中国鉄路の旅

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 第1日目:8月4日(金) 大阪〜瀋陽〜吉林
9:00自宅出発
三ノ宮9:25(K-JET連絡バス)9:38K-CAT9:45(K-JET)10:10関空フェリーターミナル10:15(連絡バス)10:20関西国際空港4階南ゲート着

11:00 南団体カウンターで航空券を受け取り、チェックイン。
杵屋で山菜おろしうどんを食べ、お土産の扇子を買って出国審査へ。

13:10 離陸。

 北京時間14:40、瀋陽の空港へ着陸。時差は日本と1時間なので、所要2時間30分で中国へ入国したことになる。時間的な感覚は東京と同じくらいである。碓氷峠よりはるかに近く感じられた。
 瀋陽桃仙国際空港は立て替え工事中で、となりにはガラス張りの近代的なビルが建築中だった。
15:10空港の到着ゲートへ。白タクの激しい呼び込みがある黒山の人だかりの中で、一生君が迎えに来てくれていた。タクシーで瀋陽北駅へ。空港と市内はおよそ30km離れており、高規格の高速道路で結ばれている。車内で両替(1万円=約740元)と瀋陽北〜吉林間の切符を見せてもらう。瀋吉線経由の寝台列車で、瀋陽北19:19発、吉林6:02着。464kmを約11時間かけて走る。寝台車には日本のA寝台にあたる「軟臥(ルワン・オー)」、B寝台にあたる「硬臥(イン・オー)」があり、今回の寝台は「硬臥」だった。運賃は72元(約970円)。日本で同じ距離を寝台車で利用すると、運賃7350円、B寝台料金6300円、急行料金1260円の計14910円かかるので(大阪〜東京間の急行「銀河」で大阪から小田原くらいの距離に相当)、日本の15分の1である。中国の物価の目安は日本の10分の1と言われているので、鉄道料金は中国国内でも買得感の高い交通機関ということになる。
 16時前に瀋陽北駅前に到着。発車まで3時間以上あるので、駅前にある国営の手荷物一時預かり所(中国では「寄存」という)で荷物をあずけ、二人で散策する。駅ビルは巨大で横に大きく曲線を描いた堂々とした造りで、上はホテルになっていた。


 駅前広場の地下空間は丸ごとショッピングセンターになっており、衣類、雑貨、食料品、土産物等が所狭しとならべられていた。喫茶店に入り、コーヒー15元(195円)を注文。中国ではコーヒーを飲むという習慣があまりなく、どこの店も割高になっているという。
 地上に出て駅に併設されている朝鮮料理の店に入る。店先に美味そうな中華料理が並べられており、好きな品を注文すると盛ってくれる。一皿一律3元(36円)。鳥唐揚げの甘酢のようなものと、青椒肉絲(チンジャオロース)みたいなものを盛りつけてもらう。瓶ビールもよく冷えており、アルコール分が日本よりも少ない3%程度であることも原因の一つかもしれないが、水のように飲める。料理に合う。うまい。食堂車が連結されているかもしれないということを前提に腹八分目位で止めておく。
 発車の30分程前に駅ビルの中に入る。中国の大きな鉄道駅は改札口と待合室が一緒になっており、客は乗車する列車番号の表示された待合室に並び、駅員は列車がホームに入線すると改札を始める。切符には639次列車の12号車の13番と14番の中段と書かれている。
列車番号が600番台ということは、一つの鉄道区局内のみを走る「管内旅客快車(管快・快客)」で、停車駅のやや多い、日本で言うところの「急行列車」みたいな感じである。



 

 改札が始まると客はみんな改札口に列を作るが、椅子で通路が仕切られているとはいえ、おかまいなし。気を抜くと順番が抜かされる。椅子を乗り越えた客、隣の通路から割り込もうとする客が駅員に怒鳴りつけられるなど、混沌とした風景を見ることができる。とはいえ、その中で並んでいる自分も混じっているのだが。

 

 客は皆、我先にと跨線橋やホームを急ぐ人が多い。全席指定にもかかわらず、走る人がいるのは、「荷物の置き場」を取り合うためなのだという。自分の座るところがあっても荷物が置けなければ荷物を抱えなければなならないからだろう。

 

 跨線橋を渡ってホームへ立つと、一生君に我々の乗る車両へと急がされる。発車時間までまだ余裕があるとはいえ、中国の鉄道は時々「早発」ということをやってくれるらしい。各車両の扉の前にはその車両の担当服務員が立っており、客の切符を確認している。ここで「検札」をしているわけである。つまり、我々の場合は12号車の入口まで行かなければ列車には乗れない。今どのあたりを歩いているか、車両の号車札を見ると「3号車」の文字。それゆえ、急いでいるわけだ。
 列車は14両の寝台車に1両の荷物車、先頭にはディーゼル機関車1両が連結されていた。

 

我々の12号車は前から3両目で、車内は3段寝台で日本の20系客車を想わせる丸い天井だった。とはいえ、広軌の鉄道車両なので、天井は高い。ベッドの幅は日本のB寝台とほぼ同じだが、上部の空間に余裕があるので、居住性は良い。進行方向左側がベッド、右側が通路になっていて、木枠の窓際には木のテーブルと折畳みの椅子が備えられている。テーブルに向き合いながらビールを一杯、なんてことができるわけだ。残念ながら食堂車が連結されていなかったので(そもそもこのクラスの列車には食堂車はないらしい)、我々は車内販売でビールとつまみを買って窓際で飲むことにした。駅前で飲んだビールとうって変わって、ぬるい。中国では「ぬるいビール」が当たり前のようにあると聞いていたが、本当だった。あまり飲めず、一生君にほとんど飲んでもらった。申し訳ない。


 

 

 

 発車してしばらくは各駅に停車していたが、駅間距離が長い。15分ほど走って停車、10分走って停車、というのりである。時刻表を見ると、瀋陽から隣街の撫順までの5駅で65km。平均駅間距離は11.6kmだから、東海道本線で例えると、ほぼ大阪−草津間で途中駅が5つしかない計算になる。クーラーはなく、天井に送風機がついている。窓を全開にすると走行中はけっこう涼しい風が入ってくる。日中も30度を上回るが、湿度が低く、日本のようにじめじめとしていない。明け方は寒さを感じることもあるという。駅に停車しても2〜3分で発車するので風通しはまったく問題はない。発車の時、必ず3両先の機関車からけたたましいホイッスルが鳴り響く。日本なら沿線住民の苦情もいいところだが、まったく遠慮している気配などない。慣れてしまうと「うるさい」と感じなくなってしまうような音なのか。発車時の衝撃もそれほど大きくない。24・25系客車程度の揺れである。保線状態が良いのか、軌間が広いからなのか、横揺れも少なかったので快適に寝ることができた。

  車内で聞こえる走行音。窓が全開なので寝ながらにしてこの音が聞ける。(28.8k/Mono)

 
 車内で聞こえる走行音その2。発車のホイッスルは真夜中でもおかまいなし。(28.8k/Mono)

 

 沿線風景といえば、ほとんどがトウモロコシ畑〜田んぼ〜雑木林の繰り返しで、車窓は真っ暗になった。鉄道公安官のような人がさっきから列車内を行き来し出した。時々、一人二人と客を連行している。挙動不審の乗客を職務質問するために服務員室に連れていっているらしい。治安がいいのか悪いのか、そんな不安をよそに中国の第1日目はこのあたりの記憶が最後となった。


 

 乗車時に切符と引き換えにもらう札。
 寝台番号が刻印されており、乗車中はこれが切符の代わりになる。1両に一人服務員(車掌というか、世話役?)がついており、通路の掃除、お湯の補充などをするほか、下車駅に近づいたら起こしてくれる。降車時には返却する。
 日本にも欲しいサービスだ。



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