デンマーク高齢者福祉最前線 3 

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1998年8月18日〜22日、「神戸新聞」に連載させていただいたものを
神戸新聞社の許可を得てご紹介しています。

民営化(民間委託)

サービス向上へ施設競争〜外国企業にも運営委託〜

「マルガレーテルンド」の外観。
広い緑の芝生の上に建ち、別荘のような趣がある。
 

 デンマークの福祉は、徹底した地方分権の下、公共の手で押し進められてきた。しかし今、デンマークにも高齢者福祉の分野で民営化の波が押し寄せており、ホームヘルパー部門では民間企業に委託するコミューン(市町村)が増え、企業間の競争も始っている。
 「PBH」は、女性社長のピアさんが率いるホームヘルパー派遣企業。年商1億円の中堅企業で、売上げの65%を市からの委託が占めている。ピア社長はこう分析する。「お年寄りは市のヘルパーの仕事に満足していません。ヘルパー自身も慢性的な不満を募らせ、市はリクルートに苦労しています。仕事の質に対する要求は高まる一方ですから、民間委託は当然と言うべき時代の趨勢(すうせい)です。」
 さらに、今年7月施行の「新社会法」によって、個人が民間企業のホームヘルパーを選べるようになることから、新規参入とさらなる競争の激化が予想されている。
 プライエム(日本の特別養護老人ホーム)にも新しい動きがある。昨年2月、ヒョースホルム市に誕生した「マルガレーテルンド」。ここは、市の住宅公団がプライエムの建物を用意し、スウェーデンの企業「パティーナケア」が運営にあたっている。35部屋あって、家賃6000クローナ(約12万円)。市の施設と比べて50%以上高い設定である。市からは看護婦一名が派遣されているが、他の介護職員は「パティーナケア」の社員である。 
 ところで、デンマークにはセルアイネ(自治運営)と呼ばれる法人形態があり、民間活力を上手く利用してきた歴史がある。予算を配分して運営を任せるというもので、実際に老人ホームの約23%がセルアイネである。自由な運営体制の下、施設ごとに個性が表れ、そこに競争原理がはたらいて、全体として施設の質の向上に役立っている。しかし、運営主体は赤十字などの歴史ある非営利団体である。そういう意味でも民間企業に運営を任せるというのは、ちょっとした驚きである。
 デンマークでの福祉分野における民営化は、より質の高いサービスを求める市民の声と予算の有効活用を目指す行政の思惑を背景に、ユニークな融合の形が模索され続けることであろう。

(高齢者マーケティングプランナー 松岡洋子)

 

<デンマーク・メモ>

在宅ケアは人海戦術

コペンハーゲン市で在宅ケアサービスを受ける高齢者は約19000世帯。3300人のホームヘルパーが家事・買い物・入浴を、400人の訪問看護婦が包帯交換・注射・投薬にあたる。なんと年間予算は、8億クローナ(約160億円)。

 


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