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絵話

アリのお姫様

南の緑豊かな島にアリの女王様が住んでいました。
この前、そのアリの女王様に、それはそれはかわいいアリの赤ちゃんが生れました。
アリの赤ちゃんはすくすく育ちアリのお姫様になりました。
女王アリのお母さんは、お姫様には将来立派な女王アリになってほしかったので、お姫様を学校に入れることにしました。
さて、学校はどこにあるのかと言いますと、島には大きな池がありましたが、その池の真ん中の小さな島に学校がありました。

女王様にはどこへでも飛んでいける羽があったので、お姫様を自分の背中に乗せると、池の真ん中にある島まで飛んでいきました。池の真ん中にあったので、学校の名前は「池の真ん中学校」と呼ばれていました。

池の真ん中学校の校長先生は、トノサマガエル先生でした。
他の先生方もみんなカエル先生でした。
女王アリのお母さんは、校長先生に「うちの娘をよろしくお願いします」と言いました。
お姫様には「先生方の言うことをよく聞くんですよ」と言い、
お母さんはお姫様を残して一人で飛んで帰りました。
お姫様には、何もかもが突然に思えて、池の真ん中学校の新しい生活がはじまりました。

お姫様は、お母さんはいったい何を校長先生に「よろしくお願いします」と頼んだのか気になりました。それに、先生方とはまだ何も話していないのに、「言うことをよく聞くんですよ」と言われたのも不思議に思いました。

お姫様は、いつものように何かまわりに遊べるものはないかと探しはじめました。
見ると学校の周りには、高い木がありました。
これは楽しそうだと、お姫様が木に登ろうとすると、
「女の子が木に登るなんてとんでもない!」と、校長先生が怒りました。
そして、校長先生はお姫様を教室に連れていきました。
「最初にヒキガエル先生の算数のお勉強をしてもらいます。先生、どうぞ」
と、校長先生が言うと、ヒキガエル先生が教室に入ってきました。

ヒキガエル先生は、三角の板を脇にはさんで、
長い棒を鼻の上に乗せて入ってきました。
何か面白そうなことがはじまるかもしれないとお姫様は思いました。
ヒキガエル先生は、三角の板と長い棒を教壇の上に置くと、
「それでは、まず学校の周りにある木の数を数えてみましょう」
「はーい!」と、お姫様は元気良く返事をしました。
今度こそ木登りができるんだと思いました。
「わたし、木が全部で何本あるか数えてきます」
と言って、お姫様は教室を飛び出そうとしました。
「外に出てはだめです。教室にいて木の数を数えるのです!」
と、校長先生がどなりました。
「でも、木は外にあるよ」と、お姫様は言いましたが、
「ちゃんとヒキガエル先生の方を見ているのです!」と、またどなられました。

ヒキガエル先生は、黒板に木の絵を描きはじめました。
「この学校の東には1本の木があります。西には2本、南には3本、北には4本の木があります。さて全部で何本あるでしょうか?」
「本当に東に1本、西に2本、南には3本、北には4本の木があるのか、わたし見てきます」
と言って、お姫様が外に出ようとすると、また校長先生にとめられました。
「ちゃんとヒキガエル先生の方を見ているのです!」
「いいですか? この黒板の絵を見て、足し算をすれば木の数が分かります。 1たす、2たす、3たす、4ではいくつでしょう?」
お姫様には、ヒキガエル先生が何を言っているのかよく分かりませんでした。
お姫様は、外に行って数えた方がちゃんと数えることができるのにと思いました。
ヒキガエル先生が描いた木の絵はとても上手でしたが、
本当の木は外にあり、その答えも外にあるのにとお姫様は思いました。
「あなたはさっきから外に出ることばかり考えているようだね。 じゃあ、今度は外で体育の授業をしましょう。ついてきなさい」
校長先生はそう言って、お姫様を外に連れ出しました。

体育の先生は、身の軽いアマガエル先生でした。
「この線からどれくらい飛べるか、一度飛んでみなさい」
「お母さんのように羽がないので、わたしはまだ飛べません」
「空を飛ぶんじゃないんだ。ジャンプするということなんだ。じゃあ、一度先生が見本を見せてあげよう」
アマガエル先生は、そう優しく言うと大きくジャンプして、
お姫様と校長先生の頭の上を飛び越しました。
「わあ、すごいすごい。もう一度見せて」と、お姫様は手をたたいて喜びました。
「私が飛ぶんじゃないんだ。君が飛ぶんだ!」
と、アマガエル先生はちょっと怒った感じでいいました。
「でも、わたし、アマガエル先生のように高く飛べない」
「飛べないから、練習をして飛べるようになるんだ。さあ、やってごらん」
お姫様は、線のところに立って大きくジャンプしましたが、
その場で少しジャンプしただけで、アマガエル先生のようには飛べません。
「どうして、やる気を起こさないんだ! 教えがいのないアリだ!」
と、アマガエル先生は、怒ってどこかへ飛んでいきました。

もっと高く、もっと遠くへとアマガエル先生はおっしゃいますが、
どこに向かって飛ぶのか、どんなふうに飛ぶのか、
お姫様には分かりませんでした。
何を目標に飛んだらいいのか、どうして飛ばなければならないのかも、
お姫様には分かりませんでした。
お姫様は、だんだんつまらなくなって疲れてきました。
「ほら、ごらんなさい。あなたがやる気を出さないから、アマガエル先生を怒らしてしまったじゃないか! まったく、しょうがない子だ。少しは反省をしなさい」
そう言うと、校長先生もどこかへ行ってしまわれました。
一人ぼっちになったお姫様の耳に美しい歌声が聞こえてきました。
教室で誰かがピアノを弾きながら歌っているようです。
その歌声は音楽室から聞こえてきました。

教室に入ると、ピアノを弾きながら歌をうたっていたのは、カジカ先生でした。
「音楽が好きなのね。じゃあ、一緒に歌いましょうか?」
「はい」
お姫様は、歌が好きでした。だから大きな声で歌いました。
「だめだめ。そこはそうじゃないの。楽譜をちゃんと見てごらんなさい」
「わたし、楽譜が読めないの」
「楽譜も読めないようじゃ、歌はうたえないわよ」
と、カジカ先生は美しい声でお姫様をいさめました。
ここでもまた、あれはいけない、これはいけない、
規則と仲良くしなさいとお姫様を追いつめました。
「音を楽しむことが、音楽なのよ」とお母さんに教わったのに、
楽しめない音楽って何だろうとお姫様は思いました。
そのまま、またお姫様は外へ飛び出しました。

お姫様は、一人で池のほとりにたたずんで、
ふと池の向こう岸をながめました。
そして、もしも羽が生えていたら、
お母さんのところに今すぐ飛んでいけるのにと思いました。
「お母さんは、いったい校長先生に何をよろしくお願いしますと頼んだのかしら」
お姫様は、ぽつりとひとり言を言いました。
その時、誰かの笑い声が池の中から聞こえました。
耳をすましてよく見ると、メダカたちが楽しそうにおしゃべりをしながら泳いでいました。
「これは、いつかお母さんが教えてくれたメダカの学校のメダカたち」
メダカの学校って楽しそうだなあと、お姫様は思いました。
池の真ん中学校もメダカの学校のように楽しくならならないのかなあと思いました。

池の真ん中学校とメダカの学校との違いは何かなと、お姫様は考えました。
池の真ん中学校には、ちゃんと先生もいるし、生徒もいる。
お母さんたちも外から見守ってくれているみたいだけど、
「それでいいのかな」とお姫様は思いました。
メダカの学校では、誰が生徒か先生かわからないみたい。
誰がお母さんでお父さんかわからないみたい。
先生も生徒もお母さんたちも、みんな学校の中にいて、みんなで勉強しているみたい。
池の真ん中学校もみんなの学校になればいいのにと、お姫様は思いました。
お姫様はなぜか涙が出てきて、
それが池に波がたってゆらゆら揺れているように感じました。
いつしか気がつくと、そばに大好きなお母さんがいました。
お姫様は池に映る自分の姿を見て、
お母さんと同じ羽が生えているのに気がつきました。

お母さんが、「飛んでごらん。自信を持って」と言いました。
お姫様はゆっくり羽を広げると、
お母さんのようにふわりと体が宙に浮くのを感じました。
そして、二人は池の向こう岸に向かってスピードを上げました。

参考:絵話「アリのお姫様」

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