事務局報告

１　はじめに

　最初に、こうした地域づくり団体が行う先進地視察の特徴を掲げたい。それは、個々の職務が全く異なるメンバーが、自身の貴重な時間を（行政側からの要望が発端とはいえ）”まちづくり・人づくり”のために使うということです。次に、日中の現地視察のみならず、夜間、視察・調査した訪問地のまちづくりキーパーソンから地域づくりの苦労話を添えたエピソードを直接聞き出したり、熱のこもった相互の意見交換を行うということが挙げられます。これは、第一点目の特徴と、”人と人との交流”という角度から類似していますが、前者は、訪問地とは関係なしにメンバー間の意志疎通と自身の意識覚醒及び向上を主とし、後者は、視察の実際的効果の幅広さと柔軟性を主たる特徴としています。
　ともかく、青年男女２０名で構成するこの五條ユースフォーラムは、今、新たな世紀を間近にした本市にあって、行政や既存の団体とは違った切り口からの”まちづくり”への視点が期待されています。そのため、本年から①仲間意識と自身の意識の向上及び「まちづくりとは何か」意識の覚醒→②具体的手法を通しての実践的試み及び「魅力あるまちづくり」の可能性への探求→③「魅力あるまちづくり」への提言づくり、とその活動を三段階で進めていく予定をしています。
　しかし、今回の視察は第１段階ではとどまらず、個々の意識の中に具体的かつ創造的なアイデアや今後の構想を育んだと思える様相が、帰りの車中での生き生きとした全員発言など随所で見られ、現況では、五條市における青年男女で構成する団体のオンリーワンになりつつあることを痛感した次第です。

２　視察から学んだこと

　小国町と山鹿市。市と町というシティサイズの相違性や地域性等により、住民と行政のまちづくり一体感には差異があるが、ともに、”まちにある資源を活かしたまちづくり”という共通点が感じられました。それとともに、双方ともにまちづくりキーパーソンが存在するということです。視察内容については、この二点を機軸としながら、フォーラムメンバーの報告文書と出来る限り重複を避けるため、行政側、そして、事務局という両視点から論を進めたい。

＜小国町＞

　まず、インパクトがあったのは、町の研修宿泊施設「木魂館」の館長に民間人の若手を起用していることです。この人は、「小国みらい塾」という町が作った団体の塾長で、町長が一本釣りで引き上げた人物。しかし、このことは、建設補助金提供者側の件サイドでは、好ましからざることとして受け止められているということですが、町長の人材抜擢や当人の活躍等により、衰退した山村の体質改善の一策として、館の活況を呈したという実証面から、まちづくりサクセスの一つとして評価したい。
　館の活況とは何か・・・町民の利用頻度の高さに加え、「木造トラス工法」という斬新な手法によって建てられた建物ということもあり、町外から単なる観光客だけではなく、芸術家や文化人、地域おこしの仲間等、実に多種多様な人たちがそこに宿泊し、同時に、地元の人間たちとの交流を深めている点である。そのことによって、町民間に町への誇りと”この町でも、工夫すれば、もっと魅力のあるまちに出来る”という自信をもたらし、ついには、まちの活性化につながったことである。
　そこから同工法を用いた「小国ドーム」や「ゆうステーション」「商工会館」と建設ラッシュが続き、最近では、そうしたまちの雰囲気にはまった人物が個人的に美術館をオープンさせるなど、まちの風格を増してきている。それらの始まりが、まちの資源である”木材”を活かすという観点なのです。
　最後に付記しておきたいことは、活性化への口火を切った「木魂館」建設が、必ずしも住民総意の歓迎から始まったものではなく、また、建築基準法という法の縛りがあったという狭い間口からのスタートだったということです。まちづくりへの先見性と忍耐力、そして、決断力。その間の町長と行政の労苦に拍手を送りたい気持ちです。

＜山鹿市＞

　ここは住民の頑張りに尽きる感が強い。高度経済成長時代の遺物のようなプラザファイブの現状を視察して、小国で述べた先見性と決断力の反面の怖さを見る思いがします。市街地再開発事業によって、スーパー、名店街、市営住宅と分譲住宅、市民会館と市民プールを収容した巨大なビルを建設し、一時期、西日本のほとんどの市町村が視察に来たという隆盛ぶりを示すものの、ここ数年、来店者数がピーク時の３割にまで落ち込んできているという現場を見聞したことがそれであります。”時代の流れ”という客観的理由からだけでなく、例えば、その建設時にそこにあった温泉街を、まちの隅に位置づけた点、この建設ゾーンに位置していない小売業者への無対策。その時点でもまだまだ考慮すべき（あるいは出来た）点がいくらかあったのではと、考え込んでしまったのです。他所のまちだから冷然と言えるとしても、行政が執行する大規模事業の責務の大きさに、身が引き締まりました。
　そんな中での八千代座。明治期の建築で重文になっている芝居小屋。小屋というより、今では逆に瀟洒で小粋な今風の文化会館という印象を持った。その復興に走り回ったのが、今回の視察の先導役をしてくださった地元の民間青年。朽ちかけた八千代座復興に汗を流す青年に老人会が呼応し、一人千円の「瓦一枚運動」へと連動、そして、修復。そこから今度は活用への道程。板東玉三郎という時のスターの公演というイベント成功までの舞台裏の汗。そして、今では、（視察当日も行われていたが）市民団体や社会教育団体、学校当各種方面で幅広い活用がなされるようになったという事実。”今”という時点だけで比較するのは、少々酷な面もあるが、恐らく、この八千代座復興への道程の途中にも、行政が、一般の住民の肉眼では見えにくい支援をしていると思うが、その過程の中に住民の姿と心の結集があったという事実が、同行した事務局子には、プラザファイブと大きく対峙して見えたのです。
　しかし結局、ここでもキーは元からそのまちにある資源の活用とキーパーソンの活躍であったと思います。

３　今後のことについて

　”大向こうを唸らす”という言葉があります。八千代座の中に「大向こうの席」というのがありました。いわゆる”粋人”が座る場所で、芝居などを盛り上げてくれる人の席という案内人のお話を聞きました。ここで思ったことは、”唸らせる”ということは、逆に”唸る人”がいるということです。
　いくら”大向こうを唸らせる”芝居が演じられたとしても、拍手のタイミングや意味がわかってくれる人が皆目いなければ、その芝居が盛り上がるはずもありません。勿論、芸術は、言語や思想、民族や国境を越えて感動を呼ぶもの、という一応の定義はわかりますが、例えば、何かの会議で誰かの話が終わったとき、一人が拍手すればつられて拍手するという現象があります。そうした受け手の先導役が、きちんと存在するまちだなあという感想を山鹿市で持ったものですから、「まちづくり・人づくりのユースフォーラム」として非常に考えさせられたのです。
　今、ユースのメンバーは確かに心が点火してきています。自分たちのまちを住み良い魅力のあるまちにしたい。自分たちで出来るもの何か・・・今、ユースのメンバーは本気で模索し始めた感がします。では、行政はその受け手として、こうしたピュアな青年の思いをどれだけ現実的な代物に成しえるか？同時に、今度は行政自身がまちづくりの発信者として、”市民”という”大向こう”を唸らせる代物をどれだけ出し得るか？
　単なる行政主導でもない、住民主導でもない、両者が舞台と舞台裏、見物席と大向こうの席を行き来しながら、”真に魅力のある五條のまちづくり”に向けて、後世に続く人のために、真摯にも熱く語り、考え、想像を巡らせて、相互に”心の交錯”を展開していく時代に入ったのでは、と思えた視察でした。

五條市教育委員会　社会教育課
町口　正治
竹本　良廣

事務局報告

１ はじめに

２ 視察から学んだこと

＜小国町＞

＜山鹿市＞

３ 今後のことについて

１　はじめに

２　視察から学んだこと

３　今後のことについて