人形劇の脚本自分ひとりで人形劇をするとき、劇の台本を人に見せるわけでもありませんので、自分だけおぼえておけば特に台本はなくてもいいでしょう。頭の中に入れておくだけです。複数のスタッフでするときは、台本はあったほうがいいです。読み合わせの練習でも、劇の進行を把握する上でも、変更になった部分を確認するときも、人形劇の台本は必要です。自分の台詞も相手の台詞もわかります。台本が一冊あれば、たとえキャストが変っても劇の内容を受け継ぐことができます。 ちなみに人形劇や演劇では脚本と言いますが、映画やテレビドラマなどではシナリオと呼ばれます。舞台演劇では戯曲と呼ばれ、文学作品の範疇でとらえることもあります。広くは脚本と呼ばれ、脚本は台詞とト書きが書かれた劇の設計図のようなものです。それで手渡せれた本が台本です。台本を元に人形劇の公演が進行します。 人形劇の台本の表紙には、劇のタイトルがあります。例えば、「わにくん、ははは」と。原作があれば、その題名と作者名を入れておきます。ページをめくると登場人物と道具を記載します。物語にどんな人物や動物が登場するのか、どんな道具が出てくるのか列挙しておきます。配役を決めるときにとても便利です。また、大筋を書いておきます。あらすじがあると、みんなで人形劇をするときの意志統一にもなります。
人形劇の脚本は、人形の台詞やト書きなどで構成されています。ナレーターで話が進行してもいいですが、普通は人形たちの台詞のやり取りで進行します。普段私達が生活しているときと同じです。「ぼくは冷蔵庫を開けました。ジュースがあるかなと思いました」とか何とか言いながら冷蔵庫を開ける人はいません。「ジュースはあるかな」と言って開けるでしょう。それとも何も言わずに開けるだけです。人形劇の台本には、「ジュースはあるかな(主人公冷蔵庫を開ける)」とあるだけです。もしくは台詞がなくて「主人公が冷蔵庫を開ける」と動作説明があるだけです。 子「ジュースはあるかな」、母「ミルクならあるよ」、子「ぼくはジュースがいいの」、母「今度買っておくから」というように台詞のやり取りで進行します。また接続詞を使っての台詞も少ないです。台詞と台詞との間に見えない接続詞があってみんなつながっています。日常会話を考えてみてください。だから・そして・したがってというような言葉をあまり使わず会話しているでしょう。みんな会話として成り立っているからです。人形劇の脚本も会話として成り立つ台詞で出来ていて、物語が進行します。 人形劇に限らず舞台でやるお芝居においては、上手下手が大事です。マナーにおける上下をわきまえていると、その場のバランスが取れているように見えます。奇を衒うのでなければ、基本的に上下を考えて舞台のバランスを取ります。観るものにとって観やすい劇になります。たとえば、劇の主役は上手に位置します。だけどある場面では、別の登場人物が主役なら、その場面では劇の主役でなくても上手に配置します。大小で言えば、大きいものを下手に持ってきて、小さいものを上手に持ってきます。その方が安定した構図になります。
また下手から登場して、上手に話が展開すると、未来に向けて話が進みます。下手から出て上手で演じて、そして下手に帰ることによって芝居が収束します。脚本を作るとき、どこから人形が出て、どこへ退場するかで、意味が違ってきます。そのこと考えて脚本を作ります。そうすることによって観客が理解しやすい劇の展開になります。 劇団員の数によって脚本に登場する人物の人数がある程度決まります。基本的には一人一体の人形を持ちます。舞台の大きさによって登場人物の人数が制約されます。小さな舞台では何人も蹴込の中に隠れられません。一人何役もしないといけないことも起こります。舞台転換は誰がするのか、道具の介添えは誰か、照明は誰かなどといったことの問題が起こり、台本が出来たからと言って理想の人形劇ができるとは限りません。出来た脚本をもっと脚色せざるおえなくなったりします。 では実際どのように脚本を書いていくのか。言葉はよく生きていると言われます。舞台で言う台詞も生きているのです。人形劇俳優の感情や心の動きが表現されるのが台詞です。その言葉と人形の動きがあいまって、お客さんの心をとらえるのです。科白となって人形劇が表現されます。一本調子の台詞では、舞台から客席に伝わるものはありません。脚本家はそのことを知って脚本を作ります。 俳優と同じような気持ちになって脚本作りをします。泣いている台詞の部分は、泣きながら書きます。そうするとその場面にいちばんあった言葉が台詞として出てきます。おかしければ、笑いながら書いていきます。一本調子で書いていくと、平坦な文章ばかりになります。観客に伝わらないし、その前に俳優自身に伝わりません。脚本を書いている姿は決してきれいなものではありません。机の上で七転八倒しています。一人で全ての登場人物の役をしなければいけないのですから。そうして生まれてきたものが人形劇の台本となります。 孤独のすすめ 人形劇の脚本の書き方 リアルな人形劇 台本の推敲
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