『準文学』序文(−−−飛浩隆氏について)
飛浩隆って誰さ?
本誌を手にしておられるあなたなら、そんなことは先刻ご承知のはずですね。そう第1回三省堂SFストーリィコンテスト入選の、あのトビさんなのです。
ボクとトビさんのつきあいはもうそろそろ3年になる。彼に初めてあったのは昭和55年6月の、とある木曜日だった(と思う。)その日はSF研の入会説明日でボクは4コマ目の講義が終わってから、いそいそと集合場所の理学部1号館のロビーへと友達といっしょにやってきた。そこにいた人たちの名前を列記すると、久保さん・上杉さん・柳井さんと五十嵐・須山さんだった。(たしか、このとき山藤さんと近藤さんはいなかった。)このメンバーを見たとたん、本能的にヤバイ、と思ったのだろう、ボクがSF研にいっしょに入れようと連れてきた友達は「帰る。」と一言残してさっさと逃げてしまった。ひとりになってしまったボクはしょうがないので久保サンに「SF研の方ですか?」と声をかけた。
それからいろんな人に紹介してもらい、久保サンが持っていたアシモフの『神々自身』についての話しをした。(と言っても、ボクが『神々自身』を見て思わず、「こんなイモ読んでるんですかあ。」と叫んでしまったのに対して、久保サンがムキになってアシモフを弁護した、というだけのことである。)
そのとき、ボクはボクたちがいる隅とは反対側の隅から冷気が流れてくるのを感じた。さっきからそこに、こちらに背を向けてすわり、1人で本を読んでいる人物がいたのだ。ボクは久保サンに「あの人も入会希望者じゃないですか?」と言ってその人物−−−もうおわかりでしょうがこの人物こそがトビさんだったのです−−−に近づいて行った。そして「SF研に入会希望の方ですか。」というボクの呼びかけに応えて振り向いたトビさんの顔を見たとたんボクは思った。
−−−あ、この人とは仲良しになれない。
当初はそう思ったものの、つきあってみるとトビさんはなかなか良い人で、ボクとの共通点もわずかではあるが、見つかった。
まず、性格が明るくないこと。−−−余談になるが、ボクが2年の時のコンパの2次会でトビさんとYサンが2人でヒソヒソ話をしていた。その時のテーマは、あとで聞いたところによると「自殺について」というものだったんだそうである。−−−次に、少年時代いじめられっ子だったこと。
そして何より、2人とも海外SFのファンであり、特にアメリカン・ニューウェイブの周辺に興味の中心があるということである。ボクはディレーニィ、トビさんはしいてあげるならディックのファンである。−−−といってもこないだ話をしたとき、『ヴァリス』と『聖なる侵入』はまだ読んでいないと言っていた。
その上、彼はラテン文学やモダン・ホラー、果ては大友克洋まで読む。マルチプレックスという言葉が−−−島大SF研の中では−−−いちばんピッタリな人物である。
そのトビさんが今度は個人集を出してしまった。
小説を書きだしたのは「アステリスク」を出すようになってからというからまだ3年である。なのにこんな、すばらしい文章が書けるというのはやっぱり才能があるからにちがいない。−−−ただ彼の場合、文系のくせして生かじりの科学的アイデアを振りまわすくせがあり、それが唯一の欠点といえそうである。
ともあれ、彼には才能がある。発想が奇抜である。文章が上手い。ファンライターとしては98点ぐらいのハイマークをあげられるだろう。
どうか就職されてからも文章を書き続け、日本のスティーブン・キングを目指してほしい。彼ならそれが可能だと、ボクは思う。
島根大学SF研機関誌アステリスク別冊第1号『準文学』(1983/01/25)所収