阿部薫について思うこと

ひっぴ 

 私は阿部薫のことをほとんどしらない。 CDはたった3枚しか持ってなくて、おまけにその内の2枚はエデション違いの同じもの(風に吹かれて)。
 
 彼のことに興味を持ったのは鈴木いづみの本を読んでからだ。 彼女と暮らしはじめて片っ端からロックのレコードを叩き割った阿部薫の音楽を一度聴かねばなるまいと思ったのだ。
 

 目の前が真っ白になり、なにがなんだかわからなくなった。 
 タワーレコードのジャズコーナーで私は貧血を起こしてぶったおれた。 なんでジャズコーナーなのだ、こんなことはたった一枚しかないブライアンジョーンズのコーナーの前で起こるべきなのではないのか…。 少しづつ視力が復活し、馴染みのない、もちろん聴いたこともない人達のCDが目に入ってきた。

 全くといって演奏者やタイトルの文字が目に入ってこない。 不得意なものを目の前にするときの現象だ。 だけれど1枚だけ黒い色をした素敵なジャケットのCDがあり、手に取ると、それがセリーヌの朗読からはじまる阿部薫のMORT A CREDITだった。
 

 緑色の顔をしていたらしい男の吹くアルトサックスが聞こえてきた途端、うちの猫が駆け寄りスピーカーに頬ずりしはじめた。 そして私はすべての動きを止めて聴き入ってしまった。

 限界すれすれに魂をさらけ出している、崖っぷちのぎりぎりのところに立っている、そんな緊張感と幽体離脱して急上昇する時のようなスピード感、ぐっと押し殺された複雑な心境、長い音、短い音、いろんな形で表現されているそれらの感情、言葉、魂に私はがんじがらめになった。
 

 創造するということは自分の体のどこかを切り刻んでどくどくと真っ赤な血を流すようなものだと私は思っていたけれど、阿部薫の音楽を聴いたとき、やっぱりそうなのだと実感した。 音楽に純粋に立ち向かうということはこういうことで、それは大変疲れる作業だ。 うまくやれば減った血液も鉄分摂取して元に戻るだろうけど、阿部薫にはそんなことどうでもよかったのだろう、私なんかには決して理解できないところをいつも見つめていたのだろう。
 

 近ごろ貧血を起こしていない。 あんな風な出会いはめったにないわけだ。
 

 というわけど今ではyes I'm lonely, wanna die(ジョンレノン)だけじゃなく、アカシアの雨に打たれて、このまま死んでしまいた〜いと歌ってしまうのであった。

 
 以上が、阿部薫について思うことでした。

注)ブライアンジョーンズという人はローリングストーンズのリーダーでドラッグの多用のせいなのかどうなのか…、27才の若さで死んでしまった私のダーリンである。

   

10/30/1997 ひっぴ 


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--1997.11.01 初版作成--