デンマーク高齢者福祉のフレームワーク


国・県(アムト)・市町村(コミューン)の地方分権3層構造。
まず、デンマークは人口520万たらずの小さな国。九州ほどの大きさです。その国が14県(アムト)275市町村(コミューン)に分かれ、徹底した地方分権体制の中で医療については県(アムト)、児童・高齢者福祉については市町村(コミューン)が担当しています。これは「暮らしに密着した福祉サービスは、より住民に近いところで行われるべきである」といった考えに基づくもので、システムも内容もコミューン毎に少しずつ違っています。コンミューンのサイズは人口1万〜2万を目安にしており、最も大きいコペンハーゲンで約50万人、最少が3000人です。
社会省のウラ・ブルーン女史は「デンマークは小さな国であり、さらに細かく分割して生活直結で福祉を運営している点を見落とさないで」と事あるごとに話されます。例えば、コペンハーゲンの隣のゲントフテ市(人口6万7千)の場合、市内を5つの福祉地区に分割(1地区に1万人弱)し、各地区に在宅ケア(訪問看護婦、ホームヘルパー)の拠点やお年寄りが遊びに行く活動センターを作って、お年寄りひとりひとりの顔が見え声が聞こえるような小さなまとまりの中で福祉サービスがすすめられているというイメージです。

高福祉・高負担
こうした高いレベルの福祉を支えているのが高い税率です。直接税として所得の50%以上が徴収され、付加価値税(内税方式の消費税)は25%。自動車になるとこれがなんと200%に跳ね上がります。つまり、車を買う時には本体価格の3倍を支払わなければなりません。
しかし、税金を納めれば国が死ぬまで生活を保障してくれわけですから、老後や傷病時のために蓄える必要もありません。逆にたくさん貯金をもっていると老人ホームへの入居費用が高くなってしまいます。
 驚くべきは、これだけの税負担に対して「福祉はもういいから、税率を低くして!」という国民がほとんどいないこと。「税金は高くても、不安なく暮らせるのだからいいんじゃない?」というのが率直な感触のようです。
デンマーク人には「税金を取られる」という意識はなく、税金は国家に「預ける」ものととらえているなどとよく言われますが、まさにそうだと思います。政治汚職が世界で最も少ない国デンマークならではの、うらやましい話です。
そして、国家予算の45%前後が社会保障に使われています。ちなみに日本は18.8%(97年)。

スローガンは、「出来るだけ長く自分の家で」。
また日本とは違い、デンマークではお年寄りの一人暮らしがごく普通です。それはこの国では18歳になると若者は独立して親元から離れるため、その時点で夫婦だけの生活となり、その結果としてごく自然な形で自立したお年寄りの暮らしがあります。
デンマークでは、オイルショック後の経済不況によって福祉予算が削減され「施設ケア」から「在宅ケア」への移行がすすめられました。1987年には「高齢者および障害者住宅法」が制定されて「できるだけ長く自分の家で」というスローガンの下に、「在宅ケア」への移行が一層すすめられたようです。しかしこの動きは、経済的理由によるものでなく、「福祉が『過剰なケア』を提供するものではなく『お年寄りの自立を支援する』ものであるべき」というフィロソフィに基づく大きな変革だったのです。
 ホームヘルパーや訪問看護婦、配食サービス、デイセンターなどの利用によって、お年寄りたちは、ちょっとやそっとの病気とは上手に同居しながら自宅で頑張って暮らしています。


高齢者福祉三原則「自己決定権」「生活の継続性」「残存能力の活用」。
高齢者三原則は、デンマークが自国の高齢者福祉モデルを構築していく上で全体を貫くフィロソフィーとして確立していったものです。具体的には、1979年に設置された「高齢者委員会」において練り上げられました。
自己決定権:
いくら年老いても、自分の生き方や身の処し方を決める権利は本人にあるという考え方。ですから、デンマークではプライエム(老人ホーム)へ入るにも、自分で意志決定します。周囲の人間がすすめても、本人が承諾しなければ(具体的には署名するということですが)、それを実行することはできません。
生活の継続性:
普段通りの生活を続けることの重要性です。高齢になると、住まいを変えるたびに老化が急速に進みます。
一人で暮らせなくなるとプライエムに入ることも一つの選択ですが、住み慣れた環境での生活をできるだけ長く継続できるように社会がサービスを提供すべきであるというわけで、「できるだけ長く自宅で」という考え方に一致します。プライエムに入居する場合でも、プライエムでの個室が「今まで通りの生活の場」として感じられるよう、親しんできた家具や思い出の品々に囲まれて生活できるようにしています。
残存能力の活用:
残された能力をできるだけ使って、少しでも自立した生活が送れるようにすること。高齢者のケアは「過度なケア」ではなく、あくまで「自立の支援」であるべきだということです。自立して今まで通りの暮らしをするのがその人にとっての一番の幸せであると考えます。

「自立を支援する」ための多様なサービス。
高齢者福祉三原則に基づいて「できるだけ長く自分の家で」暮らすこと。そのような生活を可能にするには、市町村(コミューン)が多様なサービスと活動の場を提供することが前提になっています。
その内容には次のようなものがあります。金銭・住宅・在宅ケア・施設ケア・余暇文化活動の5つのグループに分けてみましたが、リタイアした後の暮らしをよりアクティブにするために、さまざまな選択肢が用意されています。
 <経済的支 援>年金(早期年金・老齢年金)、家賃補助、暖房費補助
 <在宅ケアの支援>訪問看護婦の派遣、ホームヘルパーの派遣、配食サービス、施設でのショートステイ
 <施設でのケア> プライエム、保護住宅、痴呆老人グループホーム
 <医療・リハビリ>ホームドクター、リハビリ病院、デイセンターでの理学療法・作業療法、補助器具貸与
 <余暇文化活動> デイセンター(各種アクティビティ)、高齢者国民学校
 <住宅の提供>  高齢者住宅(賃貸・分譲)、共同住宅のコーディネート
 


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