医療の役割

大阪ダルク支援センターセミナーブック2 「薬物依存症者といっしょに 病院医療に何ができるか」(奥井滋彦)より抜粋



依存症者の治療〜精神病院のなすべきこと

 精神病院のなすべきことは,「相談業務・情報提供」「離脱期の治療・精神病状態の治療」「リハビリ施設や自助グループへの橋渡し」の3点に尽きる。入院に際してはその妥当性を慎重に検討し,「入院までに何をするか」「入院時に患者とどんな約束をするか」「どんな目標を設定するか」という点をきちんと押さえる必要がある。依存症者に振り回されて消耗している家族に対しては家族ミーティング等によるケアも大切。

治療構造

 薬物依存症者の受け入れに難色を示す病院が多い理由の1つとして,薬物が体内から抜けていく「離脱期」の落ち着きの無さや扱いにくさがあげられる。この「離脱期」を

開放病棟で乗りきるにはかなり厳しい行動制限が必要であり,本人に対しては入院前にこうした離脱期の苦しさ,そしてそれを乗り越えて見えてくる回復の過程をよく説明し,行動制限について合意を得ることが必要。こうした約束を本人と事前にしておくことで,離脱期のしんどさに医療従事者が巻き込まれずに付き合っていくことができる

入院治療

 薬物依存症における幻覚妄想等の精神病状態の治療は,それを離脱コントロールと並行して行うという点で独特の難しさがある

 離脱期の本人は焦燥感から様々な要求を反復することが多い。こうした場合,医療従事者は「その要求は薬物に対する欲求の置き換えにすぎないのではないか」という打ち返しを忍耐強くやっていく。本人がすんなり納得することは少ないが,なによりも医療従事者自身が落ち着きを取り戻し,本人の回復を待つことができるという点でメリットがある

 なお,依存している薬物の種類によって離脱期はその様相を異にする。例えばシンナーははっきりとした身体的な離脱症状は出ないが,体内から抜けるまでに時間がかかり,安定期との見極めが付き難い。薬物によって離脱の仕方も異なるということも頭において対応する必要がある

リハビリ施設との連携

 離脱期を終えた患者は,院内での回復プログラムに参加するか,院外のリハビリ施設や自助グループのプログラムに通所する。院外のプログラムに参加する際には,そのプログラムの方針と,医療機関としての治療方針の違いに本人が混乱しないよう配慮する必要がある


入院中のスリップや中途無断離院について

 入院中のスリップは,病院に辿りつくまでの経過に問題があることが多い。スリップ即退院と決め付けるのではなく,スリップ後もう1度薬物を切ってミーティングに繋げていこうという柔軟な対応が望まれる。入院してもなお薬物を続けようとする姿勢が強い場合は一定期間再診せず,本人自身の力でやってみる期間を設定してみることが,後々の治療に役立つことがある。

 中途無断離院は,離脱が完全に終わらず落ち着いていない患者を次のステップに送り出してしまった場合に特に起きやすい。本人の状態が本当に落ち着いているかの判断は,日ごろの生活態度なども考慮して慎重に行う必要がある

退院後の生活について

 退院前には,退院後に予想される現実問題を整理し,できることだけを片付けて行くことが必要。自分で動いて解決していかなければいけないことを自覚させ,かつ,本人の力だけでは足りない部分(例えば,退院後の住居の確保)を現実的に援助者(ケースワーカーなどが一線に立つ場合が多い)が補うことが必要である

 また,退院後にはリハビリ施設への入所がやはり有効と思われる。アルコール依存症者に比べ,薬物依存症者はかなり若い段階で薬物に手を出しており,その時点で成長が止まってしまっている。そうした人をいきなり病院から,何の支えもない場所に放り出すことはよくない。生きていく居場所としてのリハビリ施設が必要である

 退院後の本人に対するフォローアップは,リハビリ施設に繋がった初期の頃の本人に対し動機付けを行うこと,12ステップのうちの4〜5ステップに差し掛かった頃に調子を崩す人が多いのでここで支えること,薬物依存症以外の他の精神疾患を抱えている場合にはそれに対するケアを行うことなどがあげられる。

医療がつくりだす薬物依存症

 病院が出す「治療薬」にも問題がある。睡眠薬やマイナートランキライザーには依存性があり,これらを無造作に処方するのは新たな依存を生み出す結果になりかねない。リハビリ施設や自助グループで「クリーン」と称されるのは,そうした「治療薬」にも依存していない状態である。医療従事者は「治療薬もやはりドラッグである」ということを頭に叩き込み,クリーンを目指す本人を本当に支えていけるような治療を行うようにすべきである

 

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