デンマーク高齢者福祉最前線 1 

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これは1998年8月18日〜22日、「神戸新聞」に連載させていただいたものを神戸新聞社の許可を得てご紹介しているものです。

プライエボーリ(介護住宅)

 老人ホームからの脱却〜アクティブな生活期待〜

日本では2000年4月に介護保険の導入が予定されているが、 「超高齢社会」を迎え、高齢者福祉が抱える課題は多い。
日本より高齢化が速いヨーロッパの現状はどうか。
福祉の国・デンマークで高齢者福祉政策などを調査してきた西宮市在住のマーケティングプランナー、松岡洋子さんのリポートを紹介する。

昨年七月コペンハーゲンにできたプライ
エボーリ「ベラ・フース」の内部。

 

 デンマークのお年寄りは「できるだけ長く自宅で」という政策の下、訪問看護婦・ホームヘルパーの在宅ケアを受けて自宅で暮らしている。衰弱が進んだ時、最後の生活の場として用意されているのが「プライエム」(日本の特別養護老人ホーム)である。そして今、デンマークでは「プライエム」から「プライエ(介護)ボーリ(住宅)」への改築作業が進行中である。
 大きな違いは、前者(プライエム)が広さ約20Fの個室であるのに対して、後者はミニキッチン付きのリビングと寝室が別になり、40Fの広さが確保されている点である。しかし、どちらも「終(つい)の棲家」であることに変わりはなく、入居しているのは一人では生活できなくなったお年寄りである。だから、食事は建物内の食堂で一緒にとり、洗濯もスタッフ任せである。
 現在、福祉予算は節約の方向にある。なのに、一見費用がかかりそうに思えるこの移行は何を意味するのか。まず第一に、いくら衰弱したとしても「人間として価値ある暮らし」をするためにはこれ位のスペースは必要である、という生活の質の問題があげられる。老人ホームの個室化すら進まない日本からすれば、夢のような話である。
 さらに大きな理由として、デンマークの高齢者福祉が、プライエムなどの手厚い介護・看護を提供する「施設ケア」からいよいよ本格的に抜け出そうとしている点を見逃せないだろう。1998年7月施行の「新社会法」は「困った人に手を差しのべる福祉」から「目標と責任をもって生きる人を助ける福祉」への移行を明確に打ち出している。「受動から能動へ」の転換である。
 つまり、プライエムはケアがセットになった依存・受動型の「施設」。それに対してプライエボーリは「終の棲家」でありながらも、適度なケアを提供する自立・能動型の「住宅」に近いイメージをもっている。いま新築・改築で高く払ったとしても、人的費用の面で長期的節約につながるということか。
 これからプライエムはどんどん少なくなり、プライエボーリへと姿をかえていくであろう。デンマークのお年寄り達は、人生最後の場面においても、これまで以上に豊かに暮らすことを保証され、アクティブに生きることを期待されているのである。

              (高齢者マーケティングプランナー 松岡洋子)

 

<デンマーク・メモ>

小さな生活大国

デンマークは九州とほぼ同じ面積で、人口わずか529万。財政支出の43.5%が社会福祉費にあてられる文字どおりの高福祉国である。67歳以上の高齢者70万人に対してプライエムは35000人分。高齢者20人に対して1居室の割合である。

 


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