デンマーク高齢者福祉最前線 5 

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デンマーク高齢者福祉最前線 5   

1998年8月18〜22日、「神戸新聞」に連載させていただいたものを、
神戸新聞社の承諾を得て紹介しています。

補助器具

障害ある人に無料貸与〜必要度を重視、自立促す〜

大きなリフトを備えた住宅改造の
モデルルーム。
 

 歩行が困難、手が使いにくいなど、普通の生活が難しくなったお年寄りにとって、補助器具は重要な意味を持つ。とくに下半身が不随になった時など、電動車椅子は価値ある暮らしをする上で不可欠となる。
 そして、デンマークではこうした補助器具が無料で貸与され、取っ手をつける、段差をなくすなどの住宅改造もコミューンの負担で行われている。
 例えばフレデリクスベア市の補助器具センターでは、ベッド、リフト、車椅子から杖(つえ)、ナイフ、ルーペにいたるまで3000種を超える補助器具が所狭しと展示されている。常時電話で相談を受けるが、毎月最終木曜日がオープンデーとなっており、実際の器具を見ながら作業療法士のアドバイスを受けることもできる。9名の作業療法士が専属で相談にあたり、新しく電動車椅子を選定する場合は、スーパーまで一緒に出かけて、実際の使用場面で不備はないかチェックする。そして不要になった器具は返却され、リサイクルされる。
 1998年7月に施行された「新社会法」において、「補助器具」は「障害のある人が普通の生活をするために必要な補助的な器具」という明確な定義を与えられ、「一般商品」とはっきり区別されることとなった。テレビを見る時、快適に使えるアームチェアなどは特別な場合を除いて「一般商品」と判断され、今後は「補助器具」の対象外となる。その代わり、以前は自己負担となっていた200クローナ(4000円)以下の器具については、この枠が取り除かれることとなった。拡大しすぎたサービスを縮小して、必要度の高いところにきちんと公費投入していこうという実質的なスリムアップの感がある。
 さて、5回にわたってデンマークの高齢者福祉の最前線についてお伝えしてきたが、ポイントは「予算の有効活用」と「高齢者のさらなる自立」という点に集約できる。
「予防」にかなり力を入れ始めていることにも着目したい。予算節減の方向にあると言っても、短絡的なカットは行わず、次の時代へ向けて長期ビジョンを描き、効果的に予算を投入していくやり方は見事という他ない。
 日本は今、介護保険の話題一色である。しかしちょっと視点を変えて、要介護状態になる以前にすべきことはないか。そういう議論を始めてみてもよいのではないだろうか。

        (高齢者マーケティングプランナー 松岡洋子)

=おわり=

 

<デンマーク・メモ>

生活に溶け込む補助器具

人口89000人、65歳以上の高齢者17000人のフレデリクスベア市において、年間の相談件数は約4000件。補助器具購入だけで年間予算3億円、別に住宅改造のために3億円の予算が組まれている。ちなみに97年は100万円を超える電動車椅子が40台貸し出された。

 


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