デンマークのグループホーム

痴呆性高齢者ためのグループホームは、
大規模施設の反省から生まれた。

痴呆性高齢者の増加
 現在日本には約150万人の痴呆性高齢者がおられ(25%が施設で、75%が自宅で暮らしておられる)、その増加が問題になっている。
デンマークでも痴呆性高齢者が急激に増えており、デイセンターが痴呆専門のデイホーム(日中だけお世話する通所型ホーム)を作るケースが最近の動きとして目につく。
 デンマークでの痴呆性高齢者ケアの中心はグループホームであり、1980年代後半からの「施設ケア」から「在宅ケア」への移行の中で、その存在がクローズアップされてきた。そして、政府は2001年までに新たに4000戸の高齢者のための住宅建設を予定しているが、その40%がグループホームで計画されている。
大規模施設の反省から
 そもそもグループホームは、プライエム(特別養護老人ホーム)などの大規模施設では痴呆性高齢者のケアに限界があるという反省からスタートしている。
 その辺りの事情を、デンマーク社会省の「痴呆性高齢者のケアとグループホームに関するプロジェクト」に参加し、研究を続けているアネッタ・ヨアンセンさん(オーデンセ理学療法学校校長)は次のように説明する。
 「痴呆のお年寄りは、プライエムのような日常生活のイメージとはほど遠い大きな建物に戸惑い、混乱してしまいます。彼らには、今まで自分が暮らしてきた「自宅」と同じような環境のなかで、今までと同じリズムで暮らすことが大切。どんな仕事をして、どんな人生を送ってきたかを理解することも大切です。」 大きな廊下がまっすぐに走り、その両脇に個室が並んだ大きな施設はまさにヒューマン・スケールを逸脱した建物であり、痴呆のお年寄りはそこを病院と思って混乱してしまう。多くの職員が行き交うあわただしい様子もまさに病院。愛情と安心感に包まれた家族と顔を合わせながら、自分のペースでできる普通の「生活」がない。そんな反省から生まれたのである。

 グループホームは6〜7人前後のメンバーが専門教育を受けたスタッフの支援を受けながら、家事などにも参加し、怯えることなく混乱することなく、自分なりのリズムを取り戻して生活を再構築していく「自宅」である。


しきりユニット形式のグループホーム
 グループホームが大規模施設の反省から生まれていることからも解るように、デンマークではプライエムに棟つづきで併設されたユニット形式のグループホームが多く見られる。
 もちろん、プライエムとの境のドアに鍵は掛けられておらず、中央部にはキッチンとダイニング、居間があり普通の「家」とまったく同じしつらえになっている。ここで一緒に食事をし、くつろいで時間を過ごす。自然を感じながら外のベランダで食事をとれるようにもなっており、入居者はそうすることを楽しみにしている。個室はリビングのまわりに配置されている場合が多く、それぞれに思い出の家具や家族の写真を飾って暮らしている。


日本でも増えるグループホーム
 日本では、これまではグループホームの施設整備に関して国庫補助がなく、建築基準も明確には設けられていなかった。しかし、介護保険ではグループホームでのケアも介護保険の対象とされており、ゴールドプラン21では3200カ所のグループホームが計画されている(2000年10月段階では600のグループホームが設立されている)。日本でも今後、グループホームが増える傾向にある。 

 施設に暮らす痴呆性老人が徘徊や失禁を「問題行動」として叱責され、適切なケアを受けておられないことを聞くにつけ、日本でのこの新しい動きは大きな進歩であると思う。しかし、日本人は驚くほどにスタイルを真似ることが上手である。グループホームでのケアが、単に「大規模施設の小規模化」に終わらないよう、住環境の面でもケアの面でも、時間をかけて熱意をもってじっくりと取り組む必要があると思う。


古い住宅を改造した痴呆性高齢者のためのグループホーム


 デンマークでは、2001年までに新たに4000戸の高齢者のための新住宅建設が予定されており、その40%がグループホームで計画されている。デンマークにはどんなグループホームがあるのだろうか?


住宅街の静かな環境に建つ一戸建のグループホーム
 コペンハーゲンの南約30Hのフレデリクサン市には、社会省の研究プロジェクトの一環として一九九三年に建てられた一戸建て形式のグループホームがある。住宅街の中にあり、原っぱで遊ぶ子供達の姿がサンルームから眺められる普通の「家」である。こうした住宅街に痴呆性高齢者の住宅を作るとなると近隣からの強い反対がでるのではないか?と気になるが、「別に反対はありませんでした。近所の皆さんに事情を説明して、お年寄りが外に出て帰ってこれなくなった時には助けてください」と協力をお願いしたところ、すんなりと了解を得られたそうである。
 一戸建ての場合でも玄関には鍵をかけず、「見守り」を大切にして自由に外出できるようにしている。また、痴呆になっても残っている能力の活性化をはかるために「この家のお母さん」であるキアセンさんは、できるだけデイセンターに行ったり、理学療法を受けることをすすめている。
 余談になるが、人口17000人のフレデリクサン市には、届け出があるだけでも在宅の痴呆老人は120人。彼女を含めて二人の痴呆コーディネーターが巡回し、家族の相談を受けてケアを指導しているが、全く人手が足りないとのことであった。
古い市営住宅(二戸分)を改造したグループホーム
 興味深い例として紹介したいのは、コペンハーゲン市街地の古い市営住宅の2戸分を改造して、ひとつのグループホームにしたものである。1階にあるため、広い庭がある。花が咲いたり、新緑が芽吹いたり、小鳥が来る様子を通じて四季の移ろいを感じることができる。もちろん1人1部屋で、各自思い出の家具を持ち込んで、自由にレイアウトしている。自宅で暮らすのと同じようなリズムで時間が流れ、決められた生活プログラムは食事とお茶の時間くらいなものである。スタッフに付き添われて、近くに買い物に出かけたりするのは日常茶飯事だそうである。お茶の時間にはみんなでテーブルを囲んで、おやつを楽しむ。
 このグループホームは新規建設ではないため非常に少ない予算で作ることができ、もともと「住宅」であったのだから、住環境という面からもよりなじみやすい雰囲気がある。折からの福祉予算の削減のもと、知恵を絞って考え出された、デンマークらしいやり方であると言えるだろう。


日本でもグループホームの時代がやってきている
 日本には現在、150万人の痴呆のお年寄りがおられ、その4分の1が施設でケアを受けていると言われている。
その多くが、ヒューマンスケールを逸脱した大きな施設でのケアであり、それがために「問題行動」を起こし、叱責されてさらに状態を悪化させていくという悪循環に陥っているのではないだろうか。
 急速な高齢化とともに、痴呆性高齢者の問題は、今後急速にクローズアップされてくるに違いない。3200カ所のグループホーム建設も計画され、小さな社会福祉法人認可の方向もあるようである。
 デンマークの例にみられるような、比較的小規模な予算でも実現できる古い住宅改造型のグループホームは、これからの痴呆性高齢者ケアの救いになりはしないだろうか。


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