中国鉄路の旅

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 第5日目:8月8日(火) 吉林
 結婚式当日、朝6時に起床。結婚式の朝は早い。


 8時頃から長青さんの女友達が集まりはじめ、彼女が専門の美容院でメイクをしている間に部屋の飾り付けを始めた。赤いセロハン素材の紙に「喜」という文字を切り抜き、周りに模様をかたどったものを、彼女の部屋の入口や窓、タンスなどに次々と貼り、それが済むと今度は部屋から出て冷蔵庫、玄関、マンションの入口にまでわいわい言いながら貼りに行く。いったい何枚でてくるのか、けっこう楽しそうである。

 長青さんがメイクから帰ってきて、借りてきたウェディングドレスを部屋で着る。そして新郎を待つのである。ただし、時間の関係から先に二人や友達との写真撮影が行われた。プロのカメラマンが1名、ビデオの女性カメラマンが1名やってきて、要領良く撮影が進められた。カメラマンは技術のみを仕事にしているので、撮影に使うフィルムは客が用意しなければならないという。また、中国では結婚が決まるとあらかじめ二人の写真を2〜3日かけて様々な衣装やロケーションで撮影し、それをアルバムやVCD(ビデオディスク)、さらには大判の額縁付写真に仕上げる。それもピンク・イエロー・グリーンなどの原色や金色を多用しているので、かなり派手に仕上がっており、日本人が写真館で撮影するような結婚記念写真とはかなり異なる。ちょっと恥ずかしい気もするが、それが習慣であるという。撮影中、長青さんのお母さんがラーメンを1杯作って部屋に持ってきた。彼らは朝から何も食べていないからかと思いきや、実はこれも儀式だという。中国ではめでたい時に「人生を長く生き、お互い長く付き合っていきましょう」という意味を込めて麺類を食べる。日本でも同じような縁起の担ぎ方があるが、中国は日本のように日常的にラーメンを食べることが少ないらしく、より深い意味があるように思えた。
 そうこうしているうちに撮影を終えたカメラマンが玄関から出ていった。挙式用の車がもうすぐ到着するらしい。一生君の家族と共に1階まで降り、車を待つ。DATをを持ち、マイクを構える自分の姿を見てカメラマンが中国語で話しかけてくるが、さっぱり意味が判らない。短いフレーズの質問だったので、少しでも中国語を勉強しておけばよかったかな思った。DATのテープと見せると、納得したような様子。

 威勢のいいクラクションとともに黒塗りの車が到着した。10台以上並んでいる。先頭は新郎新婦の乗る車で、金色で「喜」をかたどったレリーフを掲げ、ボンネットは花で飾られ、かなり派手な装飾である。車からは吉林大学のある長春からやってきた一生君の留学生仲間が大勢降りてきた。長青さんのお父さんが吉林駅を経由して乗せてきたという。辺りは一気ににぎやかになる。

 
 
 いよいよ扉をたたく。インターホンで開けてもらうと中から子供たちがどっと出てきて一生君の行く手を阻む。長青さんの親戚の子供たちが「とおせんぼ」をしているのである。一生君は一人ひとりに前日作った「紅包」を渡す。通行料のようなものである。ようやく通してもらうと7階まで階段を登っていく。後ろから一生君の家族と留学生たちがぞろぞろと続く。玄関にも番をしている子がひとりいたので、一生君はその子にも「紅包」を渡して扉をたたかせてもらう。中からは長青さんの家族の声。一生君は中に入れてもらうよう、お願いするわけである。家族の人に「紅包」を渡し、家に入ることができても最後の難関が待っている。新婦の部屋には新婦とその女友達が構えており、「紅包」を渡しても簡単には入れさせてくれない。気持ちを伝えろ、歌をうたえ、なぞかけだ・・など、とにかく一生君をじらし、彼女たちはこの儀式を楽しんでいたようだった。

 

 一生君は部屋に入り、長青さんを抱きかかえて記念撮影。小柄な長青さんとはいえ、数分間抱え続けなければならなかった彼は、終始笑顔を絶やさず、歯を食いしばっていた。
 いよいよ家を出発である。車まで長青さんを抱えて乗車。続いて一生君の家族、長青さんの家族、留学生たちも車に乗り込む。私も後方の車に乗った。これでハザードをたきながら市内を1周し、橋を2回渡るというのが慣例だという。はっきり言って、目立つことうけあいである。普段は過激な走りを見せる中国の車も、こういう時はゆっくりと、堂々と走る。「私たちは結婚します、皆さんどうぞよろしく!」と見せているようだった。





 披露宴会場であるホテルの前につくと、大量の爆竹が勢い良く鳴らされる。運悪く、後方の車に乗っていた私はこの音を聴くことができなかった。後日、他の結婚式で鳴らされた爆竹の音をたまたま聴くことができたが、まるで銃撃戦でも始まったかのような音だった。吉日にはこれが市内のあちこちで鳴り響くという。

 

 関係者の乗った車がすべて会場に到着すると、新郎新婦が車から降りる。クラッカーが鳴らされ、紙吹雪が飛ぶ。ここでもう一つの儀式が行われる。本来ここは「一生君の家」という設定であり、長青さんが(嫁)が一輪の花を一生君のお母さん(姑)の頭にさす。それと引き換えに一生君のお母さんは長青さんに日用品の入った赤い風呂敷包みを渡すのである。昨日用意したあれである。ここで初めて、長青さんは一生君のお母さんに対して「おかあさん」と呼ぶことができるというわけだ。(形式的なものなので、婚約した時点で「おかあさん」と呼んではいたそうだが)

 

 披露宴会場へ入ると広い会場にはどこから集まってきたのか大勢の人々が席に着いていた。前方のステージでは楽団が入っており、中国の伝統音楽を演奏し続けていた。

 式場の様子。(28.8k/Mono)



 友人や、お世話になった人のスピーチがあり、新郎の父親からの挨拶と続く。中国人の中国語によるスピーチは日本人の通訳が入り、日本語のスピーチは中国人による通訳が入った。国際結婚らしい雰囲気が出ていた。その後、伝統的な儀式が二つほど続く。

 まず、双方の両親に対して「育ててくれてありがとう」という意味で楽団による演奏をバックに三度頭を下げる。ただし、日本では葬儀の習慣と同じになってしまうので、今回は日本の文化にも配慮して二度だけ頭を下げるということになった。

 儀式の様子。(28.8k/Mono)



 もう一つの儀式として、「交杯酒」がある。日本の三三九度のようなものだが、中国式は少し違った。小さいグラスに酒を注いだ状態でお互いの腕を通し、交差させて自分のグラスの酒を飲むというものらしい。今回は司会の人が、それだけでは面白くないからということで、首に手を回してお互い自分の酒を飲む、ということになった。楽団による演奏をバックに司会者が新郎新婦を祝う歌をうたう。中国式のラップのようだった。

 「交杯酒」(28.8k/Mono)


 それが済むとあとは宴会モードに突入、というわけだ。楽団の演奏・歌などの余興の他、親戚や留学生たちによる歌やダンス(?)、楽器演奏等が披露される。日本語の歌も飛び交う。
 その間、新郎は煙草とライターを持ち、新婦はお酒とグラスを持って、二人でそれぞれの円卓に挨拶回りをする。キャンドルサービスのようなものだろう。日本と違い、式場内に新郎新婦の席は無く、二人ともずっと歩き回っているので大変だろうと思う。それにしても新郎は式の間はスーツで通すが、新婦はお色直しが多い。それも日本のように「装い新たに登場です!」みたいに華々しく出てくるのではなく、いつの間にか着替えている。ウエディングドレス、青いドレス、ピンクのチャイナドレス、青いチャイナドレス、白いチャイナドレスと次々ときれいなドレスで会場を盛り上げていた。

  ←楽団の人たちも宴会に加わる。

 これでお開きにしますといった言葉は特になく、みんなある程度騒ぎ、ある程度食べたら「おめでとう」を言ってぽろぽろと帰っていく。空いた円卓から順に、ホテルの従業員たちが次々と皿に残った料理をナイロン製のテーブルクロスにほおり投げ、瓶やグラス・皿を回収すると、テーブルクロスごと丸めて口を縛り、厨房の方へ持っていく。円卓の天板を取り外し、脚をたたみ、天板をごろごろと転がしてステージの袖の方に持っていく。隣の卓で食事をしていようと話をしていようと、おかまいなしである。対する客も何の抵抗もなく談笑している。日本では考えられない風景だが、これも文化の違いなのだろう。

 その後、二次会は韓国料理屋に移動し、留学生や一生君の両親を交えて様々な体験話に花が咲いた。
 籍は今年の7月18日に入れていた二人だが、式を終えてようやく緊張感がほぐれた様子だった。
 あらためて一生君・長青さん、ご結婚おめでとうございます。お幸せに・・・。

 明日はいよいよ内モンゴルの大草原を見に、海拉爾(ハイラル)向かう。



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