねぇえ(;;

まあ・・・てなところで、時系列的には『ブレスドの水着』の直接の続編となる。妹ルルの『とんでもなく、すごい、装備?』はこのお話の後と考えることができる。

ホーマは、るるが何度も訪ねて来てマーベラーのことを聞いたため、不安を感じて通路にトラップや強いモンスターを配置したのだろう。

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