「施設」から「住宅」へ

高齢者向けの住宅政策は、
安易にケアをセットにしないで。

政策の重点は「高齢者住宅」
 デンマークでは1987年「できるだけ長く自宅で」というスローガンを確立してから、プライエム(特養)の建設を禁止して、徹底して「高齢者住宅」の建設に力を入れてきた。住宅政策によって豊かな老後を支えようとしてきたのである。しかし日本では「高齢者住宅」はあまり紹介されていない。車椅子でも快適に生活できるこのバリアフリー住宅は現在の28000戸から増加傾向にあり、31000室あるが減少していくプライエムと対象的である。その多くはコミューン(市町村)が管理する賃貸形式で、身体の衰弱や障害などが入居条件となっている。


「高齢者住宅」の町づくり
 いわずもがな「高齢者住宅」は「自宅」の位置づけで、ケアが必要になった時にはヘルパーが派遣される。決して職員常駐型の「ケア付き住宅」ではない。面白いのは、多くの高齢者住宅が集合するタウンを作るような場合は、訪問看護ステーションをタウン内に作ってしまうことである。在宅ケア総合センターを核とした町づくりをコムーネが推進するといったほうが適切かもしれない。かくして、タウン内をなじみの専任ホームヘルパーが自転車で行き交うことになる。が、決して住宅に常駐しているわけでないのである。「ケア付き」にしてしまうと、過剰なケアが高齢者の残存能力の活性化を阻害してしまうという致命的な結果を招く可能性がある。
 デンマークには「保護住宅」という「ケア付き住宅」も存在したが、プライエムとの差別化があいまいとなり、今はほとんど姿を消している。


日本で「ケア付き住宅」人気

 さて、日本では「ケア付き住宅」という新しいカテゴリーの高齢者向け住宅が脚光を浴び始めている。スタッフが常駐しており、高齢者が入居しながら介護サービスを受けられるというものである。背景には、企業の遊休社員寮など大きな投資をせずに利用できる物件が増えていること、介護保険の導入で介護サービスの利用拡大が見込めることなどがあるらしい。
 都道府県等の住宅供給公社も分譲住宅事業から撤退して、高齢者が亡くなるまで住み続けられる「ケア付き賃貸住宅」の供給へと事業転換することを発表した。公社では2010年までに約十万戸を建設する予定である。
 事業形態も様々で、「在宅介護」の基盤としての住宅を建設会社が提供し、在宅介護サービス会社がケアを提供するという提携型もあるという。


あいまいな「ケア付き住宅」
 私には集合住宅の建物内にヘルパーが常駐する時点から、この建物の「施設」化が始まることが懸念される。ヘルパーが常駐する建物での生活と、自立して暮らす自宅にヘルパーがやってくる生活を同一視することはできない。「住宅」なのか「施設」なのかはっきりしないポジショニングの中で、当初は過剰ケアから「寝たきり」のお年寄りが増え、年を経るに従ってスタッフの不足から「寝かせきり」が増産されるのでは…これが、私の杞憂にすぎなければよいのだが、要介護になった時のために建物内には静養室があり、その後には介護専用施設が用意されているという。しかも「ケア付き住宅」は建設省の管轄である。
「自宅で暮らす」の意味
 一部の方々の地道な努力にも関わらず、日本では「在宅介護」が「寝たきりのお世話」を意味するような状況である。こうした日本において、介護保険をビジネスチャンスとばかりに、フルサービスの商品・サービスが売り出され「便利」「安心」に人々は飛びつく。いま一度「最後まで自宅で暮らす」とはどういうことなのか?「自立」とは?「自立支援」とは?サービスを提供する側も受ける側も、じっくり考えてみる必要があると思う。

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