継続可能な高齢者福祉の構築

「ケア」を最小限にすれば、
高齢者も社会も元気になる。

「自立支援」と「先手必勝経済」
 二十一世紀に向けて、介護保険によって高齢者ケアを支えていこうとしている日本が、福祉先進国デンマークから学ぶべきエッセンスは何かについて考えてみたい。
 キーワードは「自立支援」と「先手必勝経済」である。つまり、要介護になる前の段階で予防すれば、自立して生活できる期間が長くなり、社会的費用の無駄遣いが防げるという事である。高齢者自身にとって幸せな社会、財政的にも健全な社会が同時に築けるという点である。
 デンマークの高齢者は自分達の要求として「高齢者福祉は過剰なケアの提供ではなく、自立の支援であってほしい」という方針を打ち出した。多くのお年寄りが障害を克服し、補助器具を積極的に活用し、自分に残された能力を使いきって頑張って生きている。そこには「これが自分たちが選んだ道だから」という自負さえ感じられ、体制を根っこの所で支えている。そして、彼らの意思と生活のために、介護の専門家は最小限のケアで出しゃばりすぎず、人間として向き合って適切な支援をしている。

日本は依然「ベッドの上」のケア
 かたや日本はどうか。「在宅ケア」が寝たきりの世話を意味するような状態のままで、ケアは「ベッドの上」で受けるものであり、「自立」して生きるためのサポートであるという考えがなかなか広がっていかない。こういう考えを発信しないから、受け入れる素地も育たないという悪循環からどうしても抜け出せないでいる。
 日本の現状を見ていると、蛇口から注がれてコップからあふれ出てくる「要介護者」を対象に、ベッドの上のケアに努力がフォーカスされ、そこにビジネスチャンスを求める民間人が群がっているように思えてならない。社会全体として金のかかる構造である。
コップから「要介護者」があふれ出ないよう、蛇口の栓を閉める対策を二十年前から始めているデンマークと対象的である。蛇口を閉める作業とは、自立支援型のケアであり、自立生活できる高齢者を作っていく施策である。
そうしたケアや施策は高齢者の生活の質を高めるものであり、同時に社会的費用を有効に使うことにも繋がる。

「自立支援」でうるおう仕組みを
 介護保険の導入後、ケア・マネージャーの資質いかんで、ケアの質が大きく左右される状態が生まれている。自立支援型のケアにおいては、リハビリや補助器具活用など、理学/作業療法士が担当する領域の知識と経験が重要になるが、補助器具についての知識が不足しているケア・マネージャーが多いとも聞く。
 措置から選択へと、福祉が市場経済の世界へと投げ出された現在、このような蛇口を閉める作業をした施設やサービス提供業者がうるおう仕組みを作らなければ、自立支援型のケアは広がってはいかない。寝たきりと社会的費用の無駄遣いが加速度的に増加するだけである。

財政面でも持続可能な高齢者福祉
 デンマークでは3年前から、75才以上の高齢者を対象にした予防訪問をスタートし、お年寄りの現状を把握することで衰弱の進行を止める積極的な予防策を始めた。また98年の「新社会法」では、「困った人に手をさしのべる福祉」から「努力する人を支援する福祉」への方向転換を打ち出し、財政スリム化への布石を準備した。現在の50代が年金受給年代(65才〜)になる頃、財政は最大のピンチを迎えるからだ。
 さらに先の見通しについて言えば、デンマークでは早くから少子化にも歯止めがかかり、将来の税負担層も確実に確保されつつある。
 ベッドで弱々しく横たわる老人のケアから、よりよい人生を求めて努力する高齢者を支援するケアへ。財政的にも持続可能な高齢者福祉を築くために、ケアの内容や施策の変革と同時に、ひとりひとりが自分の老後を真剣に考えて意識を変革することから始めなければ、21世紀の日本の高齢者福祉は切り開いていけないと思う。

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