2003年9月10日(水) 4才1ヶ月 言葉の遅れがわかるまで 三太4才までの成長の記録は三太の風邪日記を参照して下さい。
◆3才児検診の案内
三太に3才児検診の案内が来たのは、3才2ヶ月、今からちょうど1年前のことでした。この頃の三太は、大人とほとんど会話ができず、こちらの言う事もあまり理解できず、ひたすらマイペース。トイレもまったくできなかったので、とても検診を受けられる状態ではなく、保健センターに電話をして、せめて採尿ができるようになるまでと延期してもらいました。
◆3才児検診
年少さんになった3才10ヶ月の時に、遅れ馳せながら3才児検診を受けました。ここでは、遅れを指摘されたわけではありませんが、2次相談を受けることを強く勧められました。こういう場所では、母親の精神的ショックを思いやってか、あまり直接的な表現をしません。私としては単純に「成長の遅い子」「個性の強い子」と考えていたので、それほど真剣には受け止めていなかったのですが、保健婦さんがあまり熱心に勧めるので、2次相談を受けることにしました。
◆2次相談
4才になってまもなく、3才児検診の2次相談を受けました。ここでは、肩書きはわかりませんが専門家の先生による発達テストが行われました。後でわかったことですが、この時、検査をしてくれた先生とは別にそこにいた方がケースワーカーさんです。市の職員で、検診で問題が発見された子に対してアフターケアをしてくれるということのようです。それならそうとちゃんと自己紹介してくれればいいのに...。
この時の発達テストの結果、三太は発達のアンバランスを指摘されました。視覚情報の理解はよくできるのに、聴覚情報の理解がほとんどできていない。また、手先が不器用ということも指摘されました。丸を書いても線がつながらない、ハサミが使えない、ビーズのヒモ通しが下手、というようなことです。テストが終わった瞬間、先生が、
「これは大変でしたね」
とおっしゃいました。そう言われれば確かに三太はマイペースで頑固で育てにくい子かも...。でも、我が子ですからね。そんなものだと思っていたし、今でも「そんなもの」だと思っています。
それで、三太の場合、物の名前を答えたり、字や数字を読んだり、図形の問題などはとてもよくできるし、得意なことに対してはやる気もあるし、集中力もあるということで、今後の対応についてはケースワーカーさんが専門家の方々と会議をして、後日連絡をくれるということになりました。三太のために会議だなんて...ちょっと笑ってしまいました。
◆言語訓練 初回
それから半月ほどして、ケースワーカーさんから連絡があり、市が月1回行っている言語訓練に行くことになりました。実際には言語訓練を受けるというより、言語聴覚士という言語の専門家の方が来るので、一度診てもらって今後の対策を考えるということのようでした。
そして、8月の終わり頃、その言語訓練に行って来ました。ここでは、前回の発達テストと違い、言葉の発達の特徴を診ます。三太は、絵カードを見せられてそれを指差すという形なら質問に答えられるのに、絵がなくて言葉で答えるということがまったくできません。例えば、
「雨の日に使うものはなんですか?」
という質問に対して、たくさんの絵の中から「傘」の絵を選ぶことはできても、何もない状態で「かさ」と答えることができず、「ん?」と首をかしげたり「あめ」と質問の一部を繰り返したりします。
確かに、 普段の生活でも「言葉で答える」ということをしない子です。好きなことはよくしゃべるし、物を指差して物の名前を言ったりは好きだけれど、こちらの話しかけに対しては、質問の一部の繰り返しや、「うん」ですませているので、会話があまり成り立ちません。だけど、2才くらいの子を想像してもらえるとわかると思いますが、それでもなんら問題はなく普通に生活は流れて行くのですね。
保育園でも、7月生まれの三太より月齢の低い子が同じクラスにいるということもあり、会話ができなくてもみんなと同じように集団生活はできます。まぁ、時々マイペースぶりを発揮することはありますが、それは、どの子にも多少はあることでしょう。
この、言語訓練の結果、三太は非常にやる気があり、わからないことには「ん?」と聞き返して答えを学ぼうとする姿勢があるということで、とりあえず定期的な訓練に通わなくても大丈夫でしょう、ということになりました。ただし、
「お母さんのがんばり次第です」
ということです。三太の場合、日常的な生活の中で理解してできていることと言葉がつながっていないので、生活のいろいろな場面で言葉を使うように仕向けていかないといけないのです。例えば、「着替えをする」という場合、来ているものを脱ぎ、別の服を着るということはできるわけですが、「脱ぐ」とか「着る」という言葉が動作とつながってないのです。もちろん、今までも、
「さぁ、これ脱ごうね」
「これ、着ようね」
と、声かけはしてたし、普通はそれで「脱ぐ」「着る」という言葉の意味を理解するようになるわけですが、三太は聴覚情報の理解が遅れているので、言われていることの意味がいつまでも理解できないままになっているようです。そこで、もう一歩進んで、本人にその言葉を言わせるように周りがひと手間かける必要があるわけです。
また、三太は保育園へ行っているので、平日の日中は保育園が生活の場です。家庭だけでなく、保育園でも同じようにしてもらえるといいということでした。
◆保育園の協力
そこで、保育園の担任の先生にも、言語聴覚士の先生から聞いたことをお話しして、少し心がけていただけるようお願いすることにしました。幸い、普段の三太の様子をよくご存知なので、説明した問題についても理解していただけて、他の先生方にもお話しして下さることになりました。
今までなにげなく過ごしていた日常の生活が、このようなことがあって意識してみてみると、三太はやはり発達の一部が遅れていることがわかります。遅れているものは補えばいい。先は長いので、あせらずゆっくり発達の手伝いをしていこうと思います。
◆LD(Learning Disabilities)=学習障害...というよりLD体質
ここまで読まれた方の中には
「LDじゃないの?」
と思われた方も多いのではないかと思います。実は、私もそう思ってます(苦笑)。
しかし、あえて「LD」という言葉を使わなかったのは、LD(学習障害)という言葉に対する世間一般のイメージと、実際のLDとが食い違っていると感じているからです。
「小児科待合室」では、開設以来「子供の病気」をテーマにして来ましたが、「病気」と「障害」は違います。「病気」は治療によって治癒、又は改善が期待されたり、もしくは悪化したり、と変化するのに対し、「障害」はその人にとって不利益な状態があり、変化しないものです。私はそう理解していますし、世間のイメージもそうだと思います。
では、LDはどうかというと「障害」ではないように思うのです。英語の略字でLDと言われても意味がわからないので和訳を探すと必ず「学習障害」と出てきます。この和訳を聞いた瞬間、「この子は障害児なのね」という印象が焼きつきます。「学習障害=学習できない」と思い、教えても無駄だと考えてしまうでしょう。
でも、LDは学習できないのではなく、学習のし方が他の人と違うということなのです。なので、他の子と同じ教育しか受けていないと、遅れてしまうわけですが、その子の特徴に合った教え方をすればできるようになるかもしれないのです。
例えは悪いかもしれませんが、視力の悪い人が裸眼では道を歩けないけれど、メガネをかければ歩けるというのと似ているかもしれません。その人に必要なのは、メガネなしで恐る恐る道を歩く練習をすることではなく、度の合ったメガネを与えることです。
米国では、LD児として特別な教育を受けている子供が全体の4%もいるそうです。また、LD児の特徴と言われる事柄のひとつひとつ...情緒不安定、不器用、こだわりなどは、誰にも一つくらいは当てはまるような事柄です。さらに、LD児が普通の子と全く違わないように見えるということも考えれば、LDは「障害」というより「体質」と呼ぶ方がしっくりくるように思います。
LD体質...三太はたしかにそうかもしれません。
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