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時空間連続レイアウトについて

鉄道模型とコスト

VRMとNゲージをコストという面で考えてみましょう。例えば、レイアウトに農家を5軒ほど並べたいと思った時、Nゲージでは×5個分の費用が掛かります。しかし、VRMでは初期投資(パッケージ購入代)こそ掛かりますが、農家5軒でも10軒でも100軒でもそれ以上コストが掛かることはありません。これはレールや車輌についても同様です。追加キットでキハ40系を購入すれば、1両走らせても20両走らせても同じ値段です。

これはストラクチャを追加するだけでなく削除する場合も同様です。Nゲージで農家を立ち退かせてマンションでも建てようかと思った場合、取り除く農家は勿体ないですから、他に流用することを考えます……というか、ストラクチャを建て替えようなんて最初から考えませんね。一度作ったレイアウトに手を加えることは少ないですし、そうならないように慎重に設計します。一方VRMでは、ストラクチャを削除しても勿体なくありませんし、Deleteキー一つで簡単に削除できます。農家でもマンションでもいくらでも建て替えることができます。レールや地形に関してもそうです。単線として完成したNゲージレイアウトを複線化しようとなるとえらい騒ぎになりますが、VRMでは用地買収や造成を気軽に行うことができます。VRMのこういった特徴を活かすことを考えると、例えば、非電化単線として完成したレイアウトを電化複線に改造してみるといったことを思い付きます。

時間を内包する

VRMチップスの中で『情景を動かす』という記事を書いたことがあります。ストラクチャが動く訳ではなく動いているように見せ掛ける、単にストラクチャを並べただけでは動きがなく情景が死んでみえるという内容です。これは鉄道模型に限りません。他のディオラマでもCGでも絵画でも情景が動いているように表現するということは大事なことです。

「動いている」ということはそこに「時間」が存在しているということです。その瞬間の動きを表現するだけではなく、もっと長いスパンでの動き:つまり、情景に歳月を取り込むことは出来ないでしょうか? 一つ思い付いたことは「工事中」の情景を作ることでした。幸いVRM3には建設中のビルなんてストラクチャがありますし、工場関係の部品も充実しています。例えば、海岸を埋め立ててウォーターフロントを建設中とか、路線および駅の高架工事中などの情景を作ることが出来そうです。そして、これを実現したのがレイコン作品である「Two Side」に他ならないのでした。あれは、名もない田舎町が新しく生まれ変わるという比較的長いスパンの時間の経過を表現したものです。但し、一つの完成したレイアウトには違いありませんので、歳月経過途中のある一点を抜き出した物です。

蛇足になりますが、鉄道模型が他の模型と違う点は、まさしく「動く」という面にあります。つまり、列車が走ることによって、そこに時間が生まれるのです。駅を通過する、列車がすれ違う、などの光景は他の模型では表現できないことです。鉄道模型は本質的に時間を内包していると言うことが出来ます。なお、これに対し、ビネットや本棚レイアウトなどの展示用レイアウトは、絵画と同じく、連続した時間のある断面を抜き出して描いた物です。

世界を創造する

以前BBSで、私のVRMレイアウトは線路周りだけでなく見えない場所まで作り込んである、と感想を頂いたことがあります。これに関する答えは簡単で、私は鉄道シーンだけでなく『世界』をつくっているからです。例えば、キハ40が気に入ったので、このクルマを使ったレイアウトを作りたいと思ったとします。キハ40はローカル線用の気動車ですので、情景としても田舎ののんびりとした風景が似合いそうです。ならば、「田んぼ」や「畑」を沿線に並べてみましょう。普通はこれだけでそれなりの風景は出来上がります。しかし、畑があるということは、それを耕している「農家」がある筈です。それも一軒だけということはありませんでしょうし、逆に一軒の農家で管理できる農地の広さには限りがある筈です。そこで畑の広さに応じて農家の数を決め適当に配置します。この場合、農家を分散させて配置するのではなく、ある程度まとめた方がいいでしょう。人間は固まって暮したがるものですし、拡散と集中理論にも適合します。次にこの農家は農作業を行わないといけませんので、何が必要かと言うと、畑まで出掛けていく為の「道」です。つまり、農家から畑まであぜ道を配置します。また、畑の真ん中で一人で暮すことは不可能ですので、町まで買物に行く為の道も必要です。この場合、町はレイアウトの外にあると設定しますので、農家からレイアウトの端まで2車線道路でも配置すればいいでしょう。また、こんな田舎に暮しているのですから、自動車も必要です。これだけの広い農地を持っているのですから、自動車も立派なものを持っているに違いありません。ひょっとしたら農家には似合わないスポーツカーがあるかもですね。という訳で農家の庭先に適当な自動車を配置しましょう。

このように想像をふくらましていって情景を作っていく訳です。単なる想像だけではなく、技術的な知識も必要です。先の農家の場合、いくら田舎だと言っても電気が来ていないということはない筈です。となると、農家の庭先まで電柱を並べ電線を引く必要があります。もちろん、鉄道の方もそうで、非電化路線と言っても自動信号機くらいはあるでしょう。ならば、その信号機に電源と信号線を供給する必要がありますので、通信電柱を沿線に建てなければいけませんね。電化路線の場合は変電所が必要です。変電所がないレイアウトは、架線があってもそこに電気が通じていないということになりますよ。そういう意味ではVRM4第0号からストラクチャに変電所があるのは、ある意味当然だと言えます。そもそも鉄道があるということはそれを利用している人がいるということです。駅があるなら、周りに住宅があり、そこに住んでいる人が通勤するために鉄道を利用しているということですね。当然、住宅から駅まで道路があり、駅前には商店が並んでいることでしょう。そこに住んでいる人は毎日どういったルートで駅まで通っているのか想像してみましょう。朝、遅刻しそうになった時の為に駅までの近道があるかも知れませんし、帰りに一杯やる飲み屋も欲しいところです。ま、こういう風に、レイアウトを作る場合、技術的に列車が走ることが可能で、それを利用する人々が生活できるように情景を作る、これが、世界を創造するということです。

※逆にいうと、鉄道中心の風景:複数の路線が交錯するようなレイアウトは苦手です。私の作品は、配線は単純なオーバルループの物が多いです。

時空間連続レイアウトとは?

以上3つの観点、レイアウトを改造するのが比較的容易、時間の概念を取り入れる、世界を創造する、を考慮したのが「時空間連続」レイアウトです。「Two Side」の場合は、時空間レイアウトなのですが、一つの完成された物なので残念ながら連続していません。ならば、複数のレイアウトを用いる:最初に地平路線で完成したレイアウトを作り、次にこれを改造して高架路線にする、といった2つのレイアウトで時間的に連続した世界が表現できます。もちろん、空間的にも連続していることが大事で、地平線を高架線にする場合、もとの路線を全く無視して新たにレールを敷設する訳にはいきません。工事中でもその路線は営業していますので、既存の線路に影響がないように新しい線路を敷設する必要があります。この辺は、実際の鉄道の高架工事を思い浮かべて貰えればいいでしょう。具体的に言うと、既存線路の隣に新たに土地を買収して、そこに高架線を建設する、一気に高架するのは難しいので、まずは上り線を工事・開業させてから下り線に取り掛かる、という按配です。土地を買収するのに、山を切り崩さないといけないかも知れませんし、立ち退きを拒否する人も出てくるでしょう。

都会の駅前の風景をVRMで作る場合、全くゼロの状態からいきなりビルなどのストラクチャを並べていくと思います。しかし、現実の街はそのようにして出来た物ではありません。元々、田舎町だったのが徐々に発展していった:始めは「商店A」だったのが、雑居ビルに建て替り、そしてインテリジェントビルになった、という時間の経過がある筈です。ニュータウンなどゼロから街が出来た場合でも、山や森を切り開いて建設した訳ですね。都会の風景には、そういった元田舎町、元山の中だったという「痕跡」が残っている筈です。時空間連続レイアウトにより、最初に田舎町を創り、それを徐々に改造していって都会にしていく、ということを行えば、現実の街と同じくリアルな情景を作ることが可能でしょう。VRMは「シミュレータ」な訳ですが、空間だけでなく時間もシミュレートしようという訳です。

名もない田舎町をとしてスタートした「桜崎物語」も時代の変化とともに、町から市へ、最終的にはビルが立ち並ぶ立派な都会へと移り変わっていく予定です。いや、実際作っていてそんな簡単に都会に変貌できるものではないというのが実感です。実は、第3回には早くもkNR本線の高架工事を始める予定だったのですが、そんなに安易に出来るものではありませんでした。高架にする必要がないじゃないか、というのが理由なんですけどね。あくまでそこに暮す人々の立場に立って、あくまで実際の町として機能するようにレイアウトを作っていますので、この先、桜崎町がどのように変化していくのか作者にも全く予想が付かないのです。

蛇足ですが、書いた者勝ちなので、時空間レイアウトに関するアイデアを並べておきます:
(1)海上空港建設による田舎町の変貌→「Two Side」(モデルは関西空港と南海電鉄泉佐野駅)
(2)碓井峠の100年:山越え路線の変貌、ループ・スイッチバック線から大トンネル建設まで
(3)双葉島物語:最初に思い付いた時空間連続レイアウト。日本近海に出現した新たな島(領土)に入植していくという物語。構想が大きすぎて没。
(4)海峡物語:関門海峡や津軽海峡がモデル。海をどうやって越えるか(海底トンネル・鉄橋)がテーマ。