滅びしものへの鎮魂

 

「天上ウテナ強いね。」

「ああ」

根室記念館の地下では、御影草時と馬宮が話していた。

「僕の黒薔薇もまた勝てなかったね。」

「ああ、少し戦略を変えた方がいいかもしれない。」

「というと」

「僕は今まで生徒会のメンバーにこだわりすぎていたようだ。 この学園内には他にも、強い思いを持った者たちがいるに違いない。そういった者たちを見つけ出す。」

「だけど、どうやって」

「方法は考えてある。」

御影草時が静かに笑う。

 

「−−こんにちわ、鳳学園放送部、お昼のTVはお馴染み「思いっきり昼テレビ」です。」

「それでは本日も元気にいってみましょう。」

食堂ではウテナとアンシーと若葉の3人が昼食を食べていた。

「しかしうちの放送部も本格的だね。テレビ放送までやるんだから。」

ウテナがサンドイッチをぱくつきながら言う。

「そうなのよ。それにこのお昼の番組けっこう人気あるのよ。」

若葉が紅茶をすすっている。

「はい、私もよく見ています。ウテナ様紅茶のおかわりどうですか。」

アンシーがウテナのカップに紅茶を注ぐ。

「しかしなんだかなあ・・」

ウテナはカップをとりながら、横目でテレビを見ている。

「−それでは当番組恒例の悩み相談室「思いっきり生電話」いきましょう。本日みなさんの悩みにお答えいただくのは、こちらの先生です。」

「どうも御影草時です」

ブーッ!! ウテナが若葉の顔に向かって思い切り紅茶を吹き付けた。

「何するのよ!ウテナ」

「何だってこんなところに御影先輩が出てるんだよ!」

思わずウテナは咳き込んでいる。

「先週から御影先輩に変わったの。ぶっきらぼうだけど結構鋭いアドバイスで評判なのよ。」

若葉がムッとしながらハンカチで顔を拭く。

「何かそうらしいですね。」

アンシーがにっこり笑いながら、ウテナのカップにまた紅茶を注ぐ。

「へー、そうなんだ」ウテナがカップを傾ける。

「−−では最初のお電話です。」

「彼が最近冷たくて、どうやら他の女ができたみたいなんです。私と付き合っていながら、彼は二股をかけてたみたいで・・。」

「そんな男とはさっさと別れなさい」

「・・。」

 

「ところで適当なデュエリストは見つかったの。」

馬宮が呟く。

「ああ、最近は私も有名になったので、ここに悩みを相談に来る人数も増えてきた。その中からデュエリストを選ぶ。」

「そう」

「僕たちの願いがかなえられる時が近づいてきた。君を薔薇の花嫁にして、僕は世界を革命する力を手にする。永遠を実現するために・・。」

「だけど、あなたはその力で一体何をかなえるつもりなの。」

「美しき、正しい世の中を作り出すのさ。これが僕の願いだ。」

「・・。」

ピンポーン! チャイムの音が響く。

「どうやら、また相談者が来たようだ。では行ってくる。」

御影草時が部屋を出て行く。

「美しき、正しい世の中・・」馬宮が呟く。

 

「どうぞ」

部屋の中に一人の女性が入って来る

「私は教師生活25年、ひたすら校則を遵守し、生徒達にもそれをさせてきましたザマス。それなのにそんな私を無視する生徒がいるのザマス。」

「深く、もっと深く・・」

「よりによって女生徒の分際で男子生徒の制服を着てくるわ、ペットを学園内に持ち込むわ、やることがすべて校則違反。しかも回りの生徒達はそれをもてはやしている・・。」

「もっと、もっと深く」

「どうせ私は嫌われ者ザマス。今まで結婚もできなかったし、殿方に誘われたこともない。だからといってなんだっていうザマス。馬鹿にしないで!たかが若いというだけで!!」

ドーン! 部屋が止まって扉が開く。

「あなたは世界を革命するしかないでしょう。あなたの進む道は用意されています。」

 

「最近平和だねー」ウテナが芝生の上で伸びをする。

「そうですね。」アンシーもウテナの隣に転がる。

「黒薔薇の連中ももうあきらめたのかな・・。」

ウテナが青空を見上げながら呟く。

 

「どうぞ」

部屋の中に兄弟かと見まごうほどそっくりの男が3人狭そうに入って来る。

「私たちは存在感がうすいんです。」

「ろくな扱いも受けてないし。」

「名前を覚えてもらえないどころか、区別さえしてもらえない。」

部屋が沈んでいく。

「私たちだって、少しは目立ちたい。」

「せめてキャラクターとしての認識ぐらいしてもらいたい。」

「もうタマネギ部隊などと呼ばれたくない。」

ドーン

「あなたの進む道は用意されています。」

 

「どうぞ」

「わたしー、冬芽様ラブラブなのにー、冬芽様の回りに七実ってやな女が引っ付いてて、邪魔ばっかりするの。もう超ムカツクって感じー。」

「あなたの進む道も・・」

 

「どうぞ」

「・・・チュチュ?」

「・・・・・・。」

 

絶対、運命、黙示録、絶対、運命、黙示録、・・・。

ウテナが決闘場への階段を登っていく。

今朝ウテナは挑戦状を受け取ったのだ。

なんか ゴチャゴチャして分かりにくい挑戦状だったが、「今日決闘場で」の一言だけは読み取れた。正直いささかうんざりでもあるが、逃げるわけにも行かない。

決闘場への長い階段が終わりに近づいてくる。

ウテナの姿が決闘場に現れた。

ウテナが今回の決闘相手を確認すべく、顔を上げる。

「なんだ、これは!!」

 

「本当に今回は勝てるの・・」

馬宮が御影草時に尋ねる。

「ああ、今回は戦略を変えた。質よりも量という言葉もあるしな。」

「だけどこんな方法で本当に良いのかな。」

「戦力の逐次投入というのは、戦略的に最も愚かなことだ。各個撃破を許さずに戦力の一点投入をすれば、どんな敵で撃破することはできる。」

「そんなものかな・・。」

馬宮がかすかに首をひねる。

 

「こ、こんなのあり?」

ウテナの前には94人の黒薔薇のデュエリストがずらりと並んでいた。

「姫宮、これはルール違反じゃないのか?」

「さあ、私はそういうことは全然分かりませんから」

アンシーは一人涼しい顔をしている。

「天上ウテナさん! 今日こそキチンと制服をきてもらいますわよ!」

一人の女性が前に進み出るが、その後ろから現れた男3人組に引き戻される。

「今日こそー」

「僕たちがー」

「主役にー」

見事なハーモニーだが、これも黄色い声にかき消される。

「明日から、私は冬芽様とラブラブ!」

「いや、僕が樹璃さんのハートをつかむんだ。」

「若葉さんと恋人に!」

「借金返済!」

「この私が学園を支配するのだ!」

「・・チュチュ・・」

訳の分からない怒号が飛び交って、決闘場は大混乱になっていた。

 

「一体どうなってるんだ?」

事態についていけないウテナはボーッとその光景を眺めていた。

「さあ」

アンシーは相変わらず涼しい顔である。

 

「生徒の分際で教師よりでしゃばるとは校則違反ザマス!」

「今日こそー、僕たちがー、主役だー」

「何よ、そんなこと言うならあなたから先にやっつけるわよ!」

「何てこというザマス!教師として許せません!」

決闘場のあちこちで勝手な決闘が始まってしまった。あちこちで黒薔薇が飛び散る。

ウテナはその横で一人だけ蚊帳の外に出されていた。

「姫宮・・。これでいいの?」

「まあ、楽でよろしいんじゃないですか。・・・みなさーんがんばってくださーい。」

 

 

ドカドカドカドカドカーン!

93個の棺桶が炎の中に次々と落ちていった。

「結局、天上ウテナと戦う前にみんなやられちゃったね・・。」

「いや、これで天上ウテナも大分動揺したはずだ。次には勝てる。それにまだ1人残っている。」

「本当・・?」

「・・多分・・」

御影草時の頬を一筋の冷や汗が流れる。

 

「チュチュ?」

踏んづけられて気絶していたチュチュが、目を覚まして回りを見回すが、シーンとして誰もいない。

「チュチュ?」

首からぶら下がっていた黒薔薇の指輪を見つけたチュチュはそれを齧ってみるが、硬すぎたので放り捨てる。

「チュチュー」

指輪を放り捨てたチュチュは、頭についていた黒薔薇をむしって食べ始めた。

 

ガラガラドーン

最後の棺桶が火の中に落ちていく。

「とうとう最後のが終わっちゃったね・・」

馬宮が小さく呟く。

「・・・。」

御影草時はひきつったままだ。

「どうするの? もう残ってないよ僕の黒薔薇も」

「・・・こうなったら、僕自身が戦ってでも、僕たちの願いをかなえよう。そして正しき美しき世界を実現するんだ。」

「正しき美しき世界って・・。」

 

数十年前

「根室教授、例のレポート完成しました。」

時子が教授室に入ってきた。

「時子君、そのレポートは印刷して持ってきてくれないか。」

根室教授が読みかけのレポートから目を上げる。

「しかし、フロッピーで持ってきましたので、そこのパソコンで直接読まれた方がはやいとおもいますが。」

時子は根室の机の上のパソコンにちらりと目をやる。

「い、いやこれは」

「まさか教授、操作方法を御存じないわけはないですわよね。」

時子はフロッピーを持ってパソコンに近づく。

「いや、違うんだ、やめてくれ時子君!」

根室の強い制止に驚いて、顔を上げかけた時子の目にリンゴのマークが目に付く。

「教授、あなたはM○cユーザーだったんですか・・。」

時子の声が冷たくなる。

 

「時子君、どうして」

根室が時子を後ろから呼び止める。

「教授、私はもう嫌です。」

時子は根室に背を向けたまま立っている。

「・・・。時子君」

「あなたとはフロッピーの交換さえできない。すぐにデータの互換性が無いと言う。周辺機器も使えない。だけどあの人は違うのよ。あの人のはGate○ayの最新マシンで、CPUはPentiumU300MHz、OSはWindowsで互換性に問題が無いの・・。もう私はあなたにはついていけない。」

時子はそのまま走り去ってしまった。

「・・・時子!」

 

馬宮はポカンと口を開けて御影草時の昔話を聞いていた。

「そうだ、確かに僕はMa○ユーザーだ。どうせ少数派だし、もうすぐ消えるかもしれない。学園の予算で新型を買おうと思っても稟議が通らない。対応ソフトも減ってきているし、最近は扱う店も少ない。だけどそれがどうしたと言うんだ。どうせ僕は録音機はエルカセットだし、VTRはベータ。ビデオディスクはVHD、8mm映写機も使ってるし、DATも持ってる。おまけにゲームマシンはNI○TENDO64だ。それがどうしたと言うんだ!」

御影草時は一人で熱くなっている。

「そうだ!僕は力を手にして、世界を変革するんだ。マイク○ソフトを倒産させて、ビル・ゲ○ツを破産させて、○acの世の中にするんだ。正しく美しい世界を手にするんだ!」

一人で叫んでいる御影草時は、馬宮の冷たい視線が背後から突き刺さっているのに気付かなかった。

 

「はい、鳳暁生です。そうか・・。わかった・・。」

暁生が受話器を置く。

「根室教授も時間稼ぎの役には立ってくれたが、もうそろそろ限界か」

暁生が窓の外を見ながら、冷たい笑みを浮かべる。

 

第23話に続く

 

この物語はフィクションであり、実在のメーカーその他とは一切関係ありません。

 

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