美少女戦士セーラームーンR 劇場版

  幾原邦彦監督  脚本 富田祐弘  作画監督 只野和子

 セーラームーン初の劇場映画。東映のテレビアニメ劇場版はお子様向けであるというセオリーを破って、非常にレベルの高い映画を製作した。ただしお子様にはレベルが高すぎて少々難解だったようで、果たして興行的に成功だったかどうかは疑問である。なお地域によっては夜間に中学生以上だけを対象にして特別上映する館もあったようだが、それもうなづける作品。実際私が劇場に行った時も、退屈そうにしている子供と対照的に、父親が身を乗り出して画面に見入っていると言う光景も見られた。

 ストーリー

 うさぎ達の前に突然現れた異星人フィオレ。彼は子供の頃の衛と知り合いであった。衛との友情のために花を持って来たと言う彼。しかし彼は悪魔の花キセニアンに支配されていたのだ。キセニアンは弱い心に取り付き、取り付いた人間を支配し、憎しみを爆発させるのである。憎悪にかられ、地球人を滅ぼすと言うフィオレには衛の言葉も届かない。しかも彼はセーラームーンを、衛をだましている者として憎みその命を狙う。セーラームーンをかばった衛は重傷を負い、フィオレに連れ去られる。その頃、地球に一個の小惑星が接近しつつあった。実はそれこそがキセニアンの本拠地であり、彼らは地球の人間のエナジーを奪い尽くそうと考えていたのだ。セーラー戦士達はその小惑星に向かう。

 

 チェックポイント

 たかがお子様映画と言うような手を抜いた作りを全くしていないのがこの作品である。作画・シナリオともに最高クラスで、完全にお子様映画の枠を超えている。

 まず一見した時から、その作画クオリティの高さには溜息が出る。ワンカットに至るまで非常によく描かれており、魅力的なシーンの連続であり、各キャラファンもその点では十分堪能できる出来になっている。実際にLDで各コマごとにチェックしていても、手抜きしていると思える作画はない。これはまさに驚異的である。

 監督の幾原氏自身によると、この映画は幾原流のセーラームーンRであるとのことだが、実際にこの映画はセーラームーン(無印)との関係が非常に深い。セーラームーンをかばったタキシード仮面がフィオレに刺されるシーンなどは第34話を彷彿とさせるし、少年時代の衛の病室のシーンは、第46話に出てきたそのままである。そういった点でこの映画はセーラームーンから直結しているエピソードであるという色彩が非常に濃い。

 また登場キャラも、幾原流セーラームーンRという説明を納得させるものである。フィオレのキャラは、言うまでもなくTV版Rのエイルに非常に似ており、キセニアンの方はアンに非常に似ている(声優も同じなのであるが)。しかしそのような外見的類似よりも、孤独感故に憎悪にかられたフィオレが真の愛に芽生えることで救われるという過程が、TV版Rのエイル&アン編を連想させるものである。

 この作品のシナリオは、心の中に存在する孤独感・疎外感というのをキーワードにして、友情や愛情を描いている。またその過程で亜美たちセーラー戦士にとってうさぎがどんな存在であるのかが描かれており、彼女たちの結びつきについて述べられています。この映画の中では、衛や亜美たちの孤独感が何度も映像的に表現されている。交通事故で両親を失ってしまった衛、天才故に回りに煙たがられ孤立していた亜美、その腕力故におびえられて敬遠されていたまこと、周囲から理解されず孤独を余儀なくされていた美奈子、その霊感故に白い目で見られていたレイなど、それぞれの登場人物がみんな何らかの孤独を感じていたのであるが、それらの人物がうさぎを核にしてつながっていく過程が描かれたのがこの作品である。彼女たちはうさぎとつながることによって、より自分らしく生きていくことが出来るようになったのである。

 そしてそのつながりは最終的にフィオレをも救うことになる。フィオレがうさぎに対して感じた憎悪は、久しぶりにであった親友に別の親しい友人が出来ていた時に感じる嫉妬や喪失感のようなものである。フィオレはその孤独さ故に衛に対して独占欲を持ったわけであるが、うさぎとの結びつきによって自らの心の過ちに気づいていくのである。これはTV版Rの「与える愛と奪う愛」というテーマそのものであり、フィオレが与える愛に気づいたのがこの映画のラストシーンなのである。彼はうさぎのためにその命のかけらを差し出して去っていった。心と心の結びつきがある限り、人は決して孤独ではないということを語りかけているようである。

 なおこの作品は映像的エンターティーメント要素もしっかりと含んでいる。例えば、前半の地球での妖魔との戦いは非常に早いテンポで、息もつかせないほどの勢いで展開されている。このシーンでのスピーディーな表現には実に感心させられ、まさに劇場映画の醍醐味を感じさせるに十分なものである。また小惑星上での妖魔の大軍との戦闘シーンは特筆に価するだろう。TV版では到底見られないようなスケールの大きな戦闘シーンを描いており、ある種のカタルシスさえ感じさせられる。

 そして圧巻は最終場面の小惑星が地球に突入しようとするシーン。BGMの「Moon Revenge」に完全にシンクロさせた画面展開は、すべての画面構成を完璧に計算した上でないと不可能である非常に高度な技術である。BGMのソロパートにあわせて、各セーラー戦士達の回想シーンを挿入する演出など憎いほどだ。

 なお今回のテーマであり、メインのモチーフとして用いられているのは「花」であるが、幾原氏は自身が演出した第51話(セーラームーンR)でも桜を用いた独特の画面を展開しており、この映画でも合い通じるところを感じることが出来る。このような映像的表現はいかにも幾原氏らしいところでもあり、この花へのこだわりは、後のウテナにも通じるものを感じさせる。 

 なお特筆しておくべきこととしては、衛の少年時代の声を緒方恵美が演じていることぐらいだろうか。TV版RではペッツをSではウラヌスを演じて好評を博した彼女が、ここでは少年の声を演じており、なかなか贅沢なキャストでもある。

 「お子様映画」という制約の中で作成された最大の傑作、それがこの作品である。とかく制約の多い中で作られるアニメ作品が多いが、そんな中でも本気で作ればこれだけの作品が作れるということを示したという点で、この作品は後にも残っていくことになろう。 

 

 

今回のチェックシーン

 幼き日の衛とフィオレ。衛はフィオレに花を渡した。

 植物園にて、いきなりキスをねだるうさぎに、焦る衛。

 興味津々で覗き見のセーラー戦士達。

「覗き見なんて、ダメ・・」って言ってる亜美ちゃんも、この後みんなの様子につられて思いっきり覗き見しちゃいます。本音と建前が格闘する亜美ちゃん。

 目を開けた前には、衛ならぬ毛虫が。驚きのあまり秒速36万キロで逃げるうさぎ(笑)。

 衛の前に現れた謎の少年。実は彼こそがフィオレであった。

「衛さんて男の人にももてるのね・・。」

 思わずこぼした一言に思いっきり突っ込まれてこの後亜美ちゃんはメロメロになります。

美奈子「亜美ちゃんのエッチ」

 謎の植物に操られる人々に、美奈子のピンチ。

 しかしオッサン。美奈ちゃんのスカートの中のぞいとるようにしか見えんぞ。

 ちびうさが危ない! うさぎはとっさにちびうさをかばって飛び込みます。

 気を失ったうさぎの目を覚ますのにちびうさが取った方法は。この後ワンカットで18秒も引っ張ったという有名なシーンがきます。

 しかしちびうさ、これでは永遠に目を覚まさなくなるぞ。

「助けてくれてありがとう・・・頑張って!」

 ちびうさもうさぎに声援を送ります。

 現れたフィオレ。彼は昔、衛に出会っていたのでした。

 しかしその胸には、悪魔の花キセニアンが。フィオレはキセニアンに支配されていたのだ。

 フィオレの強さは半端じゃない。セーラージュピターでさえも、格闘戦で吹き飛ばされてしまう。

 セーラームーンの危機に、看板の中から現れたタキシード仮面。しかし紳士服ヒグチって何?

 セーラームーンをかばってタキシード仮面は倒れます。これは34話であったシーンの再現です。

 タキシード仮面をさらわれて、元気を失くしていたうさぎに対するちびうさの励ましがこれ。それにしても、ちびうさはいろいろなアイテムを出します。

 セーラーテレポートで小惑星に向かうセーラー戦士達。しかし飛んでいくのならテレポートではないと思いますが・・。

「いてっ」

 みんなはうまく着地したのに、うさぎはしっかりしりもちついてます。

「シュープリームサンダー!」

 ジュピターの攻撃が妖魔をなぎ倒す。

「クレセントビーム!」

 ヴィーナスの攻撃も敵をなぎ払う。

「シャインアクアイリュージョン!」

 マーキュリーの攻撃もパワーアップしてます。

「ファイヤーソウル!」

 マーズの激しい攻撃。

「えーいっ!」

 セーラームーンもムーンプリンセスハレーションをなぎ払います。このあたりの戦闘シーンはすごく激しい。

 とらえられたセーラー戦士達。このあたりは45話や51話のイメージです。

 抵抗のできないセーラームーンはエナジーを吸い取られる。セーラームーンのピンチ。

 うさぎと出会う前の孤独だった頃の亜美ちゃんの表情。彼女の孤独を救ったのはうさぎでした。

 まこちゃんもその強さ故にみんなに敬遠されて孤独でした。彼女の心もうさぎによって救われた。

 美奈子も孤独を感じていた。

 それにしてもこのシーン。画面の色調を描くセーラー戦士達のカラーで統一してバリエーションを持たせているのが見事。

 霊感の強さ故に回りから不審な目で見られていたレイ。彼女も寂しかったのです。

 エナジーを吸収されてぐったりしてしまったセーラームーン。フィオレの攻撃が迫る。

 そこに衛の薔薇が。これがフィオレにとっては一番のショックだった。

「あなた一人なんかじゃないわ・・。」

 うさぎはフィオレに優しく語りかける。

 フィオレに衛が渡した薔薇は、実はうさぎが衛に与えたものだった。この事実がフィオレの頑なな心を溶かします。

 プリンセスとなって銀水晶の力でみんなを命懸けで助けようとするうさぎ。このあたりから画面がBGMの「Moon Revenge」と見事にシンクロします。

「うさぎちゃん!」

 マーキュリーも最後の力を振り絞ってセーラームーンを援護します。

「うさぎ!」

 マーズの必死の思い。

 それにしてもこのシーンがBGMのソロパートに見事にシンクロしてます。

「うさぎちゃん!」

 ジュピターも最大のパワーを出します。

「うさぎちゃん!」

 ヴィーナスも必死の思い。

 同じようなシーンの繰り返しになるのを、アングルを変えることで変化をつけてるのが見事。

 衛もうさぎをサポート。

 しかし銀水晶は壊れ、うさぎは力尽きます。

 そこに現れたフィオレ。セーラームーンと衛によってその魂を救われた彼は、命の花を差し出します。これが彼にとって衛との約束の花でした。

 衛とうさぎの口付けのシーン。非常に美しいシーンです。

「言ったでしょ・・全部私が守ってみせるって・・。」

 うさぎが生き返ります。彼女の思い、そして彼女に対するみんなの思いが奇跡を起こしたのです。

「うさぎちゃん!」

 駆け寄るみんな。ここで3回目の「Moon Revenge」がかかります。

 

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