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『話せる島記・外伝』

『第一章・それぞれの道』

『第五話・探険倶楽部』

「いかん・・・完全に迷子だ」

「ここは越えられそうにないなぁ・・・仕方ない、迂回するか」

あたしとエル・・・・ヒューマン・ナイトのエル・ロンドは、グルーディオ城の村の南側にある山脈で迷子になっていた。探険と言うにはおそまつな遭難者。幸いなのは、一匹たりとも怪物がいないことだろうか。基本的に山岳地帯に住んでいる怪物はいないらしい事が解っただけでも、探険の値打ちありと言えるかもしれないが。

しかし迷子は迷子である。

しかも今は夜。

話は、早朝まで溯る。いや、実際には前日か。

グルーディオ城の村で偶然集まったあたしとエル、それに杏樹の三人は一緒にペットをもおう、と言うことになった。三人そろって島に戻り、蜘蛛退治を済ませ、グルーディン港の村のペット管理人に報告すると、これまた三人そろってギランまでの往復だ。

それともうひとつ目的があった。各村で露店を見て回り、拾った物品を買い取ってくれる露店を探すこと。露店そのものはどの村にもあるのだけれど、人によって場所によって買い取り金額が微妙に違う。ペット試験でグルーディオ、ディオン、ギランと回らねばならないため、ついでに一番高く買い取ってくれる人を探そうという魂胆。発案者はあたしである。

グルーディオ城の村に到着するとゲートキーパーにペットの話を聞き、それから広場で露店を見て回る。手持ちの品々・・・動物の骨、皮、黒炭、炭、鉄鉱石に木の幹、糸。幹や糸は二束三文だが、皮や黒炭などはそこそこの金額で買い取りをしているひとがいる。さすがに軒を並べているだけあって、価格に大きな差はない。しかし、村と村とでは価格が違う場合がある。ギランへ行くまでに各村の金額を控えておいて、帰りに一番高値の村で売りさばく。品物によってはばらつきがあるので、適当に売るよりははるかに儲けることが出来るのだ。

グルーディオ城の村

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「皮が240の黒墨と炭が200で鉄鉱石が150、骨100と」

メモメモ。この村が一番活気がある。一番人が多く、取引も活発だ。ゆえにいわゆる市場価格の基礎にもなっていると言えるだろう。他の村は人もまばらで静まり返っている。とくにギランは年の入った人達しかおらず、露店そのものがほとんどない。代わりに、少数ながらもっと高級な素材などが取引されているようだ。

「こっちに骨110ってのあるよ」

エルがまた見つけたらしい。

「おっけー。メモった。そろそろ行く?」

「ん」

露店を見てまわり、価格をメモするだけで結構な時間を取られた。しかしまあ、後はほとんど往復の時間だけで済みそうなのでよしとするか。

「南門集合ね」

「らじゃ〜」

「ん」

人込みをかき分け、南門へ。その南門自体も、さまざまな人でごった返している。

『一緒に荒地行きませんか〜〜』

『クルマ湿地、ヒーラーさん募集してます』

『どなたかペアお願いします〜〜〜』

これから狩りへと繰り出す一団があっちにもこっちにも。WWください〜、との声にとりあえずウィンドウォークをかけて、南門から少し離れた木立の前へ。

あら。

「jimerさん」

見知った顔を見かけた。

「ん?あ、なるるん」

行く先々で、本当によく出会う人だ。ESTIMABLEさんも一緒にいる。そういえば、蜘蛛退治に戻った島でも会ったよな。時々、あとを着けられているんじゃないかと勘ぐってしまいそうになる。

「お出掛けですか?」

「うん。ちょっと露営地にね。なるるんは?」

「ペット試験中なんです」

「またかい」

苦笑するjimerさん。そうなのだ。お姉ちゃんも含め、あたしも、もう何度もペット試験で話せる島とギランを往復している。jimerさんとはその道中、しょっちゅうすれ違っているのだ。「何やってるの?」「ペット試験」いつもこのパターン。後ろでESTIMABLEさんも笑いを堪えて・・・ないな。大笑いしている。

「えへへ」

あたしも照れ笑いをするしかない。

「おまたせ〜。ん?どうかしたの?」

エルが杏と共にやって来た。

「ううん。なんでもないの。ちょっとした知り合い」

「ふ〜ん」

と言いながらもjimerさんたちに「ども」と軽くあいさつをする。杏も伏し目がちに会釈をしたんだか、下を向いたんだか。二人とも結構人見知りするらしい。あたしと居る時は全然そんな風じゃないけど。

あたしがお気軽すぎるのか? 結構、誰とでも・・・・そう、この間の悲嘆の廃墟での出来事のように、今初めて会った人とでも、結構すぐに馴染んでしまうところがある。何度も会えば尚更だ。

ま、それはさておき。

「じゃあ、行きますね。jimerさんたちもがんばって」

「ありがとう。気をつけて行ってらっしゃい」

「はーい。行ってきまーーす」

エルと杏にウィンドウォークをかけ、元気よく走り出す。次の目的地はディオンだ。

ディオンの村

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グルーディオ城の村と比べるとかなり人が少ない。露店もまばらではあるが、買い取りをしている人もそれなりに居る。見て回る、と言うほどもなく、広場の真ん中に立っていれば全部が見渡せた。価格のチェックはすぐに終わった。

「黒炭がちょっと安い目だねえ。あとは似たようなものか」

周囲で採取できる素材に地域の特徴が出たりもするのかもしれないな。などと先に広場に寄って価格を見たため、もう少しで南門の衛兵にペットの話を聞き忘れるところだった。杏がしっかりと覚えていてくれたので、南門に立ち寄ってから北門へ戻る。

そう。

お姉ちゃんが初めて一人でペットの試験に挑んだ時。南門から海岸沿いと言う遠回りな上に危険なルートを選択していたのだ。後にarameさんと一緒に走った時、ディオン城の村の北門をでてそのまま東へ進むルートが一番近くて安全だと教わった。別の友達を自慢げに南回りで連れて行ったこともあったんだけど・・・。

処刑場もパルチザンのアジトも、街道からは少し離れた場所にあるため、危険はまったくない。危険だとすればそれは・・・

「杏、後ろ、後ろ」

先頭を走る杏にダイアーウルフが襲いかかる。杏の少し後ろを走っていたエルが先に気付いて応戦する。あたしも追い付き、ウィンドストライクを唱える。

「待て待て、杏」

我関せずと先へ行く杏。

「ん?」

何事かと立ち止まり振り返るが、あたしとエルが追い付くとまた先頭切って走り出す。

この道は、途中、林の中を抜けて行くのだけど、そこにダイアーウルフがいる。道のすぐ近くにもいるので、ちょっとでもそれると襲われてしまうのだ。杏はいつものことながら道なんておかまいなしに直進するもんだから、すぐ怪物たちに目をつけられるのだ。

あたしとエルは顔を見合わせ、すこし苦笑いしてから並んで杏の後を追った。

処刑場とパルチザンのアジトの間、左右に崖のある地帯を通り、また林の間を抜けて行くと視界が開ける。そこには・・・

「真っ赤だ」

「杏、突っ込むんじゃないよ」

「・・・わかってるって」

どうだか。

左側、すこし小高くなった土地には、どう見ても相手にしたくない怪物がいた。ばっさばっさと不気味な羽音を響かせているのはウォームと言う翼竜だ。その下にはオレンジ色のバジリスク。うようよと沢山の足が気味悪い。場所的にも朽ち果てた倒木やごつごつした大きな岩が転がっていたりと不気味さを盛り上げている。

その脇には数人の冒険者が集まっていた。おそらく、これからあの怪物たちと対峙するつもりなのだろう。もしくは三差路の向こう、もっと奥地へと。その装備品はあたしらよりもずっと高級で頑丈そうなもののようだ。

その人達を横目に通り過ぎ、右、左と曲がり角を過ぎれば・・・

「ギランとうちゃーく」

門を過ぎると、長い通路。左右には高い壁や建物が並んでいる。その通路を進み、内門を過ぎると広場に出た。がらん、として人影はまばらだ。ただでさえ広いのになおさら広く感じる。広場の真ん中に塔が建っているのは話せる島の村にも似た作りかもしれない。スケールはずいぶんと違う。違うと言えば、広場も通路もきちんと石で整地されており、地面が剥き出しだったこれまでの村とも風格が違う。おそらくは最も権力のある城の配下にある村なのだろう。

あたしたちを含め、他の冒険者たちも現在はここを根城にできるほどの年の人は少ない。いずれ将来はここも人々の活気に満ちた村になるのだろうか。

そんなことはさておき。ここでは露店を見るまでもない。露店どころか人がほとんどいないからだ。

ギラン城の村

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広場を通り抜け、南側の内門を抜けて本来の目的であるアクセサリーのお店に向かう。

お店で話を聞いた三人は、ペットのお話もそこそこに、今まで見て来た露店の価格を再確認しつつ、元来た道を戻った。陽が傾きかけてきていた。

「骨と鉄鉱石はディオンがいいね。他はだいたいやっぱりグルーディオかな」

「糸はグルーディンが高かったよ」

「ふむ。なるほど」

メモを確認してみるとエルの言う通りだった。種類が結構あるので、その組み合わせを見落としていた。狩りの時だけでなく、こういったところでも「一人より」って利点は大きいだろう。三人寄ればなんとやら、と言うやつである。

ディオンに到着し、それぞれ露店を回ったところで杏が寝ると言い出したので、そこで別れ、エルと二人で港村まで戻ることにした。

「これでよし。そっちは?」

「うん、終わった・・・って言うか、全部売っちゃった」

「え?」

なんですと?

「なんか面倒臭くなっちゃってさー。さして差がある訳じゃないし。まとめて、全部売っちゃった」

「ありゃまあ」

気持ちはわからなくもないけど。確かに見て回ってメモしてあっち寄ってこっち寄って・・・・うっとおしいと言えばうっとおしいが。

「それじゃ、もう、グルーディオは飛ばしてグルーディンに戻る?」

「なるるはいいの?」

「んー。あたしは別に。またどうせグルーディオにも寄る機会はあるだろうしね」

今のペット試験が終わったら、またもう一匹追加でもらおうと思ってたし。

「それじゃ、グルーディンへ」

「ほーい」

ディオンからグルーディオへは比較的短距離なので立ち寄ってもさほど手間ではない。道なりに行けばグルーディンへの通り道でもあるので、どうせ通過はするんだけど・・・・グルーディオの手前、川にかかる橋を渡ったところでふと思った。

「グルーディオに寄らないでグルーディンに戻るんなら、こっちの山、越えて近道できないかな?」

あたしのその一言が難儀なことになろうとはその時は思いもよらなかった。とっぷりと陽は暮れていた。

「どうだろう?でも、おもしろそうだし、ちょっと試してみようか?」

「うんうん、行ってみよう」

あたしとエルは、グルーディオ城の村へは向かわず、道を逸れ、南側にある山岳地帯を目指すことにした。山岳地帯の手前には林があり、怪物たちもいたが、幸いに襲われることはなかったので手出しせずにやり過ごし、裾野に辿り着いた。

走って来た勢いでどんどん、と山を登るが、ところどころ登れない箇所があり、山腹を迂回しなければならない箇所もあった。

「こっち行けそうだよ」

振り向いてエルにそう話しかけようと思ったが、そのエルがいない。

「あれ?」

「はぐれちゃったか?」

「みたいだねぇ・・・どこにいる?」

「ん〜〜、山の上」

そりゃ分ってるってば。パーティを組んでいたので会話も可能だし、おおよそどちらに居るか方角もわかるのだけど、実際の距離までは正確に判らない。あまり離れてしまうと方角さえわからなくなるのだ。しかも、その方角に行こうとしても、山肌にはばまれて向かう事ができない。

「いかん・・・完全に迷子だ」

「ここは越えられそうにないなぁ・・・仕方ない、迂回するか」

という訳で冒頭の状況に辿り着く。いや、全然目的地には辿り着けてないんだけれど。

「こうなったら、各個に目標へ向かおう。うまく行けばどっかで落ち合えるだろ」

「ういうい〜、了解っ」

いい加減さここに極まり。とりあえずは捨てられた露営地あたりを目標にしてはみたが・・・・そして、それぞれ単独で夜の山中をさまようこと十数分。あたしはようやく山中から抜け出せそうな下り坂にさしかかった。ちょうどその時、すぐ後ろに何物かの気配。

まさか、怪物?!

とっさに振り返るとそこには・・・

「や〜〜〜。なるるみっけー」

エルだった。この状況でも暗くなることなく劇的に明るい。

「あ・・・」

ちょうど、振り返って見たエルの後ろにぽっかりと月が浮かんでいた。

「ん? どうかした?」

エルもいぶかしげにあたしの視線の先を見た。

「ぉぉぉ」

綺麗。

迷子記念写真

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しばし、その月に見とれたあと、二人して下山した。

ちょうど、捨てられた露営地の前の森に辿り着くことができた。近道だったんだか、遠回りだったんだか。時間的に見れば道なりに普通に走って来た方がはるかに早かっただろう。

でも。

道無き道を右往左往しつつも進むのは面白い。初めて見る景色。初めて通る場所。初めてこの世界に降り立った時の見る物全てが珍しく、好奇心に充ち溢れていた頃を思い出させる。

探険、と言うにはおそまつかもしれないし、取るに足らない小さな出来事かもしれない。でも、隣を走るエルの横顔を見ていると、それが無意味なことなどでは決して無いと思える。多分、あたしもきっと、同じ顔をしているに違いない。

それに。

「港村まで競争だ〜〜」

「あ、こら、まて、エル、ずるいぞ〜〜」

誰かと共に進むのは、尚楽しいではないか。

「あはは〜〜、ここまでおいで〜〜」

「またんか、ごら〜〜。アイスボルト打ち込むぞっ!」

「きゃはは〜〜〜」

「んにゃろめ」

「ぎゃあ。本当に打つかっ!」

「へへーんだ。おっさき〜〜」

「むうう」

お気楽な夜はふけてゆく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夢を見た。

毎度おなじみ・・・・・じゃなくてここは話せる島の村か? そういえば、グルーディン港から船に乗ったんだっけ。必然的に話せる島、ってことか。

あたしは、村の北西の門を抜け、カエル地帯の川にかかる橋を渡ると、道なりに港の方面へと走っていた。まっすぐに行けば港へと辿り付くが、早々に右折。草原へと入って行った。

草原にはオークファイター、副隊長、それにウェアウルフとハンターがいる。そして草原のやや西外れには巨大な石柱が円形に並んだ場所があって、どうやらそこを目指しているらしい。あたしやお姉ちゃんは東側の海岸方面や戦勝記念の塔近辺で育ったので、ここらあたりにはあまり来たことは無かったが、何度か通りがかったことはある。

柱の間にはウェアウルフハンターが群れていた。あたしはその外側からゆるゆると近付き、一匹のハンターをおびき寄せると、例の花火を打ち上げ、手にしたナイフで切りかかって行った。って、ナイフ! 剣と言うには短すぎる刀身。短剣だ。これはまた・・・。あたしのようなメイジ・・クレリックには少々扱いの難しい武器。剣もそうだが、間合いを取るのが特に難しく、手首のひねりや握り、角度などなど、うまく当てることだけでも大変なのだ。当たれば大きなダメージを与えることができたとしても、当たらなければ何にもならない。

案の定、夢の中のあたしが振り回す短剣は、何回かに一度は虚しく空を切る。

あたしが今使っているセスタスは拳と言うだけあって、素手で殴る感覚に非常に近いため、とても扱い易く、空振りすることも少ない。それに左右の手で連続して攻撃ができるため、安定したダメージを与え続ける事が可能だ。

踊るような空振りを交えつつ、ハンターの息の根を止めると、その死体は以前の夢のように紫色に光った。うう、またアレか・・・・いやな記憶の通り、あたしはその紫色の死体に腕を突っ込んだ。ゼリーの中をかき回しているような奇妙な感覚の先、指に触れる硬いものがあった。それを掴むと死体から腕を引き抜く。握り締められていたものは黒い石のようなものだ。これも以前同様、腕も物体も紫色の液体に濡れていることもなかった。

物体は黒光りする石。黒炭だ。あたしもいくつか持ってはいるが、あいかわらず、何をするものなのかはよくわかっていない。

夢の中のあたしは、石の柱に囲まれた場所でウェアウルフハンターだけに狙いを定め、次々に倒していった。花火を打ち上げ、紫色に光ったらその身体から黒炭を抜き取る。必ず紫色になるかと言うとそうでもなく、光ったり光らなかったりだ。光らないと、夢の中のあたしは悔しそうに舌打ちをしている。その仕草からして、どうやら黒炭を集めているようだ。何のために? まあ売ればいくばくかにはなるし、数が揃えばそれなりの金額にもなる。有っても困らないのだからこれはこれでいいのだろう。あまりたくさんあり過ぎると邪魔にはなるか?

あたしはそんなことを考えながらまた暗い闇へと誘われて行った。

・・・・・・・・・・・・

エルと共にペット試験をこなして無事にウルフを手にいれる事ができた。杏樹とは途中で別れてしまったし、一応目的を達したのであたしとエルもそこで別れ、それぞれの道へと戻った。エルはもう、悲嘆の廃墟での骨集めも卒業し、今は捨てられた露営地に出入りしているらしい。杏樹も一緒だそうだ。

あたしはまだまだ、かな?

エルとの旅はあたしに何かをもたらした。いや、以前からずっと漠然としたものがあったのだろうけれども、それが一つの形を成して来たと言える。

道無き道を進み、前人未踏・・・かどうかを調べる術はないが、自分としては初めて訪れる場所・・・に赴く。野を越え、山越え、谷越えて。しかしあたしの今の興味は大地の上ではなく、大洋にあった。

それは以前、お姉ちゃんがエルフの遺跡から飛ばされた「異次元」のことである。あの時、お姉ちゃんが見た光景。地図に記された場所。それは話せる島の東方、遠くアデン大陸のはるか南。そこに辿りつけるのかどうか、機会があれば海の中を調べてみたいな、と、ぼんやりと思っていたのだが、それが具体的な考えになってきた。

グルーディン港の村に居たあたしは、かつてお姉ちゃんが初めて走ったあの街道を下った。

途中、みづほさんと交感魔法でおしゃべりをしていた。彼女に今から「海洋調査をする」と告げてみた。彼女ははこう答えた。「面白そうじゃん、うちも付き合うよ」

持つべきものは類の友。おそらく、そんな似た性格だからこそ、付き合っていられるのかもしれない。

グルーディオ城の村に居た彼女はゲートキーパーを使って南部海岸へと移動し、アデン大陸の南端で落ち合うことにした。ちょうど、お姉ちゃんが初めて上陸した半島から少し南に下った場所だ。

「よ、ひさしぶり」

あたしが到着するとみづほさんはすでに来て居てあたしを出迎えてくれた。

「こんちは。おひさしぶり」

交感魔法であいさつはしていたのだけど、やはり直接会うのとは微妙に異なる。改めてあいさつを交わして、話をすすめる。

「んじゃ、あたしはもうちょい東の方から行ってみるわ」

事の概要と段取りは移動中に交感魔法で済ませてあるので後は実践あるのみだ。

「うん。あたしは西へ。キスが切れたらヒール忘れないで」

海に入るために、キス・オブ・エヴァの魔法は必須だ。息を止めて居られる時間をかなり延ばせるので、今回のような探険にはなおさら必要だ。

「かけ終えたらなるべく急いでポイントへ」

「おっけー。わーってる」

「いくよ」

あたしは先ずみづほさんにウィンドウオークとキス・オブ・エヴァの魔法をかけた。

「おし、行って来る」

「たのんます」

あたしも、みづほさんが走りだすのを見届けてから逆方向へ走った。波打ち際まで行って、自分自身に魔法をかけていると、みづほさんから交感魔法で交信があった。

「今、海に入った。とりあえず予定通りまっすぐ南に向かってみる」

「おっけー。あたしも今から。無理はしないでね。危ないと思ったら引き返して」

魔法をかけながら返答する。

「らじゃり」

あたしも海へと足を踏み入れる。

遠浅の砂浜はしばらく胸ぐらいまでの水深だが、ある程度沖へ進むと一気に海底が沈む。しかし、例の話せる島との間にある「海底空間」のような場所ではない。水をたたえた立派な海だ。

お姉ちゃんが初めて海に入った時のように、延々と海底を進む。しばらくするとみづほさんからまた交信があった。

「キス切れた・・・」

「こっちももうすぐ切れる。やばそうだったら引き返して」

「あれ?」

「ん?どうかした?」

「いや、ちょっとまって。これは・・・」

みづほさんが何かを見つけたらしい。

「何?何?何かあった?」

あたしの方はまだ何も見えない。ただ海の底と海水が見えるだけだ。とにかく交信しながらも南下を続ける。

「いやさ、何かあるってゆーか、何も無いってゆーか」

「?」

なんのことだか、状況が飲み込めない。いや、水を飲み込みそうになった。あたしもキス・オブ・エヴァの魔法が切れた。

「みづほ、ヒール、ヒール」

先に魔法が切れていたみづほさんの体力がえらく減っていた。

「うおぉ、やべ」

回復魔法を唱えたのだろう。体力が戻ってゆく。ウィザードのみづほさんではあるが、若いころ、メイジの時代に覚えた回復魔法がまだ使えるのだ。普段はほとんど使うことは無いらしいが、今日ばかりは使えて幸い。そうでなければあたしも彼女を誘ったりはしなかっただろう。エルや杏のような剣士さんだったらちょっと遠慮してもらったところだ。

「で、何がある?」

「いやさ、何か見えない壁みたいなもんがあってさ、前に進めんのだ」

「ほ〜」

ある意味、ビンゴ。

やはり、何かあるんだ。

「あ」

海底探査

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今度はあたしが声を上げる番だった。

「ん?どした? ウザンカでもいたか?」

「んな訳ないでしょ。ってゆーか、それはそれで大発見だけど。そうじゃなくって」

みづほさんと話していると調子が狂うんだか調子に乗っちゃうんだか。

それはさておき。

「そっちと同じ。前に、南に進めなくなった」

「ほーほー」

「位置的にもほぼ同じぐらいだな」

「んだにょ」

みづほさんが先行して海に入った関係でその場所に辿りついたタイミングを考えると、その壁は東西に真っすぐ伸びていると見て間違いはなさそうだ。

前に進めなくなったあたしは、左右に動いてみた。

「東西には動けるか」

「みたいだな。でもそろそろやばいかも」

体力もしかり、回復魔法を連続して使っているため、マナも相当消費している。このままだとマナ切れで回復できずに体力も失われてしまうだろう。

「だね。みづほさんは引き返して。ありがと。なんとなくわかった」

「ういうい。撤退しまー」

「あたしはこのまま西に行ってみる。うまくいけば話せる島の領域までいけるかもしれない」

一つ算段があった。

ここらあたりがエルフの遺跡とつながっているとしたら、それは話せる島の領域だということである。ここで帰還スクロールを使えば話せる島の村へと帰還できるかもしれない。しかし念のため、できるだけ西、話せる島に近付いておいた方がいいだろう。お姉ちゃんの時もそうだった。西へ西へと進み・・・・そういえば、お姉ちゃんもそれ以上進めない、見えない壁の地点で帰還スクロールを使ったっけか。

「無茶はすんなよー」

「あれ?」

「ん?どった?」

「南に行ける」

左側の見えない壁伝いに西進していたが、時折南側へと進もうとしてみていた。壁のせいで行けはしなかったが、突然、南へと曲がり、進むことができた。

「・・・と思ったら行き止まりだ」

「なんーじゃ、そりゃ」

二〜三歩歩いたところでまた壁。右左、と向かってみると、左側へ進めた。しかし、数歩歩くとまた行き止まり。今度は右。次は左側、右、右・・・

「な、なんか迷路みたい」

「壁とかあんの?」

「いや、ああ、うん、見えない壁・・・」

あたしはちょっと焦っていた。前と左右、進める方角を探しながら逐一みづほさんに報告しながら自分の体力を回復する。壁そのものは見えないため完全な手探り状態だ。

「むう。なんか行けそうで行けないや」

「ふむ。何だろうな」

「とりあえずは西を目指してみる」

「それはいいけど、なるる・・・・」

「ん?」

「体力・・・・・」

「へ?・・・ああっ!!」

あわてて回復魔法を唱える。あせりすぎて、緊急じゃない方を・・・

「・・・・」

「あーあ」

間に合わず。緊急の方だったら間に合っていたかもしれないが、いずれにしてもマナの残りも少なかった。歩いて海岸まで戻っても辿り付けたかどうかは微妙。こうなることはある意味織り込み済みだったと考えるべきか。最終地点がちょっと早まっただけだと思っておこう。

「すまん、さすがにそこまでは起こしに行けそうにない」

「心配ご無用。とりあえず、最寄る・・・・けど、どこに戻るんだろう?」

「さてのお」

話せる島ならラッキー。場所的にはグルーディン港の村って可能性もなきにしもあらず。

最寄りの村へ。

・・・・・・

「どう?」

「島〜〜〜〜」

「おーー。おめー」

「やー」

みづほさんに交感魔法であいさつをして、今日のところは一段落することにした。

しかし、やはり、あの海域には何かがある。機会があればもう一度、詳しく調べてみたいところだ。

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