音楽理論

邦楽器と洋楽器

邦楽器は、民族楽器であります。そして、私たちが普段、”洋楽器”と呼んでいる楽器は、外国楽器では有りますがそれは、改良され、合理化された近代のごく限られた楽器をさしているようです。
世界には、各国々に伝わる、固有の伝統的な楽器がたくさんありますが、私たちは、そのような外国の楽器のことを洋楽器とは呼びません。
たいていは、ピアノだとかトランペット、テナー・サックス、ギター、バイオリンetcと言った楽器を洋楽器といっています。
こういった楽器は、音楽的にみて、半音階が比較的簡単に演奏できる、転調が可能である、と言った柔軟な演奏が可能なものが多いようです。
このホームページで扱っている邦楽器(三曲=筝、三絃、尺八)は、どうでしょうか?
これらの楽器は、いずれも、日本的な旋律(そんなものあったのかな?時代とともに変わっているから、今の日本人だって、江戸時代の流行り歌であっても、あまり馴染み無いはずです。では一体いつ頃の流行の旋律を、日本の旋律と言っているのでしょうか?)を演奏するのに便利なようになっている事実が有ります。
ただ、日本人の旋律といえば、5音を使った短音階的で、ジプシー的な暗い旋律が日本的な旋律に思われていますが、ごく限られた分野の曲だけです。最近の音楽は、さらに。グローバルな世界の標準型(無国籍)に近づいていっているのではないでしょうか。
そういった、半音階を駆使し、音域も広く転調もしなくてはならない曲を演奏するには、確かに無理がありますし、あえて、そんなに困難な曲を邦楽器で演奏する必然性も無いわけで有ります。
とは言いながら、ま、骨董的な曲を伝承するためにも、演奏する必要がありますが、また、新しいものにも適応(迎合ではない)した、”日本の音楽”を創造する必要があります。

ここで、もう一度、筝、三絃、尺八(以降邦楽器)のことについて考えてみたいと思います。
どのような楽器でも、演奏のしやすい音階、音域、旋律はあると思います。
譜面一つ見ても、五線譜に臨時記号の付いていない、ハ長調やイ短調とか、管楽器のBフラットの曲が吹きやすいと言ったことが有るように、邦楽器にも演奏しやすいものには、それなりの条件が有あるわけです。

まず最初に、

筝(そう/琴:こと)

について考えてみましょう。

筝は、基本的には13本の弦が張られています。
一七絃と言う筝も有ります。(これは、宮城道雄師が考案されたといいます)
この、弦で音を出すには、当然、普通の筝であれば13音です。
ところで、学校の音楽の時間の復習ですが、”音”とは空気の振動ですね。
そして、この音の振動数が変化することで、音の高さが変わります。
当然ながら、音の波形が変われば音色も変わります。
今日の洋楽は、この音の1オクターブ(ある音から、その音の倍の振動数の音まで)を、12(半音)に分けています。
例えば、1秒間に444振動(ヘルツ)する音を、”A”あるいは”ラ”または、日本的に”イ”と名前をつけます。
オクターブ上のA音は、1秒間に888回空気を振るわせる振動の音であるわけです。
筝に、この半音を各弦に振り分ければ、1オクターブと、半音1つしか音が出せません。ピアノのように48鍵とか、64鍵と言った沢山の弦が有りませんから、まるっきり実用にはなりません。
ところで、洋楽も良く考えると、オクターブを、12音全部使うことは必要の無い曲がたくさんあります
長音階や短音階といった、飛び飛びの7つの音だけを使た音の階段で、1オクターブを形作っている曲がたくさんあります。
これだと、13本の弦しかない筝でも、ほぼ、2オクターブの音域を持つことが出来ます。
さらに、あまりスムーズには行きませんが、弦を押さえることによって、約1音半まで、音を高くすることが出来ます。
これだと、12音全部の半音階が出ることになりますが、”弦を押すこと”が、音程の正確さや演奏上の技術的な難しさとなって、”多少なら、押して音を作れる”程度の曲にしか適用出来ません。(よほどの熟練者ならかなりカバーできるでしょうがそんなに、無理をしてまで筝で弾かなければならない曲はあんまり無いでしょう)
この様なことから、筝で演奏する場合には、弦に音を割り振る(調弦)ことが重要であると言う事が分かります。
一般に日本の古曲を演奏する場合、1オクターブを5音で構成するわけですが、この場合も、音階が色々あって、一番曲にあった音階音を選びます。
筝曲のスタンダードな音階に”平調子”があります。ほかにも、雲井調子、半雲井調子、新古今調、などと言った色々な音階があって、”曲”に適した音階を使い演奏をします。
さらに、筝曲には音域に幅を持たせるために、結構、転調を繰り返している曲が有ります。
この場合多くは、演奏を続けながら、”柱”(じ=駒、ブリッジ)を動かして新たな音階を作ります。
音を正確に合わせるために、あらかじめ演奏前にチューニングして、”支”を動かす位置にチョークでしるしを入れたりします。
この柱をい動かすと言うのは、弦の有効振動長を変えることによって音の高さを調整しているわけです。

さきに、日本の音楽は5音階だと述べましたが、5音だけで曲が作られているわけでは有りません。
筝曲の様に大きな曲だと、5音だけでは、思う音が使えないので、 転調 と言う工夫により(それを意識していたのかどうかはわかりませんが・・)解決を図っています。
前述を整理すれば、
1)筝は、弦が13本であるから、洋音階の7音を割り振れば音域は2オクターブしか無い。
2)半音などがあればの、弦を押さえなければならないので、演奏技術上あまり押さえの出る旋律には向かない。
3)柱を、動かせばど弦でも自由に音を変えられる。
この事から、曲にあった音を、うまく弦に割り振れば何とかかなりの曲を弾くことが出来るようになるはずである。
ただし、曲が変わるたびに調弦(弦の音を決める。音合わせ)を変えないと弾けない場合、連続して曲を弾く場合は、チョット無理がある。
曲ごとに調弦をしてある筝を予め準備しなくては演奏会などでは実用にならない。
それに、正確な音を合わせるのは結構難しく、和楽器の弦の音を正確に合わせるだけで、演奏の半分以上成功したようなところがある。 (笑わないでください、邦楽の演奏会にいくと、結構、音が正確に合ってないまま演奏している人が多いのですヨ。最近は、チューナがあるのでそれを使えば便利です。嫌がる人も多いようですが、よほど、調音に自身があるのでなければ音痴なまま、演奏を聞かされる人のことも考えて、使った方がいいと思います。)

チューナ-->


次に、

三絃(さんげん/三味線:しゃみせん)

について考えてみましょう。

三絃(弦と言う字にこだわる方も居られますが、大体は、絃の字を使います。)は、字を見れば大体想像がつくと思いますが弦は3本です。
バイオリンと同じように、弦の上を、指で押さえて音の高さを決めます。
当然のことながら、開放弦(指で押さえない場合)の音が演奏上重要になります。
弦楽器は、ギターもそうですが、開放弦の響きが一番安定しているし、押さえないことによって、手が自由に成る事が出来るので、演奏技術上も重要な役割を果たします。(例えば、開放弦を引きながらその間に、押さえる位置=ポジションを大きく飛躍させる)
調弦は、大体一番太い弦(低音)を基準音にして真ん中の弦を完全4度、三番目をオクターブ上に調弦します。
合奏する場合、この基準音を他の楽器(尺八の筒音、琴の五の糸)に合わせます。
洋楽の場合も基準の弦を主音、に合わせればよい事がわかります。
開放弦が、三本ですので、この開放弦の音を何に合わせるかが重要だと思いますが、基本は、いつもよく使う調弦から離れすぎると演奏する場合、押さえる位置と、音の高さがわかりにくいとは思います。
やはり、筝と同じですが、転調した場合開放弦が使えなくなると、演奏が難しくなります。

次に、

尺八(しゃくはち/)

について考えてみましょう。

尺八は、一般には、一尺八寸の長さ(54.5センチ)の長さのものを使います。
この長さの竹は、指穴を全部押さえた時の音は、”レ”の音です。
この音が、一番響きやすく竹らしい音色になりますので、この音を、主音にした調子の曲が一番適しています。
洋楽で言えば、ニ短調です。(長調で言えばへ長調になります)
尺八の穴は5コです。これで、12音を出すことは可能ですが、出し方は、あごを、引いたり突き出したりして吹く角度を変えるか、指の穴を少しふさいで音を低めて(半音とか、一音)音を作ります。
筝は、弦を押さえて、音の高い方に足らない音を作りますが、尺八は、大体の場合、指穴をふさいで、音の低い方に足らない音を作ります。
このために、フラットの曲に向いていることがわかります。
音は、基本的にそれぞれの穴を指で完全に塞ぐことによって出す音が一番安定していますので、指を、少し塞いだりして出す音は音程がかなり不安定だし演奏上もかなり難しくなります。
これを解消するために、民謡とか、詩吟の伴奏の場合には、半音後とに音の違う尺八(尺八の長さが1寸違うと音大体半音変化する)を準備して、調子のあった長さの尺八を使って演奏します。
これから分かるように、尺八で色々な曲を演奏しようと思えば、尺八が決まっていれば、その尺八の吹きやす調子に移調する。
曲調にあった長さの尺八を準備する。転調すれば、そこで尺八を変える。
と、言うことになります。
よくあることですが、詩吟の伴奏で、練習の時に合っていたのに、本番で歌う人があがってしまい、ピッチがずれてしまうと、尺八は、先ほども述べたように指穴を押さえなければ音を作れないので、どうしょうもない。特に、半音上か下にずれる場合は、下手に音を合わそうとせずに、吹かずに立っているのが一番である。

やはり、民族楽器はその発生した時代の曲に向いたもでありますから、その特徴を十分に理解しなくては、何でも演奏できる、あるいは、使い物にならないとは言えないものです。
特に、うまく使いこなせなかったことを、楽器のせいにしたり、言い訳するのなら和楽器を使わない方がいいでしょう。
それどころか、音楽になっていないのに、曲芸でもしているように、得意満面の演奏は楽器がかわいそうです。


[転調の仕方]
日本の旋律を考えるに当たって、まず、音の構成を考えてみましょう。
日本旋律の音構成は図のようになっていると考えられます。
すなわち、主音、中音、属音の三つの音で、一つのブロック(グループ)を構成しているのです。
(小泉文夫氏もこれに近い説を発表されています)
上原先生の説明では、主音は「宮」とし中音「商」、属音「角」下属音「徴」、導音「羽」と言った風に説明されていたはずですが、オクターブを5音で構成していると考えられているわけです。
ところで、このホームページの理論では、3音で構成された音階ブロックを、1オクターブの中に二つ組み合わせることによって5音階としている訳です。

ここで、図を見てください。主音「宮」があります。
「宮」の上に緑の横線が引かれていますが、これは半音程をあらわしています。
中音は、三つ有りますが、一つのブロックでは、このうちのいずれか一つだけを採用します。
導音については、主音の下側に有ります。そして、旋律の乗降により変化します。
この、主音の下側にもう一つブロックを加えますが、この時、下側のブロックの属音を、主音「宮」に重ねます。
二つのブロックを重ねたときの共通の音が、正規の主音=「宮」になります。そして、下側のブロックの「宮」音を、下属音とします。
逆八の音になります。(半音で同じ音から数えて八度上の音をひっくり返す。例えば「ド」の音を基準にすれば、「ソ」の音ですが基準の「ド」より下の音をさします。順六と言う言葉もよく使いますが、”順”は、音を高める方向に数えた場合に言います。六とは、六半音程、「ド」を基準にすれば「ファ」すなわち完全4度のことです。蛇足ですが、民謡などでは、音の高さを「何本」と”本”で表現しています。1本の音は「ラ」の音です。また、みず何本の「水」は”逆”のことです。”6本”と言えば、「ラ」から6半音目ですから、「レ」になります。「レ」は、尺八の標準管”1尺8寸”の筒音にあたります。)
いま述べてきたことをまとめてみます。
1オクターブは、、音ブロック(三つの音で出来ている)を二つ組み合わせることによって作られている。
そして、二つのブロックは、1つの共通音で繋がっていて、この、共通音を”主音”=「宮」と言う。さて、ここで、どう”転調”するかと言えば、上の方に転調する場合、元の2つのブロックのうちの上のブロック呂更にその上に積み重ねた新たなブロックで、1オクターブ(5音階)を作ります。
下に”転調”する場合は、元の組み合わさっているブロックのうちの下の方と、新たに下にブロックを付け足したもので新しい音階を作ります。
これは、完全四度上、すなわち属音の”順六”、あるいは、下属音の”逆八”のいずれかに転調することになります。
さらに転調するには同じ事を繰り返すことになります。
「転調」に戻る

日本の旋律の基礎は、上原六四郎師(尺八雅号=虚洞)が草分け的存在で、その後沢山の日本音楽を分析解説したものがでていますが、そのうちの異色は、坊田寿真氏の「日本音楽の和声」(音楽の友社)が有ります。