玉 菜
ハワイ島ヒロの街にある「その店」は、日系二世の老夫婦が二人だけでやっている店で、

開店以来すでに50年を超えている。

  その店自体は、どうということはない、ちょっと前のハワイならばどこにでもあるような店

だったはずであるが、店とそのオーナー夫婦、そして、そこに来る常連によって刻まれた

年輪が、ほかの店にはない、何かを持つようになっていた。

  その店は、ちょっとディープな観光客にとっては名物となっていたし、私も、最初は、

ちょっとディープな観光客の一人として、訪れていた訳だったが、店の空気が肌にしっくりと

くるので、何時の間にか観光客としてではなく、顔なじみの一人として、ハワイ島を訪れる

度に、立ち寄るようになっていた。

  そのときも、仕事で2週間ほどハワイ島に滞在する予定だったのでそれじゃあとばかりに

ヒロの街に滞在することにして、その店に顔を出すつもりでいた。

 手配を頼んだ代理店からは、「なんでヒロホテルなんですか、いつもはナニロアあたりに

泊まっているのに、それにハワイ島での仕事はコナ方面じゃなかったんですか?」と納得が

いかない様子であったが、「ヒロのダウンタウンにも用事があるんだ。」と言うと彼女は、

どうしてゴーストタウンみたいなところに用事があるんですか、と、いっそう納得がいかない

様子で、ぶつぶつと文句を言いながら手配をしてくれた。

  確かに、地元の口の悪い連中は、ヒロのダウンタウンをゴーストタウンなんぞと言ったり

しているとおり、ダウンタウンは街全体が寂れている。

  もし、ヒロに滞在するならば、ヒロホテルではなく、ナニロアやヒロベイホテルが妥当なと

ころかもしれないが、ヒロのダウンタウンを訪れるのならば、ナニロアなどの団体観光客の

泊まるちょっと豪華なホテルより、あまり豪華でなくて、ダウンタウンにあるヒロホテルが

一番だ、でも、それは旅行代理店に言ってもはじまらない。

  ということで、私の何度目かのヒロ訪問が始まった。
 

 続く

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