北海道移住プロジェクト・トップへ イラスト
地方の教育事情
この章のポイント  ここでは北海道の地方での教育事情を取り上げます。東京など大都市部との違いで気づいた点を挙げますので移住の検討材料に教育問題を考えている方は参考にしてください。皆さんがイメージしているほどきれいな話ばかりでもありません。 風景
2001年 9月30日公開
2008年 4月 5日更新
目次  「義務教育の機会均等」のうそっぱち
 小規模校のイメージと現実
 高等教育の不在
 地域ごとの学力格差の実態

 移住を考えるのに子どもの教育問題を考える人は多いです。私は素晴らしい考えだと思います。子どもの教育問題を考えずにあなたの勝手で移住しても子どもの人生をぶち壊す可能性があります。
 ここでは私が考え得る限りの情報を提供しますので、考えの一助にしてください。

「義務教育の機会均等」のうそっぱち
 → 地方の現状に無理解な政治のせいで地方の教育には地方の努力だけでは容易に解決できないさまざまな壁があります。
 いきなり過激な見出しですが、北海道に限らず全国的にそうです。東京など大都市に住んでいるとさほど深刻に感じないのはある意味無理ないですが、日本の歪んだ教育行政のなれの果てです。
 問題点は大きく言えば次のふたつです。

自治体によって学校にかけてくれる予算は違います! 〜 財政力格差
 教育は都道府県・市町村のお金で行われます。その地方の財政は今や火の車。当然教育費もカットされます。ここには地域ごとの教育に対する理解の格差も表れます。教育に熱心な自治体は厳しい中でも精一杯の予算確保はしてくれますが、そうでない自治体もあります。教育は利権にとってはそんなにおいしい事業ではないので利権事業重視の地域は教育への理解は低いです。その結果、財政的に格差が生じ、教育活動でできることにも違いが出てきます。
 あと小規模校は相対的に財政的には厳しいです。予算は基本的に児童生徒数が配分のベースになることが多いのですが、小規模校では学校運営に占める固定費の比率はどうしても大きくなります。1人学級の運営費は40人学級の40分の1ではありえません。それはたとえば教室の装飾がそうかどうかを考えると明らかでしょう。児童生徒ひとりあたりの予算額という見方をすると小規模校の方が大きいですが、固定費を考えるとむしろ規模が小さい方が厳しいです。予算は学校運営を忠実には反映できないため、どうしてもこういう現象は起こります。

教員の人材の質も違います 〜 地方の人材不足
 大都市と地方では教員の人材の質でも差が出ます。その結果、教育レベルの格差が生じます。
 理由はいくつもあります。
 教師だって仙人じゃありません。身を捨ててまで仕事をしているわけではありません。生活条件のいい土地に住みたがるのは当然です。
 その結果、都市部への人材の集中が起こります。人材流出が続く地方の教育レベルは確実に下がります。仕方がないのでよそから新採用者を大量に連れてくることしかできず、それがさらなる教育レベルの低下、教育行政への不信を招く悪循環に陥っています。異動者の半分が新採用者という異常な地域も出ます。その中で管理職の選考や新人教員の養成がされるわけですから、連鎖的にレベルの低下が起こります。
 このことは都市部にも問題をもたらします。人材が出たがる結果、コネ等の汚い手段を使って出ようとする者も出ます。ここに一部政党系の議員が動き回るスキができます。北海道では99年に議員がニセ採用通知書を出す事件がありましたが、北海道の教育界の体質はそれから何ら改まってはいません。すると都市部は都市部でろくでもない人材の巣窟のようになります。そんなところにまともな教育レベルの維持が可能でしょうか。北海道に限らず都市部と地方の格差が極めて大きいところ、その地方の比率が高いところは要注意と言えます。

 もともと教師を養成する大学は都市部にしかないのも問題です。都市部出身者は言うに及ばず地方出身の教師が増えたとしても、都市部の文化的で快適な生活を知り、都市部での人間関係ができると、全部が地元に帰ってくるわけではないのが現実です。これは教師に限らず地方の人材流出の大きな課題です。まして都市部の方が生活条件や待遇が良かったら自然な流れです。

 行政もこの現状を熟知しながら、地方出身者が高い負担を強いられる中で誇りを持って出身地に根ざして働ける条件づくり、また都市部出身者も生活条件の悪さの中で誇りを持って気持ちよく働けるような条件づくりをするべきなのに、教育は行政の中では出世街道からはずれているばかりに予算を取ってくることもできず、よって地方で教育条件を向上させる意欲を教師に持たせられるような施策を打つこともできません。
 それどころか、今行政がやろうとしているのは、ひとつは専門職大学院の導入にみられるような教員免許所有の抑制策です。こんなことをやっていては金持ちしか教師になることができず、所得水準の低い地方からはただでさえ教師になりにくいものが余計なりにくくなります。奨学金を充実させればいいなどというのは行政の無知もいいところで、学費以外の負担も地方の住民にとっては極めて高い中で、経済的に地方から大学に行くなどというのは困難なのが現状です。
 さらに都市部と地方との生活格差をひろげるように教師を含む公務員の給料を都市部と地方で格差をつけようとしています。生活条件が良い上に給料まで優遇されるのでは都市と地方の格差は決定的になり、給料の面からもますます都市部への人材集中がされようとしているのが実態です。

 これらの結果、都市部と地方との教育格差はひろがる一方です。

 人材の質の差は学力はもちろん学校運営の様々なところに出ます。そういう実情を見るにつけ地方の教育は大丈夫か疑問に思っています。

へき地対策のお粗末さ−「へき地手当」の問題
 義務教育の学校教職員の場合、へき地に勤務すると「へき地手当」という手当が支給されます。これは「へき地教育振興法」という法律で定められた国の制度です。この制度の表題を見た多くの人は「都市部とへき地の生活格差を埋めてくれるんだな」と勝手な想像をすることと思います。私もそうでした。でも実際にはそうはなっていません。
 この手当は学校ごとにへき地級数が定められ、その級数によって4%から25%の手当が出ます。でも20%以上もらえるのは離島の話。ほとんどは12%以下です。また北海道で言えば札幌との距離など考慮されていませんので、札幌のすぐ近くでも12%もらえたり、根室や稚内でも4%しかもらえない学校もあります。あなたならどちらがいいですか? >>投票する
 もちろん物価差など考慮されていませんし、医療格差や暴利的な公共交通機関の格差、後述する高等教育不在の問題など考慮されてもいません。実際の生活格差を計算すると実態は手当額を大きく上回っています。もともとが地方のことなど何も知らない都市のボンボン官僚が作った国の制度なので北海道の特殊事情など考慮されていないのはもちろん実態にもあっていないのです。
 今の北海道では地縁血縁でもない限り一般に札幌から遠くなるほど生活費用の総額が高くなるのが現状で、よって同じ給料の場合、札幌から遠いほど生活水準も低くなります。それは生活水準に比較して賃金が切り下げられていることを示します。
 企業では地方飛ばしが左遷人事なのは常識。その上にこの手当で教師が地方で一生懸命になろうって気になると思いますか? この問題が解消されない限り地方の教育が良くなるとは思えません。教育改革などうそぶく政治家はうじゃうじゃいますが、まず憲法に書かれた「教育の機会均等」が教師の聖職意識につけ込む形でなく制度的に実現できるようにしてほしいですね。


小規模校のイメージと現実
 → 都会の人からみるといいイメージばかりが先行しているようですが、実際はいい話ばかりでもありません。
 詳しくは別途「地域の学校を考える」を参照してください。


高等教育の不在
 → 移住後の自分の子どもの教育環境を少し先まで考えると都会ではわからない深刻な課題があります。

進学校や大学の不在
 東京とか大都市で高等教育を受けた人はこういう常識があるのではないでしょうか。高校は学区毎に進学校とかレベルに応じた学校があって、大学は近所によりどりみどり。あとは自分の頭の程度と進路との相談、と。

 でも地方の高等教育はそうはなっていません。北海道もご多分に漏れず高校進学にあっては学区に進学校と言えるほどの学校をもっている学区の方が少ないのが現実です。
 また少子化時代における公立高の定員割れ・実質全入状態で進学に少し芽のあった学校も学力低下し、さらに財政難を理由にした統廃合の動きもあり、学校の選択肢がさらに減り、底辺校だらけになっているのが地方の実態です。その結果、学力的な面からも進学の芽など刈り取られるのが地方の実情です。
 大学にいたっては、そもそもあるのはほとんどが大都市部。それも少子化時代における大学側の経営問題や、採算思想を取り入れた国公立大学の独立行政法人化の流れの中で、地方にある数少ない大学でさえ次々縮小・撤退しているのが現状です。


通学にも厳しい現実
 通学にも制約があります。
 札幌とか遠隔地の都市部の学校に進学する場合は勿論ですが、たとえ20〜30キロ程度の大都市部なら充分自宅通学可能な距離であっても、交通機関の制約から中学を出たら親元を離れて進学する子どももいます。同じ町の最寄りの高校にさえ自宅から通学できない地域もあります。それで家族の二重生活、三重生活になれば経済的負担も半端ではありません

 交通機関があったとしても、別な格差もあります。
 北海道では国鉄改革の中でローカル線の多くが廃止されバスに転換されました。同じ距離を通学しても鉄道とバスでは定期代は雲泥の差でバスの方が割高です。
 実例ですが、三十数km離れた隣町の高校にバスで通学するのに、定期代が1ヶ月3万数千円かかります。ちなみに同じ距離を鉄道で通ったとすると1万数千円で済みます。さらに驚いたのは、旭川から札幌まで(136km)特急に乗車できる通学定期券が1ヶ月4万数千円だといいます。時間はどれも1時間〜1時間20分。時間的には充分通学圏です。

 都市部であれば進学の選択肢が格段にある中で、地方では数少なく不満足な選択肢を選ぶのでさえ厳しい経済的負担を伴う現実があります。


越境進学を阻む入試制度
 高校のレベルも進学校を持たない学区ではどんぐりの背比べという状態です。学力荒廃ばかりでなく荒れた学校も多いです。その中で進歩的な地域では何とかして他の地域の進学校へ出ようと必死になる子どもの姿も見られます。
 しかしこれも越境進学になるので制度的な制約も多いです。北海道では大都市部を含む学区が特例学区となり周辺の地方学区からの学区外受験を認めています。しかし学区外受験の枠は定員の何%と割合で決まっており、この枠に近隣地方学区から生徒が集中し激戦となります。この枠は一般受験より難易度が高いようです。2005年入試から北海道では学区が拡大され学区内受験で済むところも増えますが、相変わらずそうでない地域も少なからず残ります。


勉強に情報も足りない地方の現実
 ただでさえ制度的に都市部の子どもより高い学力がなければ同程度の学校にすら入れない上に、地方では満足なレベルの書籍等の入手も困難です。
 このような中で進学校受験に耐える学力をつけるのは容易でないのも事実。都市部に比較的近い地域では何十キロもの距離を塾通いする姿もあります。送迎も親がするしかなく、時間的にも経済的にも都市部にいる以上に大変です。

 こうした中で都市部の進学校への進学を勝ち取った子どもを見ると、ほとんどが会社社長の子どもだったというのも現実にあります。地方企業は厳しいから給料を払えないという一方で自分の家族にかけているカネをみると矛盾を感じる部分も多々ありますが・・・。

いい高校だけが人生じゃないというあなたへ
 無論進路によっては進学など必要ない場合もあるでしょう。それは事実です。
 また地方で生活基盤となる産業をもつ住民の中には「うちに学力など必要ない」と公然という住民もおり、こうした考え方が地方の学力向上を妨げている側面もあるのが課題です。
 それならそれでそもそも義務教育でもない高校に授業料を払ってまで行く必要などないと思うのですが、今のこの国では高校ぐらいは出ておかないと・・・程度の理由だけで猫も杓子も誰も彼もがとりあえず進学しているのも事実です。九九も出来ないなど高等教育を受ける意欲すら疑わしい学力でも答案に名前が書ければ入れてしまう高校の現状も問題です。

 こうした中で、子どもの進路に進学が必要な場合、それ相応の学校に入らないと、進学の夢も環境の中でいつしかつぶされることになります。環境は重要です。
 非進学校から進学する子どもももちろんいないわけではありません。でもその場合、進学校で普通に勉強した子どもの何倍もの努力をしているのが現状。それでいて成果は苦労に見合わず、しなくてもいい苦労をすることになります。逆に大都市でレベルに見合った学校に行ってさえいれば四年制大学に充分行けたであろう子どもが短大や専門学校止まり、下手したら就職なんて実例もいくらもあります。
 そのことは私自身も経験しました。まっとうな高校に行ったからまっとうに進学できたようなもので、そうでなければ同じ努力では進学できなかったことでしょう。

 それがいいか悪いかの問題は別にして、子どもの希望する進路を進ませてやるのが親の義務でしょう。自分が好き勝手に移住するだけならまだしも、子どもの人生まで破壊する権利があなたにありますか?

 あなたが土地や事業、政治家へのコネをもっているなら別として、そうでなければ技術しか売る物のないこの国で必要なのはまず高等教育です。この国で生活を成り立たせるために国際的に割高な賃金をもらうにはそれしかないのです。前述した地域住民の言い分についていったら、滅ぶのは地元に基盤のない移住者だけということになりかねません。

高校統廃合でも都市部と地方との格差は埋められる−交通機関を本気で活用せよ!
 地方からの進学にこうした格差がある中、さらに北海道では大規模な高校統廃合が検討され、統廃合の対象になる高校を抱える地域には反発の声があります。
 確かに子どもの数が減る中で生徒数が異常に少ない学校があるのは事実です。他方で統廃合によって最寄りの高校でさえ自宅から通えない地域も確実に増えます。
 高校にはその後の進路次第で様々な期待がありますが、それを地元の高校ひとつですべて対応するのは無理な話で、だから下宿などをしてでも都市部の学校に流出しているのも現実です。
 親や子どもにすれば自宅から高校に通うことができるのならそれに越したことはありません。少々通学時間が延びたとしても下宿よりカネがかかるということさえなければ自宅から通った方が何かといいです。家事の心配をしないで済む分、勉学に励むこともできます。
 北海道には数少なくなった鉄道網やそれに代わるバス網があります。特急列車や都市間バス網は支庁制度とは関係なく人の往来に忠実に設けられています。
 これらを通学に活用できるように本気で整備すると大都市部への通学可能圏はぐんと拡がると思います。これらの動かし方次第で都市部まで2〜3時間圏に北海道の相当地域が入るようになります。
 たとえば紋別〜旭川間には高速バス路線があります。時間は3時間です。これが通学に利用できれば沿線から旭川市への通学が可能になります。鉄道のある上川〜旭川間を特急列車を使えばもっと時間は縮まります。
 稚内〜旭川は特急で約3時間40分かかるので少し厳しい部分がありますが不可能でもありません。これが通学に利用できれば沿線はもちろん路線バスとの接続ができれば道北圏の相当区域が都市部への通学圏です。
 運行ダイヤを通学時間にあわせ(学校の開始時刻も調整し)これらの定期代の自己負担を都市部での上限以下に抑え、自分の進路にあった高校に合格さえすれば通学の足は確保されるとすれば格差は解消されます。
 通学者の有無で路線や停車駅を変えるぐらいの柔軟性があっていいでしょう。子どもが減ったというなら全員を毎日タクシーで無料送迎したとしても学校1校の維持費に比べれば安いもんでしょう。都市間バスや特急列車の1〜2便税金で買い上げてもいいでしょう。市町村ごとにたいした変わりばえのない底辺校を置いておくより、既存交通網の維持と充実に税金を投じた方が、多様な進学ニーズに応えられます。いままで地元の高校にすら通えなかったへき地の中には都市間バスの沿線にある地域などではかえって救われる地域も出ます。
 高校生の通学だけにとどまらない効果も期待できるでしょう。病院通いや大学進学、通勤にも利用できれば、いままで地方から出て行かざるを得なかった人も出て行かなくて済むようになるかもしれません。
 地元経済のための高校維持でなく、子どもや親の教育的ニーズをみた高校政策、どこに住んでも格差のない教育を受ける機会が確保される政策であってほしいものです。


地域ごとの学力格差の実態
 → 教育環境の格差を無視して支庁毎の学力などという意味不明なものが公表されています。
 北海道ではこうした教育環境の格差がすでにあるにもかかわらず、こうした格差に何ら対処がされることがないまま、2007年4月に全国学力テストが行われ、さらにこの結果が支庁毎に公表されるに至りました。この学力テストで序列化はしないなどと文部科学省や道教委は言っていましたが、北海道が全国でも最下位クラスとされた都道府県別の結果といい、これは正真正銘紛れもない「序列」です。同じ支庁でも地域によって条件は大きく異なる中で支庁毎の結果発表に何の意味があるかも不明ですが、少なくともこうした形式の発表によって支庁毎に子どもの学力が十把ひとかげらにレッテル貼りされてしまったことは事実です。
 ともあれ支庁毎の状況として報道されたのは下記の通りです。住む支庁を選べる人ばかりでもないと思いますが、住んだ支庁のせいで頭の良し悪しをレッテル貼りされて子どもがかわいそうな思いをすることのないように参考まで。
支庁の対応する地域についてはこちら
支庁小学校中学校
国語A国語B算数A算数B国語A国語B数学A数学B
石狩
上川
空知
十勝
釧路−3−3−6
檜山−3−3−6
留萌−5−3−8
渡島−3−3−3−9
後志−3−3−3−3−12
根室−3−5−5−13
宗谷−3−3−3−5−14
網走−3−3−3−3−3−3−18
胆振−3−3−3−3−3−3−18
日高−3−5−3−3−3−5−5−5−32
※2008年1月24日北海道新聞をもとに記事の範囲内で作成。厳密な結果ではありません。
※ −:全道平均±3以内 −3:全道平均より3〜5ポイント低い −5:全道平均より5ポイント以上低い
※石狩、上川では全道平均を若干上回った地域もあると報じられています。

「北海道移住プロジェクト」のINDEXに戻る

トップページへ  アンケート  リンク集

このページの著作権は、YANAPY に帰属します。 (C)2001-2008 Copyright YANAPY, All Rights Reserved.