新美南吉「二ひきの蛙」

　　緑の蛙と黄色の蛙が、畑の真ん中で出くわしました。
　　「やあ、君は黄色だね。きたない色だ」と緑の蛙。
　　「君は緑だね。君は自分を美しいと思っているのかね」と黄色の蛙。
　　こんなことを言っていたら、喧嘩するしかありません。

　ばったり畑の真ん中で　二匹の蛙が顔合わす
　緑の蛙はとびかかり　黄色の蛙は砂ぶつけ
　そのとき風が吹いてきて　冬の季節を告げました
　二ひきの蛙は思い出す　もうすぐ冬がやってくる

　春が来るまで　この勝負　お預けにして　冬支度
　緑の蛙は土を掘り　覚えていろよと潜り込む
　黄色の蛙も土を掘り　覚えていろよと言い残し
　びゅうびゅう北風吹いてきて　土の上には霜柱

　やがて雪が解けまして　春が巡りやってきた
　背中の土が温かく　二匹の蛙に春を告げ
　土から這い出し　顔を合わす　去年のことを思い出す
　やあやあ　まずは泥を落とそう　池にずぶんと飛び込んだ

　体を洗った緑の蛙　君の黄色は美しい
　すっかり目覚めた黄色の蛙　春の日差しを浴びながら
　君の緑も素晴しい　喧嘩はようそうと仲直り
　よくよく眠ればその後に　やってくるくるご機嫌が

　からからからくりのぞきからくり　これにて『二匹の蛙』はねました

* 語り節の中にチョイト・チョイトチビチビなどの合の手が入る
* 2尺（1尺は約30.3cm）の2本の棒で調子をとりながら語られる
「二ひきの蛙」の台本 　長所とか短所とか 　動物の音まねを楽しむ

新美南吉童話集 (岩波文庫)
新美 南吉 (著), 千葉 俊二
新美南吉（1913-43）は，わずか29歳，2冊の童話を出版しただけでこの世を去ったが，底抜けに明るく，ユーモアと正義感にあふれた彼の童話は，今日多くの人の心をとらえ，賢治，未明，三重吉らとならぶ児童文学の代表的作家の1人となった．「ごん狐」「おじいさんのランプ」「最後の胡弓弾き」「花のき村と盗人たち」等14篇を収録．
文庫: 332ページ
出版社: 岩波書店 (1996/7/16)

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