依存と乱用

向後(こうご)善之

 向後善之先生は、サンフランシスコにあるCIIS(カリフォルニア統合学研究所)という大学院でカウンセリング心理学を専攻したあと、 1999年の9月から「Henry Ohlhoff Outpatient Programs」という、アルコール・薬物依存者及び、拒食・過食症の人達にカウンセリング提供する施設で、インターンカウンセラーとして働いておられます。

 
 
 まず、アルコール・薬物依存とは、何かという事ですが、DSM-W(「精神疾患の分類と診断の手引き」1988年、医学書院)によれば、物質依存(アルコールや薬物への依存)は、次の様に定義されています。

・ 酩酊または、希望の効果を得るために、多量の物質が必要。

・ 酔いからさめた後、その物質に特有の離脱症状(健忘障害、気分障害、睡眠障害
等)がある。

・ 使用する量がだんだん多くなる。

・ 何度も物質使用の中止・量の制限に失敗する。

・ 物質を得るため(買いに行く等)、物質使用のため、回復のために、日々の生活の中で多くの時間を費やす。

・ 物質使用のために重要な社会的、職業的または、娯楽的活動を放棄、または、減少させている。

・ 物質使用によって、身体的、精神的問題があるにもかかわらず、物質使用を続ける。


 この内3つ以上あてはまる項目があれば「物質依存者」と定義されます。この様な症状を持つ「物質依存者」は、いわゆる「物質乱用者」とは異なります。「物質乱用者」は、例えば「大酒のみ」といわれる人達の事を指し、大酒(大量のドラッグ)を飲む人達なのですが、ある程度のコントロールが可能な人達なのです。「物質乱用者」は、肝臓が悪くなったりすれば、自分の健康を考えてお酒(ドラッグ)を控えるか、止める事がなんとかできるのです。

 ところが、物質依存者達には、それができません。彼等は、アルコールやドラッグが無ければ生きていけないと感じているのです。また、アルコールやドラッグの臭い、味等にとても敏感で、例えば、アルコール依存の人達は、アイスクリームやケーキの中に入っている少量のリキュールだけで、アルコールに対する猛烈な渇望を感じてしまうのです。

 アメリカでは「依存症は病気である。」という考え方が主流で、一度依存症になったら、糖尿病の様な病気と同じで、一生その病気と付き合わなくてはならないと言われています。彼等の中には、10年以上アルコールを止めていたにもかかわらず、たった1杯のビールを飲んだだけで、元の状態に戻ってしまった人もいるのです。
 この様な訳で、今の所アルコール・ドラッグ依存から抜け出す唯一の方法は、完全に使用をやめる事だというの考えが主流となっています。

 以上の様な事を書くと「ああ、僕は物質乱用者だから、いつでもやめられるから大丈夫だ。」と言う人がいるかもしれません。しかし、「物質依存者は、自分が依存者である事を認め様としない。」という傾向がある事を忘れてはいけません。廻りから見れば、完全に「依存者」なのに、「自分は、お酒(ドラッグ)の量いつでもコントロールできる。」と言い張る人がたくさんいるのです。また、たとえ「乱用者」であっても安心はできません。アルコールにしろ、ドラッグにしろ、連続して使用しているうちに、同じ効果を得るためには、より多くの量が必要になってしまいます。そして、結局は、「依存者」になってしまう事が多いのです。
 簡単な判断基準としては、飲むと性格が変わる人や、飲んでいる時の記憶を失った事がある人は、「依存者」である可能性が高いといえます。また、物質依存には遺伝的な要素があるという説があるので、親族の中に「依存者」がいる場合には、要注意でしょう。

 アメリカには、この様な「物質依存」症状に悩む人達が、驚く程たくさんいます。例えば、成人のアルコール依存者が600万〜1,800万人、麻薬常用者が50万人、コカイン常用者が160万人、マリファナ常用者900万人といった状態です。アメリカの人口は、2億7千万弱ですから、単純に計算すると、アルコールに関して言えば、20人に一人が依存者と言う事になります。これは、大変な数字です。(統計データは、Doweiko, H. E.著, Concepts of Chemical Dependency, 1996, CA: Brooks/Cole.より。)

 実際、サンフランシスコの町を歩いていても、毎日かならずといってよいほど薬物依存者らしき人達に出会います。彼等は昼間からお酒の臭いをさせていたり、目がうつろになっていたり、妙に陽気だったり、あるいは、独り言をいったりしているのです。また、ホームレスの人達の中には、路上で集めたお金をほとんどドラッグに使ってしまう人もいるそうです。最も問題なのは、こういったドラッグ類が簡単に手に入ってしまう事です。サンフランシスコの街中のいたる所でドラッグの売買が行われている様で、中には高校生のディーラーがいるそうです。私も、何回かドラッグの売買の現場を目撃しました。また、一度等は、ドラッグディーラーに間違われて、「良いブツはないか?」なんて声をかけられた事があります。よっぽど、私の目つきが悪かったのでしょうね。

 日本では、かつては暴力団がらみで覚せい剤を中心に売買する事が多く、一般の人達にはドラッグの入手が困難だったのですが、最近では比較的簡単に手に入る様になってきました。今では、暴力団関係だけでなく、一般の人達がマリファナ等を売買する様になってきたと聞きます。アメリカの暗部が日本に輸入されてしまったのかもしれません。

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